栄光のスリーポイントシュート
観客席の大歓声が響き渡るコート。
今日は全国高校バスケの決勝戦。
3連覇を目指す名門T大学附属高校は劣勢に立たされていた。相手は地元で不良高校として有名だったK工業高校。2年前に就任した熱血教師がバスケットボールを通して不良達を更生させて、力を付けた元不良達が全国大会で快進撃を見せる。そして決勝で対峙するのが名門T大学附属高校なんだからマスコミは大喜びだ。
観客もK工業高校を応援する声が圧倒的だった。
そんな中ベンチで唇を噛みながらコートを見つめる男がいた。彼の名前は越後直樹。越後は身体能力に秀でているわけではないむしろ中学生時代から地元で活躍していた選手が集まるT大学附属高校のバスケ部の中では相対的に身体能力が低いと言わざるを得なかった。
ただ彼には「点取り屋」としての才能があった。
美しいフォームから繰り出されるスリーポイントシュートは面白い様に決まり、監督から「ウチの飛び道具」と全幅の信頼を得ていた。
越後は普段は控えだが劣勢の場面で「飛び道具」の出番がやってくる。第2クォーターがあと2分で終わるというタイミングで監督が越後に声を掛けた。
「越後、次から行くぞ。準備しておけ。」
越後は「はい」と短く返事をした。周りからは冷静な受け答えに見えたが越後の闘志は燃え上がっていた。
(こんな不良崩れのクズに優勝を取られるわけにはいかない)越後はこの試合に全てを賭けていた。
ハードなトレーニングも全て乗り越えていた。
しかし体力に劣る越後に名門大学からの声は掛からなかった。もちろん地方の大学からはそういった誘いも貰っていたがわざわざ地方の大学に行くくらいなら一年浪人して勉強して難関大学に入学して大企業に就職すると決めていた。
つまり今日のこの決勝戦が越後にとって最後の大舞台という事になる。
そして第3クォーターが始まった。
これまでK工業高校はフィジカルの強さを活かしてディフェンスからの速攻で点を積み重ねリードを広げていた。
しかし飛び道具・越後が面白い様にスリーポイントシュートを次々と決めていった。
その流れに乗じてT大学附属高校の他の選手達も躍動する。気づけば逆転していた。観客席からはため息も漏れていた。そして逆転するやいなや越後を交代させた。飛び道具で流れを変え逆転したらすぐに下げる事で越後の体力を温存させる為だ。
「越後、よくやったな。もしかしたらまた出番があるかもしれないから気持ちは切らすなよ。」監督の言葉に越後は頷いた。
そしてゲームは進んでいった。
越後が下がった後も一進一退の攻防が繰り広げられ第4クォーターの残り時間5分でスコアは
(T大学附属77-69K工業高校)となっていた。
(これなら勝てる。)越後はそう思っていた。
しかしドラマというのは突然起こるものだ。
K工業高校が3本のシュートを決めて77-75にそして相手チームのリバウンドからの速攻でついにK工業高校は追い付いたのだ。この間わずか1分間の出来事だった。いつも冷静なT大学附属高校の監督も焦っていた。「越後すぐに準備して、カートに入ってくれ。おまえで流れを変えて勝つんだ。」
しばし呆然としていたが監督の言葉で我に返った越後は準備を始めた。
しかし準備を始めた最中会場が盛り上がる。
なんとK工業高校が逆転したのだ。
慌てて監督が越後をカートに送り込んだ。
しかしK工業高校は越後に厳しいマークをして越後に、T大学附属とっておきの飛び道具に仕事をさせない。
そしてK工業高校が2点リードを保ったまま試合時間は残り20秒を切った。
T大学附属高校ボールでドリブルやパスで攻めていく。
最後は越後でスリーポイントシュートで逆転だ。
T大学附属のメンバーと監督はそう思っていた。
そして絶好のポジションで越後はパスを受け取った。
(あとはここからスリーポイントシュートを決めるだけ)越後は美しいフォームでシュートを放っていった…
越後は浪人生として勉学に励んでいた。
元々地頭が良くあの地獄の様な練習を3年間乗り越えてきた精神力もある。そんな越後の能力を持ってすれば難関大学の合格も一流企業の就職も容易い事のように思える。
ただ一つ不安があるとするならば相手を見下して足元を掬われる事がよくあるので相手を見下して傲慢になってしまう事だけが心配だ。