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第00話「プロローグ」
天上に、言葉が舞う。
火のように。花のように。
完璧な構文が、ひと握りの“語る者”たちによって紡がれ、
金細工の詠唱端末から神域へと“発信”されていく。
詠唱は、評価されるためのものだ。
韻律、間合い、演出、構文美。
選ばれた者たちが、支援を受けて磨き上げた言葉は、
天に向けて放たれ、無数の“視線”に晒される。
そして、評価された言葉は魔法となり、現実に影響を及ぼす。
魔法は“発信”によって起動する。
神々のイイネは火力に、コメントは加護に、シェアは拡散に変わる。
神々――見えざる観客たちが、沈黙の中でその言葉を評価する。
気まぐれに、あるいは、残酷に。
そして、その“評価の届かぬ隅”で、ひとつの通知が静かに灯る。
【新規詠唱者「Haiku」が配信を開始しました】
だれも気づかない。いや、気づかれてはならない。
その言葉が、どこに届くかなんて――誰にも、わからないのだから。