59.施工実績あり匠のリフォーム術なお極大破壊魔法
カーマイン侯爵は激昂した。
「や、やめよ! 秘密を知る者は最低限で良い!」
「教えてやるっつってんでしょうよ。無償で」
「そのようなことをされては、希少性が失われてしまうではないか! そうなればあれは……ただの下品で派手なだけの布になってしまう」
あっ……やっぱわかってたのね。綺麗は綺麗だけど、使いどころよ。我が家のログハウスにも全然合わないし。
結局、貴重だから値段が高くなる。世に溢れれば安くもなる。黄金と一緒だな。
私はカーマインの言葉を最後まで聞き終えてから――
「わかってんじゃないか。お利口お利口。さて番兵どもに家人ども。これから私が教える錬金術の方法は早い者勝ちだ。忠誠心あらば耳を塞げ! 塞いだ振りして盗み聞きも自由! 知ったことを主人のカーマインに知られれば、貴様ら自身だけでなく、家族恋人一族郎党、侯爵家に付け狙われることになるぞ!」
赤服たちがざわついた。離宮を囲むメイドや執事も騒然となる。
瞬間――
私は短距離転移魔法で番兵長の後ろに跳ぶと、首筋に手刀一閃。動脈を断つ一撃で脳への血流を止められたイケメン赤服は、短剣を落とすと膝からガクッと崩れ落ちた。
糸の切れた操り人形だ。
すかさずシャンシャンの身体をキャッチ。私が消えて、すぐに現れ嫁を確保するのを、カーマインは呆然と見るばかり。
「な、な、なな……なにをしたのだ?」
「ちょっとした手品ですが馬鹿野郎。ところで、念押しなんだが……本館の方には誰もいないんだよな? いないんだよね? はい、じゃあいないってことで」
我が姫をお姫様抱っこすると、再び短距離転移でカーマイン邸本館前に跳ぶ。
と、ちょっと重くなってないシャンシャン。最近、美味しいもの食べ過ぎか、木こりで筋肉ついちゃったかな?
ま、当人は眠り薬入りの紅茶ですやっすや。
元聖女が意識を失っているうちに、やっかいごとは全部片付けちゃいましょうね。
「黄昏の星々より暗黒の力を呼び醒まし闇を切り裂け。深淵に封じられし禁忌の叡智をこの手に宿す。我こそ螺旋の魔力を操りし神祖。万物の法則に挑みし者。無限の破壊の母たる者なり。膨張する世界はこの手中にあり。星々を意のままに振動させよ。森羅万象を覆い尽くす混沌の渦。我こそが破壊の創造主。天地鳴動。時空歪曲。全てを一点に導く公式から値を算出せよ。無尽蔵にして無慈悲なる破滅を解き放て。我は振るう虚無の裁き。すなわち――極大破壊魔法なり!!」
毎回適当に詠唱してるけど、気持ちが乗るといっぱいでるね! 破壊の力!
目の前で青い火柱が吹き上がり、塔となって空へ。頭上で火柱は十字を描いた。
わぁ、なんかアレっぽい。アレがなにかは知らんけど。
秒で目の前の豪邸が更地になった。リフォーム完了。スッキリである。
「ぎゃあああああああああああああああああああああああああああああ!」
離宮から侯爵の絶叫が響く。
建物に調度品に金銀財宝やドレスに貴重な芸術品のコレクション。あとは証文とか権利書とか、もろもろ全部綺麗に吹き飛んだのだ。
もう、貴族できないかもね? ざまぁ。
で、私は番兵や家人たちに向き直った。
「まだ私を取り囲んでしばこうって思うかね貴様ら?」
誰も何も言わない。身じろぎさえできないようだ。
「じゃ、約束通りただで教えてあげるね。七色の染料の素材は砂漠に住むデザートストームレインボーデスワーム。そいつをちゃちゃっと狩って、死骸の甲殻を煮出すと染料ができるんで、あとは勝手にやってくれ」
誰もうんともすんとも言わなかった。あ、無理かそもそも。デスワーム倒すのが。
カーマインがボロボロになりながら、離宮のベランダから出てくる。
「ゆ、許さぬ……許さぬぞヤメイ……」
「おっと、自己紹介がまだだったな。私の本当の名はメイヤ・オウサー。聖王国じゃちょっとした有名人さ」
目元を覆う安物マスクを外して素顔を晒す。投げ捨てニッコリ微笑みかける――と。
カーマインが目を剥いた。
「な、な、な……なんと!? 二国間の正面決戦を台無しにして……聖王国に反逆……逃亡したという凶悪犯か!?」
「凶悪犯とは失礼な。平和主義者だぞ」
「では、なぜわらわの屋敷を! 財産を消し飛ばした!」
「うざいからにきまってんでしょうが」
「暴力で解決するなど、どこが平和主義者だ!」
「先に暴力と脅迫してきてどの口が言う」
「し、しかし……横暴だ」
「横暴だとも。いいか。力なき平和主義は無力なんだよ。平和主義でいられるのは私が最強だからだッ!!」
カーマインはその場に尻餅をつく。
「ひ、ひいい」
「んで侯爵様。この場の全員、染料の秘密を知っちゃったみたいだけど処すの? 処せるの? 処刑人でも雇う? あ! 財産ほとんどなくなっちゃったんだっけぇ。じゃあ無理だね。ハッハ。土地売ったら?」
と、見ればまだ自慢のシンメトリックな庭園が手つかずじゃないか。
私はシャンシャンを抱えたまま――
とどめに庭園にマジックミントの種をばらまいて一斉発芽させた。あっという間に緑のハーブが庭中に行き渡り、爽やかな香りを発し始める。
綺麗に整えられた左右対称の庭が、今日からは野性味溢れるミントの園だ。
もうこの土地ではミントしか花を咲かせないだろう。
「むきいいいいいいいいいいぐおおおおおおおおおおおおあばあああああああばばば!」
頭を抱え髪を振り乱しカーマイン侯爵はどす黒い絶叫を上げ続けると。
「あッ――」
と、最後に気の抜けた声を出して、卒倒した。現実を受け入れられず意識が飛んだか。
頭の血管ぶちぶちいっちゃったかもね。
年を重ねると自制がきかなくなって怒りっぽくなるっていうし。
そういう時はハーブの出番。
一生飲んでろミントティー。リラックス効果と花粉症対策になるんで、良かったねカーマイン侯爵。
気絶した女に生えたミントの葉を一枚、つまんでちょんと乗せる。
ケーキにたまにのってる「彩り」感覚だ。
ちな、番兵も執事もメイドも主人の下に駆け寄る殊勝な者は一人としていない。
結局、金でつながっただけの雇用ですね。リスペクトされてなかったんだねぇ侯爵様。
さて――
シャンシャンが目を覚ます前に帰るとしますか。
誰も私を止めようとも、とがめようともしない。
その場でパッと転移魔法でキャンプに戻る。結局一銭にもならんかったけど、久々にすっきりしましたとさ。
めでたしめでたし。




