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84.街を駆け抜ける二つのシャドウ


 まだ日も高い魔帝都にて――


 今日も今日とて、裏路地に弱者の助けを求める声が響く。


「た、助けて! 誰か!!」

「弱者ってのは強者に食われるのが運命なんだよ? さあ、有り金全部出せって」


 商人風の犬系獣人の男が青肌鬼魔族に囲まれて、壁際に追い詰められていた。


「待てい!」


 と、少年の声が天より木霊こだまする。


「誰だオマエは!?」


 お決まりのフレーズが鬼魔族リーダーから発せられると――


「聞かれて名乗るもおこがましいが、俺の名は……しゃ、シャドウジャスティス一号! 魔帝都のしじまを乱す小悪党ども! 今すぐ立ち去れば命だけは助けてやろう」


 建物の角で腕組みすると、少年忍者は「とう!」と跳ぶ。着地に合わせて鬼たちに囲まれた。


 リーダー格が犬獣人にナイフの刃を向ける。


「おっとバカかオマエ? 一歩でも動けばこの犬畜生にザックリいくぜ?」


 さっそく人質をとられた格好だ。

 だが、シャドウジャスティスは動じなかった。


「それはどうかな……師匠! お願いします!」


 私は全身黒装束。普段のローブ風ではなく、少年に合わせて忍者風だ。

 こっそり短距離転移魔法でリーダー鬼の背後に跳ぶ。スッと音も立てずに後ろに立つと、ナイフを手にした腕をアームロックで極めた。


「――ッ!? あだ! 痛てええええええ! な、なにしやがる!? いったいどこから涌いて出やがった!?」

「人をGみたいに言うもんじゃありませんよ」


 イラっときたので鬼の肩を外す。


「ぎゃああああああああああああ!」

「自然界じゃ腕を失った個体は弱者だよな。貴様のようなゴミでも対価を払えば治療を受けられる。ドラゴンなんかと比べりゃ人は弱い。助け合いなんだよ。貴様も社会の一員であることを自覚し感謝しろって……こと」


 腕を解放。男が前のめりに倒れかけたところで、鳩尾みぞおちに膝を叩き込む。


「ごふっ!?」


 胃液を吐いて床を舐めるリーダー格。

 で、取り巻き連中はといえば――


「成敗ッ!!」


 カゲ君……改め、ジャスティス一号が峰打ちで全員伸していた。


 私ことジャスティス二号も並び立つ。揃いの赤いバンダナが左の二の腕に巻かれていた。


 獣人が怯えてひざまずき手を組んで目を閉じる。


「ひいいい! お、お助けええええ!」


 一号は刀を収めて手を差し伸べた。


「安心しろ。だが、今後は不用意に裏路地を通るんじゃない」

「はへ?」

「ブラックマーケットには商売でやってきたんだろ? 多少遠回りでも人目に付く大きな道を選ぶんだ。いいな?」

「は、はい! お、お助けいただいてありがとうございます!」


 犬商人は一号の手を取り立ち上がると財布を開いた。


 が、少年忍者はスッと手のひらで制す。


「礼は不要。だが、今日あったことと我らのことを、お前の仲間たちと共有し、広めて欲しい。ししょ……二号。例のものを」

「おうよ」


 私は周辺の簡易地図をケモ男に手渡した。大通りと裏路地がざっくり描かれ、危険地帯は赤く塗られたものだ。


 犬商人は舌を出し腹式呼吸で私に向かって首を傾げる。やだ、たぶん中身おっさんなのにちょっと可愛い。


「こ、これをくださるので?」

「とっておけ。遠慮はいらんぞ。それとバンダナもくれてやる。お守り代わりだ。どこでもいいから身につけておけ」

「へへ~! ありがたや~!」


 さっそく彼は尻尾の先にリボンよろしくバンダナを巻いた。あ、そこにつけるんだ。

 カゲ君が付け加える。


「もし襲われた時は、遠吠えでも笛でもなんでもいいから大きな音を出すんだ」

「は、はい!」


 私が補足した。


「犬笛は無しな。私たちには聞こえない周波数なんで」

「しょ、承知しました……あの、お二人のことはなんと広めれば……」

「「シャドウジャスティス一号&二号」」


 ただいま三号募集中。


「わ、わかりました! このたびは本当に本当にありがとうございます!!」


 無事、売上金を奪われることなく犬商人は尻尾ふりふり。大通りへと歩きだす。

 時折、こちらに振り返りぺこりとお辞儀。


 で、しばらく歩いてまた振り向いてぺこり。


 私と一号はそのたび、軽く手を左右に振るのだった。


 完全に遠のいたところで――


「上手くいきましたね師匠!」


 一号……カゲ君が七色の虹彩をキラキラさせて私を下からのぞき込んだ。

 ガチ恋距離やめろ。男の子でしょうが。


「散発的に助けるよりか、多少は防犯意識の向上が期待できるだろうよ」

「魚を与えるのではなく魚の捕り方を教えるということですね! さすがお師匠様だ!」


 褒めすぎなんだが。

 まあ、多少はマシってくらいで少年が理想とする「多数の弱者救済」には遠い。


「にしたって、地道な活動すぎるがな」

「なにを仰います師匠。千里の道も一歩から。魔帝都は一日にしてならずですよ!」

「ポジティブだなカゲ君は」

「師匠に出会えて、今、俺は猛烈に燃えているんです!」


 さいでっか。


「貴様が人助けをしていた結果だ。遅かれ早かれ、いずれは私みたいなのと巡り逢ってただろうよ」

「なにをなにを! お師匠様以外には考えられません! 助けた人の口コミを広げるだなんて! 赤いバンダナが正義の証! 俺はただ、助け続けてさえいればと思ってたけど、活動を広め認知してもらうことこそが、肝心にして要だったんですね!」

「ペンは剣よりも強しっていうからな。まあ、実際、私たちの強さが担保にゃなってるが……これで半グレカラーオーガやオークなんかにも、噂が広まって抑止効果も出るだろ」


 知らんけど。


 ってなわけで、市場が締まる午後三時くらいまでブラックマーケット近辺をパトロール。


 ここに半グレが集まるのも、地方からのお上りさんが売上金を持ってうろついてる絶好の狩り場だかららしい。


 で、落ち着いたところで転移魔法で滝へ。


 夕方までカゲ君の修行に付き合った。


 滝を割る魔法力制御だけでは、なかなか成果もあがらないので組み手なんかも取り入れる。

 他に知りたいことや、やりたいことなど聞き込みもしつつ、上手く出来たら「今の良いぞ! もっとだ! もっと来い!」と、良い動きがあれば素直にリアクション。


 で、解ったのはカゲ君が割と素人だってこと。私も武芸武術にゃ疎い自己流だが、身体能力の才能で他を圧倒しているっぽい。


 潜在的な能力を多分に感じるのに、引き出してくれる相手には恵まれなかったんだろうか。


 文字通り、彼が大成したら「私が育てた」と、後方師匠面でもしてやろう。


 日が落ちる前に解散し、着替え。魔帝都で日用品の買いだし。


 シャンシャンから「挽く前の小麦」が欲しいとリクエストがあったんで、ついでに買って帰る。


 なんでも発芽させるんだとか。何しようっていうんですかね、まったく。

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― 新着の感想 ―
[一言] >ナイフを手にした腕をアームロックで極めた それ以上いけない ちなみに、三号が入ったら力と技を兼ね備えたやつになるのかね……すでに二号がそれだけども。
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