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95/205

95.繋がるようでいて繋がらない、それでいて繋がってるコネクション

 魔帝都のブラックマーケットから一本入った裏路地を散歩していると――


「とうっ!」


 いつものかけ声が頭上から響いた。高い建物の屋上角から、英雄的着地を決める忍者少年。


 降りたつやいやな、身体をほぼ直角に折って私にお辞儀する。


「ご無沙汰してます。師匠!」

「元気になったか。良かったなカゲ君」

「これも師匠とお仲間方のおかげ。特に直接治療をしてくれたサッキー殿には、足を向けて眠れません!」


 名前を魂に刻むとかなんとか言ってたっけか。


「傷口は……つーか、やばい紋様はどうなった?」

「今朝、確認したところ綺麗さっぱり消えておりましたが……ま、まさか、すべてお見通しだったのですか!?」


 いちいち興奮して声が大きいな。

 ふむ。偶然、消えたのかサキュルが酒に溺れて淫魔性を回復したからかは、ちょっと判断がつかない。


 が、ずっと残るもんでもなかったのなら一安心だ。


「あの、し、師匠?」

「師匠ではない。今はシャドウジャスティス二号と呼べ」

「は、はい……おうッ!」


 わざわざ言い直すあたり、律儀だな。


 そんなこんなで世直し活動再開である。最近はブラックマーケット近辺の犯罪発生率が低下してきたので、スラム街やカジノのある歓楽街まで足を運ぶようになった。


 新たに犯罪発生マップも作成。被害者に赤いバンダナを進呈して啓蒙活動も欠かさない。


 今日もカラーオーガを路地裏でボコボコにしばきつつ――


 八人ほど床を舐めさせたところで、カゲ君が刀を鞘に収めた。


「師匠。実は……」

「二号だぞ」

「今は師匠として訊いてください。あの……夜間のことなのです」

「夜まで面倒みろってか?」

「ダメでしょうか」

「そういうのはもうさ、国になんとかしてもらえって」

「は、ハハハ。そうですよね。個人活動ではなく為政者の成すべきところ……です」


 メンポに隠した瞳の奥で、七色の虹彩が揺らいで見えた。


「あのさぁ一号」

「は、はい」

「こっちもまあ、言うだけ言ってみるくらいなんで聞き流してくれて構わないんだけどね」

「そんな! お師匠様のお言葉です。もったいない! 拝聴します」

「仰々しいな。えーっとね……知り合いに偉い人いない?」

「と、言いますと?」

「詳しくはあっちで話そう」


 少年の肩に手を置いて転移魔法で跳ぶ。

 ついたのは修行場にしている滝の前だ。


 ザアッと流れ落ちる水のカーテンには目もくれず、私はメンポを外して少年に告げた。


「カゲ君ってのも偽名でしょ?」

「魂の名です。師匠」

「あっ……はい。まあそれならそれとして、俗世の方だと多分、良いとこの出なんじゃないかなぁって」

「いいとこ……とは?」

「魔貴族とか、裏社会の組織……二次団体や三次団体じゃない、本家か直系の幹部クラスの家の子とか」

「あっ……ええと……」


 少年は素直に口ごもった。嘘は苦手か。

 たぶん貴族のボンボンだとは思ってたけど、正解っぽいな。


 そして――

 あんまり家のことには触れてほしくもないらしい。


「あー! 今の無し無し。忘れてくれ。カゲ君はカゲ君だ」

「す、すみません。詳しいことは何も言えないんです。が、お師匠様の推察の通り、俺は……立場上、世直しだの人助けだのを匿名でしていることがバレると、まずいんです」


 カラーオーガやオークにゴブリンといった連中の元締めが、裏でこっそり悪人しばいてちゃ示しもつかんわな。


 反抗期なんかね。まだ子供ってんで家の方針に口だしはできないけど、居ても立ってもいられなくて生まれたのがシャドウジャスティスだ。


 少年の瞳がスッと私を見る。まっすぐな眼差しだった。


「けど、俺……救われたご恩は、必ず返します。まだ弱いけど……力をつけて、きっとお師匠様のお役に立ってみせますから!」


 カゲ君はぐっと拳を握り込んだ。


「先に助けてくれたのはカゲ君でしょうに。あんま気負わなくていいって」

「俺が偉くなった時に、師匠の望みを聞かせてください。そのためにも、今日も修行の稽古をよろしくお願いしますッ!!」


 復帰早々やる気に満ち満ちてる。若いっていいなぁ。



 日が落ちる前に修行場から魔帝都に戻り現地解散。

 元の路地裏にて、私は少年に告げる。


「あのさカゲ君。ちょっと私もやらねばならんことがあってな」

「いつでも大歓迎です。魔帝都の路地裏の平和は、俺が守りますから」


 こっちの都合もちゃんと聞き分けてくれるってか。


