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第01話「ゴミ捨て場の声」


 魔法とは、“評価される言葉”のことである。


 金細工のように装飾された詠唱端末から、神域へと放たれる完璧な構文。それは韻律、間合い、演出、構文美に彩られ、神々の注視を誘う。


 イイネは火力に。コメントは加護に。シェアは拡散に変わる。

 これは、神々の評価によって形を成す、発信の魔法だ。


 この社会では、貴族だけが魔法を使える。彼らは代々「フォロワー」を継承し、「詠唱支援精霊」の補佐を受けて、神々に言葉を届ける。


 庶民はフォロワーゼロ。詠唱端末を持つことすらできない。

 

 教室の中央では、エルス=ヴァルディアが詠唱を終えていた。


 「さすがエルス様、構文もリズムも完璧です」

 「“火花落下式”の演出、きっと神々も高評価をしてますよ!」


 ヴァルディア家の嫡男。数万のフォロワーを持ち、詠唱支援精霊とともに構築した演目は、まさに公式の見本だった。


 神々の評価が反映された魔法を、ハイクは教室の隅から見つめていた。


 彼は詠唱端末を持たない。フォロワーもゼロ。

 孤児として庶民のまま入学した彼に、魔法は存在しない。


 眩いばかりの評価の波が教室を満たす中、ハイクは胸の奥で密かに疼くものを感じていた。今日は、ハイクの誕生日だった。誰にも祝われることのない日。それでも心のどこかで、何かが変わることを期待していた。これまでも、授業中の冷ややかな視線や、貴族の子たちの誇示する構文詠唱に、何度も何度も心を押し殺してきた。文句ひとつ言わず、ただ黙って耐えてきたのだ。そんな中、授業で披露された詠唱は、かつて彼がひそかに書き留めていたフレーズと酷似していた。言葉にしたくても届かない感情。憧れとも違う、諦めとも違う、もっと湿ったものが、喉の奥に引っかかっていた。


 「……あんなふうに、俺も。いや、違う……」


 心のどこかで、誰にも届かない言葉があることを知っていた。けれど、それを誰かに真似されたような気がして、自分の中にだけあったはずの何かが踏みにじられたような気がして、じっとしていられなかった。評価がなければ存在すら許されないこの世界で、それでも何かを伝えたいという想いだけが、ひっそりと彼の中に根付いていた。


 放課後、ハイクは校舎裏の立入禁止区域――旧詠唱研究棟の残骸へと足を運ぶ。かつては、評価されなかった詠唱や失敗作の端末が廃棄される“言葉の墓場”と呼ばれていた場所だ。

 瓦礫に覆われたその場所には、詠唱端末の破片が風にさらされていた。


 「……届かなくてもいい。せめて、言っておきたかっただけだ。」


 誰に教わったわけでもない、構文でも構成でもない、“ただの言葉”。

 ハイクはそれを静かに吐き出した。


 その瞬間、足元の金属片が青白く光る。


 ――カチリ。


 古びた詠唱端末の残骸が、淡く明るみを帯びた。


 『……誰だ。』


 思考に直接響く声。支援精霊の音声ではない。


 『今のは……発信か?』


 『構文なし。支援なし。評価も望まず……だが、確かに言葉だった。』


 『精霊を使わない生の言葉――それだけが、俺の起動条件だ。』


 スクリーンに浮かぶ名――【VOX】


 その名は、神々の記録から抹消された、異端の詠唱者。


 『新規詠唱者「@Haiku」が配信を開始しました』


 通知が表示されたとき、世界は一瞬だけ揺れた。



 数多いる神々のうち、ただ1柱がその発信に反応していた。


お読みいただき、本当にありがとうございます。


本作『詠唱は発信、評価が魔力。無名の俺が神にバズるまで』は、「言葉」が「魔法」になる世界で、評価されることのない少年が自分だけの声を見つけていく物語です。


第1話ではまだ小さな“発信”にすぎませんが、これがどんな波紋を広げ、どんな神々の目に留まっていくのか――ゆっくりと見守っていただけたら嬉しいです。


これが初めての作品となります。至らぬ点もあるかもしれませんが、少しずつでも物語を磨いていければと思っています。

感想や応援、神々の“イイネ”をいただけたら、それが何よりの魔力になります。


それでは、次の話でまたお会いしましょう。

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