その道をどう走るのか
しいなここみ様『500文字小説企画』参加作品です。
東北自動車道は雨だった。
俺の運転する軽自動車はアクセルペダルがスカスカで、ベタ踏みしたところで変な声で鳴くだけだろう。
だから俺は法定速度ギリギリで、ゆっくりと走行車線を走った。
赤いスポーツカーが追い抜いて行く。
サイドミラーで存在を知り、次に見た時は隣に並んでいて、そのままあっという間にはるか前方へ消えてしまった。
「カッケェなぁ」と俺は感嘆の声を上げた。
黄色いトラックが追い抜いて行く。
沢山の荷物の重みを感じさせる、激しい走行音を響かせながら、トラックはゆっくりと俺の横を抜けて行った。
「いつも、ありがたいなぁ」と俺は感謝の言葉を呟いた。
白い営業バンが追い抜いて行く。
中のサラリーマンは、運転しながらイヤホンで電話をしてるのか、ペコペコと頭を下げていた。
「お仕事、ご苦労様です」と俺は労いの言葉を漏らした。
軽自動車はあいも変わらず、ゆっくりと雨の東北自動車道を北上して行く。
俺の車は、速くもないし、荷物も乗らず、我武者羅に走る事も出来ない。
助手席を見た。
昨日の残業で疲れた彼女が、シートにもたれて寝息をたてていた。
俺は、俺の大事なものを、運べばいいんだ。
彼女の実家への道すがら、俺はそんな事を思った。
幕田はそこそこ長く小説を書いていますが、いろんな才能を持ったすごい人達が、幕田を追い抜いていきました。
幕田はたいした車には乗ってません。でも、自分にとって大切なモノだけは、ちゃんと乗せて走っていきたいですね。
そんな感じです。