93.死なぬなら泣くまで殴ろうやばいやつ
光の矢を無数に展開する聖王――
やっぱり、見覚えがある。
「そいつで偽の妹ちゃんを口封じしたのか?」
「人聞きの悪い。貴男をこの場にご招待するために、必要な犠牲だったのです」
「さっきから貴様とはまともに会話ができてる気がしないんだが」
「私は楽しいですよ?」
「ああ、そうかい」
知ったことかである。相手は余裕綽々(よゆうしゃくしゃく)で、自身の勝利に一片の疑いすら抱いていなさそうだ。
けどな……飛び道具の間合いではない。踏み込めば届く距離感だ。
不死身の化け物でも首を刎ねればなんとかなる説。
私は床を蹴った。
振りはコンパクトに。瞬間にインパクトを最大にまでもっていく。
ヒュンッ――
と、一閃が聖王の頭部を胴体から分断した。
白金色の長い髪がはらりと舞い散る。
落ちた頭を男はキャッチ。抱えてニッコリ微笑んだ。
「どうしました?」
首を定位置に戻す。スパッと切れた断面に吸い付いて元通り。
髪も伸びて、何事もなかったかのようだ。
やだ、なにこいつ怖い。ホラーじゃん。
「では、こちらから行きますよ」
法衣の男の周囲に浮かぶ光の矢が、時計回りの順番で私を狙い、飛来する。
短距離転移で避けるも、光矢は建物内の柱をぐるりとターンした。
追尾機能付きである。壁際に追い詰められ、目前に三本が迫った。
極大破壊魔法で切り払う。重たい。これまでなんでもスパスパ斬ってきたが、聖王の一矢はドラゴンの鱗よりも硬く、弾くだけで私の全身の骨を微振動させた。
肉体強化に魔法力を増強。極大破壊魔法の出力は落ちるが、身が持たない。
反応限界ギリギリで、追ってくる矢のすべてをたたき落とす。
息が上がる。もうちょい鍛えておけば良かったな。禁煙しよう。ま、元から吸っちゃいないけど。
「ったく……貴様ッ! 死なないだけでも厄介だってのに!」
「どうです? 勝てない相手と戦う無意味さを悟りましたか? そうだ……降伏して配下に加わるというのなら、侯爵位をあげましょう。一つ、空席がありましてね」
「貴様のようなわけがわからんやつに従うくらいなら、死んだ方がましだ!」
「死んだ方が……はぁ……なんて悲しいことを。では、死になさい」
聖王は眉尻を下げると、その背後に光の壁を生み出した。
いや、よく見れば光矢の集合体だ。あまりに密集しすぎて互いの輪郭を打ち消し、面を形成していた。
何百本あるんだ。四桁本数か。
数発弾いてしんどい上に、避ければ私を追ってくる。厄介な。
幸い、聖王自身は一歩も動かないのだけが救いだった。光の矢があれば白兵戦はいらんってことだ。
小さく呼吸を整え……返す。
「かかってこいよ」
「どうして私に逆らうのですか? 悲しいを通り越してもはや不愉快ですね」
「うっせーばーか」
「貴男は私と同じと思っていたのに」
どこに共通点があるってぇ? 一方的に期待して勝手に幻滅してんじゃないよ。まったく。
とはいえ、どうするかな。刺しても斬っても復活しやがる不死身の化け物め。どっかに弱点ないんかね。
「では……永劫の闇に消えなさい」
黙れや中二病が。
指揮者がタクトを振るうように、聖王の号令で密集した光の矢が私めがけて殺到した。
全部弾いてちゃらちがあかん。
ぴこーん! 閃いた。
ギリギリまで引きつけたところで、私は短距離転移魔法で聖王の背後をとった。
一瞬、目標を見失った矢の雨が弧を描きターンする。
私は聖王に指弾で種子を撃ち込み、即発芽を促した。蔓縄で捕縛。と同時に聖王を楯にして追って来た矢を防ぐ。
男の身体が軽くびくついた。
「――ッ!?」
全身を射貫かれて法衣の男の姿は虫食いのようになった。と、同時に術者の死(?)によって光の矢も雲散霧消する。
「はい勝ち。もう二度と私に逆らうんじゃないぞ」
ぼろ切れのようになった肉片を投げ捨てる。
が、飛び散ったそれらが芋虫のように地面を這って、一カ所に集まりだした。
顔に肉片が集中し、口が出来上がる。
「酷いじゃありませんか。死ぬかと思いました」
「……ったく。どうすりゃ貴様を永遠に黙らせられるんだ?」
「私を黙らせる? そうですね……一つだけ方法があります」
転がった頭部が再生されて、聖王はニッコリ目を細める。
「私は光の神に王として選ばれ、この力を授かりました。すべては守るため。守るべき対象なくしては、私の力も存在し得ない。だから、倒したいというのであれば聖王国を滅ぼしなさい。私以外のすべてを殺し尽くしなさい。最後に私を殺しなさい。幸い、貴男にはそれを成す力があるのでしょう?」
幸いだとさ。言ってくれるなぁ。私が軍属を依願退職したことも、全部わかって言ってんだろ。
やらないってこと。
無関係な人間を大量虐殺でもしないかぎり、滅することができないなんて。
それすら聖王のブラフかもしれん。
私は復元した聖王の頭部……長く伸び始めた白金髪を掴み上げた。
「しばらく頭を冷やしておけ」
「はい?」
悪びれもせずきょとん顔ですか。はーそうですか。
私は転移魔法でどこともしれぬ海上に跳ぶ。
足下には青く深い海。水平線のどこにも陸地の影はなし。あまりに大地から遠く、深い海のど真ん中に聖王の首を投げ捨てる。
もう一度転移魔法で上空に飛び、男の首が海面についたところで上から無詠唱の極大破壊魔法。
海に巨大な光の柱が吹き上がり、底なしの大穴ができあがった。空いた穴を埋めるように周囲の海がめがけて流れ込む。
聖王の頭部がどうなったかはお察しである。
ちょっとスッキリ。
シャンシャンの偽妹よ。仇は勝手にとらせてもらったぞ。
ここまでやっても復活するんかね? 知らんけど。
……しかしまぁ、聖王でこれなんだから、魔皇帝の方もどんな化け物かわかったもんじゃないな。
怖いなぁ。帰って戸締まりしとこ。




