2話
私はその日、ある駅にいた。その日が月曜日であったことを憶えている。その駅で歩いてた私の目前に高校生ぐらいの女の子が歩いていた。商談に遅れることを何としても避けたかった私はとぼとぼ歩くその姿にいら立ちを憶えた。ふらふらと左右へ揺れ、肩を落とし、頭は下を向いて、まるでマリオネットのようなその姿に不気味さを感じずにはいられなかった。
「二番線から列車が参ります、危ないですから黄色い線の内側に入ってお待ちください。」
無機質な音声がホームに響いている。この無機質な声を聴くと心の奥底を見透かされているような気がして嫌であった。私は人に心を読まれるのが心底嫌いだった。その温かみのない声が私の朝を表していた。
女子高生はふらふらと歩くのを止めると迫ってくる電車を眺めながら黄色い線を両足で力強く踏みしめた。息を精一杯吸った。背筋を伸ばし準備体操をするかのように。飛び切りの笑顔を見せる。
「グッドバイ」
飛んだ。
列車はその場所を何もなかったかのように通り過ぎた。列車が停まると赤い何かが線路と車輪の間から見えた。
女子高生のその姿を見た私は商談に遅れることを心配していた。立っている私の後から音が聞こえる。ぱしゃ、パシャ、シャシャシャシャシャシャ。そこには女子高生の心配をする人間は誰もいなかった。ただシャッター音と騒ぐ人々の声だけがこだまする。まるで花火大会で花火の写真を一生懸命、撮っているようだなと思った。
次の日、私は十時半に起きてビールのロング缶を一缶飲むと会社に電話を掛けた。