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異路  作者: くじら文学
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1話

 ふと私は外に出た。商業ビルから一歩踏み出し、世界を覗く。するとそこにはリンゴのような色をした空が広がっていた。またそこには葡萄のような色の影を映し出している。


 ビルの前には何物にも成れない人間が闊歩していた。首に木の棒でも刺さっているのかと感じるほどに垂れ下がった頭が目の前を流れていく。彼らの目はただ一点を見つめただ虚ろに光るだけである。

「くだらない、なにがそんなに不満なんだ」


 私はぽつんと言葉を口から垂らした。自分に言ったのか、それとも目の前を流れている人の波に対して言ったのか。自分でも分からなかった、いやどちらでもいい、そんな気持ちであった。


 私は人にそう言えるほど立派な人間ではないことを理解していた。この人生を全うするにおいて私は沢山の人間を傷つけ、陥れ、また踏み台にして生きてきた。少しでも気に食わないやつがいれば、最も傷つく言葉を選んで投げつけた。私を信じてくれた人達を私は真顔で見放し続けた。口では親友だ、愛しているなんて言っても本心ではそんな事、感じない。自分が成功するならばそれで良かった。人より損をしなければ、劣っていなければ安心した。傷ついた人、弱い人に同情なんて微塵も感じなかった。虐められるやつに原因がある。人に媚びるようなその視線が気に食わなかった。虐められないように自分を強く見せようとするその虚飾癖を心底見下した。会社に入社し、過去の友人、恩師、親戚、そして親友といった私を好いてくれた人々に対して商品を売りつけた。自身の業績が上がるにつれ孤独感、人との絆を金に換金していることに罪悪感を憶えた。知らない人、興味のない人にはそんな感情は抱くことはない。けれども、心を赦した人にそれをすることはできないと思った。けれども私は騙した。


 このころ、仕事終わりにサウナによく寄っていた。サウナに入った後、水風呂に入る。心臓がキュッとなる。だんだんと体の熱が冷水に伝わり、じんわりと心地よさが広がっていく。冷たさにどんどん慣れていく。最後には何も感じなくなる。このころはサウナが生きがいであった。サウナブームが終わる頃には私の罪悪感はなくなっていた。


 気力のない魚の卵のような虚ろな目をしている人々を見ると会社員時代を思い出す。それと同時に思い出すだけでも冷や汗をかくような記憶が脳で再生される。



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