97.ゲームのルールは複雑そうで……適当だぜ!
ドラミチャンの手の平の上であぐらを掻く。
視線を落とせば大霊峰のお膝元に広がる平野部に、灰色の石柱みたいな廃墟がずらり並んだ。
建築様式とか知らんけど、四角い箱みたいな高層建築だ。なんとなく、魔帝都のツインタワーキャッスルにも似ているな。
考古学者なら興味が尽きないだろうね。知らんけど。
まだ誰も調査なんぞしてないだろうな。
旧世界の遺跡、遺物が残されていても、人が踏み入れないのはこの地がドラゴンたちの聖地に数えられるからである。
人間が勝手に足を踏み入れれば、多種族に厳しいドラゴンたちにメッタメタのメタだ。
そんな聖地の空の上。
青を背景に百竜が並んで旋回していた。私たちが最後のようだ。
にしても、集まったドラゴンたちの色とりどりさ。金銀真珠に赤緑黄色に青。深紅と深紫。黒に加えて、中でもとりわけ位が高いらしい白っぽいのも混ざっている。
ダンスの輪に加わるようにして、ドラミちゃんも旋回飛行の隊列に加わった。
「で、ドラミちゃんや。ルールについてもう一度確認なんだが」
竜形態の妹ちゃんが念話で返す。
『あのねあのね! 水晶の板を身体のどっかに隠してるの! で、攻撃ヒットでパリンってされたら失格だよ!』
その際、砕けた水晶の板が光を発するらしい。魔法的なもののようだ。どのナンバーの板が破壊されたか大霊峰の頂点である、純白竜に伝わるんだとか。
「つまり叩いて被ってジャンケンポンの紙風船みたいなもんだな」
『なにそれぇ?』
「で、他に失格の条件は?」
『大霊峰から純白竜が咆哮したらスタートね。そしたら古戦場周辺に縄張り結界ができるの。でねでね、外に出て一定時間経っちゃうとパリン! って板が割れるんだって』
「結界が狭まるってことは、逃げ続けるわけにもいかんわけだ」
『そだよ! あとね、始まってからは空飛ぶの禁止。ドラゴンが飛ぶ時って、浮かぶ魔法が出てるんだって! それに反応してパリンってするから』
眼下の灰色の巨塔たちを見るに、建物の死角を利用したりよじ登ったりできそうだ。
「他になんか気をつけておくことってあるかなドラミちゃんや?」
『ぎょふのりかなぁ』
「ノリ? どういうノリなの? ノリツッコミみたいな?」
『んも~! 違うって! タイマンしてる時とかに、横から殴ってこられるとヤバイから! 要注意なの! 勝っても油断してると襲われるし!』
「なーほーねー」
つまり誰かがやりあってるところで様子見して、勝敗が決した瞬間、油断し消耗している勝者を狩りにいくのが有効ってわけか。
おそらく全参加者中最弱最萌ドラゴンのドラミちゃんが勝つには、この手に限る……と。
卑怯? 知らない言葉ですねぇ。
『お兄ちゃんなんか悪いこと考えた?』
「いえ、全然。まったく何も悪いことなんて考えるわけないじゃないか。あっはっはっ」
『あ、怪しいぃ』
「んで、他になんか気をつけとくことは?」
『ちかころかなぁ』
「なんだそのグラタンコロッケを挟んだバーガーみたいな単語は」
『誓って殺しはしません! ドラゴンの同士討ちは無しのやつ!』
「あーはいはい。で、私はどうすればいい?」
やろうと思えば広範囲に極大破壊魔法ぶっぱも出来るんだが――
『お兄ちゃんはサポートしてほしいかな』
「サポートねぇ。純白竜に会いたいんじゃないのか?」
『だ、だってぇ……お兄ちゃんの力だけで優勝していっても、純白竜に胸張って堂々と撫で撫でしてもらえないからぁ』
ドラミちゃん的には、ちゃんとがんばったご褒美にしたいわけね。
「どのくらいサポートしますかねぇ」
『あ、あの……ね……ウチよりつお~いお兄ちゃんに言うことじゃないけど、危なくなったらお兄ちゃん逃げていいから』
「そうはいかんだろ。私たちは二人で一人扱いなんだし。成り行きで来ちゃったけど、こうなったら一蓮托生。楽しんだもの勝ちの精神で行こうじゃないか」
『あうぅ……やっぱお兄ちゃんってすごいんだぁ。けどけど、あの……ウチ……参加賞でもいいし……』
「わかった。どれくらい助けるかは、お兄ちゃんの気分次第ってことで。逆にあんまり期待するんじゃないぞ」
『うん! ありがとね! 大好きお兄ちゃん!』
ドラミちゃんの好きにやらせて、本当に危なそうな時だけ実力行使ってあたりが落としどころかな。
あとはPONしそうになる前に、注意してあげる……と。
心にメモした瞬間――
不意に巨大な影がドラミちゃんに横付けすると、緑の壁が横から迫ってぶちかましてきた。
慌ててドラミちゃんの指にしがみつく。体当たりされたピンクの巨体が吹っ飛ばされた。
緑の壁――大蛇に翼と短い手足がついた、ほとんど蛇みたいな長くてデカい(体長ベースでドラミちゃんの三倍近く)が、首をこちらに向ける。
「グルオアアアアアアア?」
よろけた妹はなんとか体勢を整えた。吠える。
『ちょ! おま! なにすんねんにゃ!』
『ん? なんだぁ? あんまちっちゃくて見えなかったなぁピンクいの』
緑の蛇竜が目を細める。なんか蛇ってまぶたが無いらしいんだけどね、不思議だね。
先端が割れた舌をチロチロ出して挑発的だ。
『あ、謝って! ぶつかってごめんなさいって謝って!』
『ちっちゃい方が悪いんじゃねぇ? ケーッケッケッケ! そーだ開幕ファイトしようぜ! おまえ弱そうだし……ん? なんだ手の中の猿は? ペット同伴かぁ?』
カッチーン!
誰が美男子ですって。
方針変更。
「ねえドラミちゃん。お兄ちゃんキレちまったよ。開始と同時にコイツから血祭りな」
『え、えぇ……お兄ちゃん急にやる気だしてるぅ。おっさん死んだわ』
蛇竜が飛行しながらとぐろを巻いた。
『はぁ? 誰が死んだってぇ? それにオッサンちゃうぞ! まだ若竜だぞ! 2999.1歳やぞ!』
ドラゴンのくせに刻み方細か。
どうやら陰湿でしつこいのに目をつけられてしまったらしく、緑蛇竜はドラミちゃんの後ろにぴったり張り付いて編隊飛行に戻った。
間もなく、大霊峰の頂上から声が響く。
400年に一度の百竜大戦が幕を上げようとしていた。