 シャドウジャスティス二号の活動&カゲ君の修行については、空いている時にってことで話がまとまった。


 元から少年一人でやってたことだし、以前と違って広報活動もするようになったし、なにより私とトレーニングしたことで、カゲ君の動きはキレマシマシだ。


 よっぽどヤバイのと出くわさない限り、危ないことにはならんだろ。


「ではな」

「はい! 師匠!」


 再会を互いに約束して、私はキャンプ地へと跳んだ。



 夕日が赤く燃える中、川辺から人影が焚き火台に駆けてくる。


 魚の入った篭を手にしたサッキーだった。


「おっかえり~! ねぇねぇお土産は?」

「なぜあることが前提なんだ」

「えー! だってぇ都会の匂いがするしぃ。魔帝都行ってたんでしょ?」


 淫魔は鼻が利く。名探偵もびっくりである。


「ちょっと野暮用でな」

「外に女作っちゃった?」

「カゲ君だ」

「誰だっけ?」

「貴様が治癒した魔族の少年がいただろ」


 篭を地面に置くと少女は胸を上腕で支えるように腕組みし「むむー」と唸る。


「なんだ憶えてないのか? あれで貴様は致命傷の肩代わりをして、淫魔的に死にかけたんだぞ?」

「うーん、なんだか記憶が曖昧でさぁ」


 サッキーの七色の虹彩がどことなくぼやけて見えた。

 やっぱ似てる。カゲ君に。


「なあサッキーよ」

「なになに? おっぱい揉む?」

「揉まんぞ」

「えーつまんなーい! こんなにおっきいのにもったいないと思わないの? 男として奮い立たないの!? ほれほ~れ」

「揺らすんじゃないよ。まったく」


 突然の逆セクハラに腰を折られたが、改めて問う。


「あのさ、貴様の親戚縁者に裏社会の大物とかいない?」

「大物ぉ? うーん……大娼館の館主とか?」

「ありゃ小物だ」


 ストパー矯正で没個性化の刑に処したし、今では「そんなやつもいたな」くらいのぞんざいな存在だ。


 サキュルの尻尾がクエスチョンマークの形を作る。


「他にいたかなーそんなのぉ」

「貴様のその特徴的な瞳って、なにか秘密があるんじゃないか?」

「え? あーこれ? 超綺麗じゃない? 実物を自分で見られないのが悔やまれるんだよねぇ。だけど、いつも釣りしてて水面に映るのを見てさ……『サキュルは今日も超絶天元突破で可愛いよ』って言ってあげてるの」

「そのまま見とれて川に落ちて流されるんじゃないぞ」

「ふふ~ん! 三回くらいかな」


 やったんだ。


 サキュルが私に抱きつき胸を前から押し当てつつ見上げてきた。


「ねえねえ! 急にどうしちゃったの? 変だよ?」

「なんでもない。だから離れなさいってば」

「え~! いいじゃんいいじゃん! 他に誰もいないんだし」

「見なさい犬小屋を。キングがガン見してるでしょうが」


 黄色いクチバシだけ小屋からにょっきり出したアヒルが「ミッテナイガァ」と鳴いた。


 自白乙である。


 サキュルは密着したままお尻をフリフリ。


「けどキングとサキュルじゃ挟めないでしょ? 百合の間に挟まらなきゃセーフ理論でいくと、二人っきりのときはこうやって甘々でもいいんだよ?」


 と、淫魔が私の脚に太ももを絡めてきた瞬間――


 ばっさばっさとピンクのドラゴンが頭上からゆっくり降りてきた。

 前足をお椀みたいにして、そっと地面につける。


 竜の手の中からシャンシャンが姿を現した。


「ただいまメイヤさんサキュルさん……って、何してるの二人とも?」

「おっかえりー! 今ね! メイヤを誘惑してたんだ」

「サキュルさんは正直で、しかも即答したので許します。けど、気まずそうな顔をしているそこのメイヤさん……詳しくお話、訊かせてもらおうかしら?」


 隣でピンドラがシュンシュンと縮む。まあ、縮んだところで高身長には違いないが――


「お兄ちゃんずるい~! ウチも抱っこされたいんですけどぉ!?」


 女子三人揃うとかしましいというか、やかましいな。


 うーむ。


 しかしまあ、アレだ。サッキーの奴、本当に記憶にございません! なんだろうか。


 そっと淫魔を身体から引き剥がしつつ、私は投擲される聖なる光の回転刃をイナがバウワーする感じで海老反り回避するのでしたとさ。

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― 新着の感想 ―
[一言] さりげに最後モノローグで八つ裂きな光輪を避けてる……あぶねぇよシャンシャン、気◯斬は突っ込みとかで使うもんじゃねぇって。 思えば八つ裂き光◯ってエグイ名前してんな……
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