96.朝凸ピンクのドラゴンちゃん
ある早朝、まだ外が薄暗い頃――
ログハウスの自室にて、寝袋にくるまった私の上に重たいものがのっかっていた。
上からぴたりと覆い被さる。
猫の香箱座りみたいなうつ伏せ姿勢の……ピンドラツインテール妹である。
大きな胸で私の顔を挟むと、全身を上下に揺らした。
「お兄ちゃん聞いて聞いて! ウチね! 100位なんだってぇ!」
「朝っぱらから人の上に乗っかって暴れるんじゃありませんよ」
「暴れてないよぉ! 暴れたらおうちドカーン! だよ?」
「ドカーンしないで。お願いだから。お兄ちゃんががんばって建てたログハウスだから……ね? ほら、良い子良い子。ドラミちゃんは良い子だから、大人しく私から降りられるよね?」
下手に刺激してドラゴンモードに戻られたら、おもしろ家族が内部から崩壊(物理)だ。
ドラミはツインテールを揺らして「うんうん! できるよぉ! ウチできるから」と、ようやく私の上から退いた。
「で、何が何だって?」
寝袋を脱して立ち上がる。
と、ドラミが私にカードみたいなものを見せた。
水晶で出来た薄い板……だろうか。そこに100/100と刻まれていた。
「ウチが100位になってね、ちょうど締め切りになったんだぁ」
ピンドラはニッコニコだ。興奮しているようで、お尻の方から尻尾がデロンと伸びた。
ここで尻尾を床にビタンとされれば床が抜ける。
「よくわからんが、コーヒー飲みながらでいいか?」
「はーい!」
ビタン!
と、良い返事とともに床が抜けた。二枚ほど床板がベキッっている。
「あっ……ご、ごめんなさぃ」
「謝れて偉いぞドラミちゃん。以後、気をつけるように」
「うん!」
切り替えがくっそ早い。あとで床板張り直しだな、こりゃ。
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焚き火台に薪をくべる。湯を沸かしコーヒーを二杯作った。
まだシャンシャンもサッキーも夢の中だ。
魔力灯のランタンをテーブルの上に乗せる。
ドラミにカップを手渡した。
「ありがと~お兄ちゃん! 甘いの? 甘いのある?」
「牛乳は切らしてるが、砂糖は入れてあるぞ」
「よかったぁ。いただきま~す!」
ドラゴンになれば大地を焦がす火炎を吐くくせに、人間体のピンドラは猫舌なのか、ホットコーヒーをふーふー冷まして飲む。
「で、まだ薄暗い早朝からなんだって?」
「えっとぉ、ドラゴンはね、400年に一度、大きな大会するの。山の麓にある古竜の戦場ってところでにぇ」
「大会ってなにするんだ? じゃんけんか? ビンゴ大会とか?」
「んも~! ウチのお兄ちゃんってことは、お兄ちゃんもドラゴンなんだから、もっとドラゴンの常識もってください!」
「あっ……はい、なんか……すんません」
よくわからないまま怒られて、言われるままに謝ってしまった。
コーヒーで口を湿らせ、訊く。
「で、大会でなにするんだ?」
「バトルに決まってるじゃ~ん♪」
「殺し合いでもするんかね。物騒だなドラゴンってのは」
「しないよぉ? ほら、個体数減っちゃうのまずいからにぇ」
以前、ドラミちゃんをいじめてきた灰色竜も同じようなこと言ってたっけか。
「まさかドラミちゃんや。その大会に出るとか言うんじゃないでしょうね?」
「ご招待来たから、出ないのは頂上の純白竜に失礼になっちゃうし、逃げたら追放だし」
「というか、ドラミちゃんってその……今から傷つけちゃうかもしれないけど、正直に言うね。弱いよね? なんで招待なんてされるわけよ?」
ピンドラがカップをぐいっと煽ると、トンとテーブルに置いた。
子供の頭よりも大きな胸をぶるんと揺らして胸をグーでトンと叩く。
「100位なの!」
「ドラゴン全体でって……ことぉ?」
「うん! あっ! 一番上の純白竜抜かしてにぇ! で、ドラゴン百匹でバトロワしてチャンピオンになったら、純白竜に褒め褒めしてもらえるの」
「褒めてもらうだけなの?」
「お祭りだからね! ガチのテリトリー取り合いは一旦休止だし」
「よくわからんな」
「んもーお兄ちゃん、これくらいジョーシキのハンチュウだよ?」
「はいはい」
「ちゃんと聞いてるぅ? お兄ちゃんもいつかドラゴンのお嫁さんを見つけるんだから、妹は心配ですからね。婚期とかぁ」
ねえドラミちゃんさあ。私をドラゴンと結婚させるつもりなの。やだ、怖いこの子。
「心配せんでいい。しかしまあ、ドラミちゃんってば今まではランキング圏外どころの騒ぎじゃなかったでしょ? ドラゴンが何頭いるかは知らんけど、いきなりTOP100に名を連ねるっておかしくないか?」
「あのねあのね! 教えに来てくれたドラゴンがね! 灰色竜倒したからって! でね! ドラミだけの力じゃないって説明したの。したらにぇ」
なんだか雲行きが怪しくなってきたな。
「したら……先方さんはなんて?」
「ドラゴンって基本ソロじゃん? って。だけど二人で出ちゃだめってルールなくて、ウチはお兄ちゃんありきだって言ったらね『じゃあ二人一組で100位だね』って」
「つまり……どういうことなの!?」
「お兄ちゃんも出るんだよおおおおおおおおお! お嫁さん探しもかねて!」
「ええぇ……」
「じゃ! 夜明けには現地集合だから! 行くよお兄ちゃん!」
目の前でドラミが膨らんだ。ピンクの巨竜に姿を変えると、有無を言わさず前足で私を包み込んで、ぶわぶわっと翼を羽ばたかせる。
拉致ですよ、コレ。




