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66.酵母作ってる間にタイムアップ

 今日も今日とて、キャンプ地の作業場にて晴天のもと、色々やっている私である。


 これでも植物魔法学科中退の天才大魔導師。

 専攻外であるところの、極大破壊魔法においては他の追随を許さないのだが、一応、植物系の知識は備えていた。


 人並みに。


 で、今回はパン的なものを作るにあたり、酵母という菌だか微生物だかを培養しなければならんことが判明した。


 用意するのは綺麗に浄化洗浄された瓶。

 加えて綺麗な水。浄化魔法で不純物を取り除いて作った。


 そして――


 このたびチョイスしたのは酵母の種はレーズンだ。オイルコーティングされていない干しぶどう。たっぷりの砂糖(なんか菌の餌になるっぽい?)と浄化水を加えて基本は密封して「置いて」おく。


 二~三日経ったら外気を取り入れる。振って攪拌。


 四日目にはレーズンが浮き上がってきた。水色も茶色く染まり、気泡がぶくぶくと浮かぶ。


 自然界には酵母菌とかいうのがふよふよしてるんで、そいつらがいい感じに瓶の中に入ってすくすく育ったらしい。


 五日目にもなると、水面上にレーズンが浮かび上がるほどの成長ぶりだ。これを冷暗な場所に保管する。今回は風通しの良い高床式倉庫(二棟目)に置いた。


 発酵したレーズン酵母。小麦粉を水で練ったものに加えて焼けば、ふわふわのパンになるっていうけど、本当ぅ? って、懐疑的にならざるを得ない。


 けっこうかかったな。酵母作り。今回はロリコア書庫の全面協力があったわけだが、昔の人はよくこんなもんをパンにぶち込んだなと思う。


「あっ……もう五日目か」


 ドラミを放置してけっこう経ってしまった。そろそろレンガの増産も十分だろう。


 といっても、ドラミに焼かせているのは赤レンガ。炭素が多いんで、耐熱性もそこまで高くない。


 ガラス質を含んだ粘土質を探し、そいつをドラミに焼いてもらって白い耐熱レンガができれば、やっとピザ窯が作れるという寸法だ。


 とりま、倉庫に酵母の瓶を置いて外に出る。


 と――


 淫魔がタックルしてきた。


 闘牛士よりすくスラリと回避する。


「ちょ! メイヤ避けないでよ!」

「いきなりぶちかましてきて、なんだ貴様は?」

「違うよ抱っこしようとしたんだよ!」

「藪から棒に急にどうした」


 サキュルである。ショートボブの前髪を揺らし、尻尾を地面方向に向けてぶらんぶらん。


 表情はどことなく、不安そうだ。


「何かあったのか?」

「え、あ、えっと……あの……」

「言いにくいことなら言わんでもいいぞ」


 大きな胸とぷるんぷるんのほっぺたをぶんぶん左右に振って淫魔は吠える。


「言いにくいっていうかー! んもう! 先に教えてくれてもいいじゃん!」

「なんのことだ」

「今、シャロンが応対中だから。ともかく来て来て!」


 淫魔に袖を引っ張られ、焚き火台まで引っ張られる。


 元聖女が私直伝のテクニックでコーヒーを淹れていた。


 丸太チェアーにちょこんと座る、来客にそっとカップを差し出すシャンシャン。


「あの、本当に……メイヤさんのご家族なんですか?」


 金髪少女の表情は複雑そうだ。

 悲しそうに見える。が、困っているようにも見える。


 一方、シャンシャンのコーヒーカップを手に取った来客は、大きく首と胸を縦に振った。


「うん! だってね! メイヤはウチのお兄ちゃんだもんね!」


 アイドル風衣装。胸のジャンボリボンを揺らしてピンクツインテール大型犬系少女が、元聖女に肯定した。


 シャンシャンは目を丸くする。


「背の高さはメイヤさんの親族さんみたいだけど、髪の色とか……ピンクじゃない?」

「何か問題でもありますかにぇ?」

「にぇ?」

「あ、ありますかね! って、言ったの! 揚げ足とってばかりだと、シャロンは恋人できないよ!」

「はうっ……ツッコミやめえてぇ……死んじゃうぅ」


 いる。


 なんか、いる。


 粘土質の赤い崖で、焼かせっぱなしだったはずのアイツが、どうして我がキャンプに?


 サキュルが二人に手を振った。


「おーい! メイヤ連れてきたよ! これで本当にドラミちゃんがメイヤの妹さんかどうか、確認できるよね!」


 瞬間――


「お兄ちゃああああああああああん! ウチ、会いたかったよおおおおお!」


 コーヒーのカップを手にしたまま、ドタバタとピンクツインテールが私に正面から抱きついた。


 褐色の液体をまき散らし。ああ、もう、香ばしい匂い!


 胸で私の顔を挟むようにぎゅぎゅっと抱きしめる。


「お兄ちゃん放置プレイダメだって! 妹でも堪忍袋がブチブチしたんで、職務放棄して探しに来たんだからね!」

「探しにって……どうやって」

「匂いを追って来たに決まってるじゃん」


 あ、やっぱこいつ犬だ。犬並の嗅覚だ。


 ともあれ、乳挟みされたままではまともに会話できん。


 ぐいっと引き離す。


 と、ドラミはシャンシャンとサッキーを交互に見て私に尋ねた。


「ところで、どっちがお兄ちゃんの彼女? 教えて教えて!」


 元聖女と淫魔の表情がピシッと引き締まった。


 突然凸ってきて、何言い出すのこのドラゴン。やだ、怖い。


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