48.まったり作業の合間に
ログハウスのウッドデッキに腰掛けて、元聖女が七色の糸を紡ぐ。
サキュルは川で魚釣りだ。川の方から「グウァンバレグウァンバレ」と、キングの声が響く。
私は自宅前のミニ作業場でサクサクと薪割りに勤しんだ。極大破壊魔法なので風情が無いな。
今度、手斧でも作ってみようか。銅と錫を混ぜて熱して型に溶かし入れて、固まったら河原の石で水研ぎすればよさげだ。
青銅の斧。ちょっと良くない? 柄も自作すれば私だけの宝物だ。
あと細かい作業ができるようにナイフなんかもいいな。
で、作業中に何気なく元聖女に訊く。
「なあシャンシャンよ。木の皮をつるっと剥くにはどうするといいか知っているか?」
「手で撫でればいいんでしょ?」
「誰もが光の回転刃を出せるわけじゃないんだぞ」
「残念だったわねメイヤさん。極大破壊魔法って細かい加工は苦手みたいだし」
「ふっふっふ。確かに大魔導師の力はダイナミック。なので知恵と工夫だ。正解は……」
「コアちゃんから仕入れた知識でマウント取って、なんだか子供みたいで可愛いわね」
「こ、子供ではないぞ!」
「それで、どうやるのかしら?」
シャンシャンはニッコリ。なんだかんだ、私の話に耳を傾けてくれるあたりは良い奴である。
「丸太を川の水につけておくのだ。水分を吸った樹皮は手で剥けるほど柔らかくなるんだと」
現在、何本か丸太や枝やらを浸水中。木の棒一つ作るのも楽しいものである。
と、金髪がふわりと揺れて少女は「う~ん」と背伸びをした。
彼女の平らさがひときわ強調される。
「メイヤさん、どこを見てるのかしら?」
「シャンシャンのことを全体的にぼんやりと」
「嘘は良くないわよ。フローリングとか壁とかまな板とか平面のことを考えたんじゃないかしら?」
「いや、全然」
「本当ぅ?」
軽口をたたき合いつつ――
虹色の繭玉が10個出来上がった。
シャンシャンが首をコキュコキュさせる。
「ねえメイヤさん。肩こっちゃった。揉み揉みして?」
「元聖女なんだから回復系の魔法で血行くらいよくなるだろうに」
「人の手でしてもらえるから気持ちいいの。ね? いっぱい糸紡いだし、早く早く」
最近、淫魔の影響か積極的に要求するようになったな。
「この大魔導師にマッサージをさせるとは……まあいいだろう。貴様にはもっと働いてもらうつもりでいたからな」
「はい、じゃあウッドデッキに座って。ちょっと股を開くようにしてね。うん、そんな感じ」
私は言われるまま、デッキの縁に腰掛ける。両足を開くと、その間に少女はちょこんと収まった。
ふわりとした金髪が鼻先をくすぐる距離だ。
「じゃあ、お願いします大魔導師様」
「ちょっと近くないか?」
「間違って前に腕を回して変なところを揉んだりしちゃだめよ?」
「揉めるだけ無いんだよなぁ」
「ライン越えなんですけど?」
少女はぶんぶんと頭を揺らした。髪で顔面をベチベチされる。
「わ、わかった! せんから。暴れるな。大人しく揉まれろ」
「ちょっと強くても大丈夫よ」
髪の毛の下に手を入れ、首筋に人差し指の側面を当てる。
撫でるように肩に手を掛けた。
ほっそりしていて小さい。樹齢千年を切り倒すとは思えないな。
人にマッサージを施すなんて、初めてだ。
知識も無い。本で読んでおけばと思いつつ――
一揉み、二揉み、もーみもみ。
「ん……あん……上手いじゃない……そこ……もっとして。ぐいぐい押し込んで……キュンってなるから」
「貴様わざとか?」
「え? やだ止めないで……気持ちいいの……あっ、弱いとこ……もうちょっと優しく撫でて……ん……声出ちゃう」
私の股の間で元聖女が小さな尻をむずむずくねらせた。
こいつの方が淫魔な件。
妙なことになる前に、とっととほぐしきってしまおう。
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「ふぁあああああ! すっきりしたぁ! ありがとうねメイヤさん!」
すたっとウッドデッキから降りて、少女は首をポキポキ鳴らす。
「楽になったか?」
「とっても。これからもバリバリ働くわよ! ねえメイヤさん。何か、あたしにしてほしいことってない?」
「ふむ。そうだな……では虹色の繭玉でマフラーを編んでもらおうか?」
「え? マフラー欲しいの? これから暖かくなるのに?」
「気温は関係ないのだ。が、もしかして編み物はできないのか?」
「え、えっと……修道院でやってたけど……編み棒がないわね」
「ちょうど川の水につけた枝が皮剥きできるくらいにはなってるだろう」
「あっ! 作っちゃえばいいってことね!」
毛糸ができたら編む。これ、当たり前。




