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41.建築開始ぃ!

 風の匂いを嗅ぐ。

 湿気は感じられない。


 晴天だ。平野の遠く山岳地帯まで見渡せるほど、空気は清く澄んでいた。


 まさにログハウス建て日和である。


 途中、雨が降ると台無しなので組むなら短時間。人手も欲しい。


 高さ三十センチほどの基礎土台の前に立ち、私は長女ズに告げる。


「今から建てるぞ」


 淫魔が胸を躍らせた。ばいんばいんである。


「わーい! 家だああああ! サキュルも手伝う手伝う!」


 隣でシャンシャンも「最近、筋肉ついてきたし少しは役に立てると思うわ」と自信をのぞかせた。


 材料となる木材はすべて前加工済み。材木置き場から転移魔法で建設予定地脇に積んである。


 職人シャンシャンが精密に切り出したレッドシダーの板材だ。ログハウスに適しているとかで、防腐防虫耐湿性が高い。樹木そのものに有用な成分が含まれているんだとか。


 組み上がるように切れ目を入れた板材を、下から順に積んでいけば壁になるという寸法である。


 当初は丸太壁の予定だったんだが、スッキリとした外観になりそうだ。もちろん設計図も新しいものに刷新した。サンキューロリコア書庫。


 完成すると三部屋になる。小屋というには少々デカい。平屋で緩い傾斜の三角屋根。玄関前にウッドデッキ。屋根はデッキに張り出す形で伸びていた。


 玄関扉を開けるとリビングダイニング。キッチンは無し。何せ炊事は外でするからな。

 奥に二部屋。こればかりは譲れない。


 百合で挟まれないために必要な措置だ。私が一人で一部屋使うのは贅沢だって? 文句があるなら挟もうとするんじゃない。


 私はお手製のテーブルに設計図を広げた。


 サキュルが指さす。


「ねえ暖炉とか囲炉裏とかは?」

「贅沢言うんじゃありません」

「煙突くらいパパッとつけられないのぉ?」


 口をとがらせ淫魔は不満げだ。


 と、シャンシャンがニッコリ。


「なら薪ストーブがいいんじゃないかしら? 後付けできるみたいだし」

「なにそれなにそれ!? シャロン教えて!」


 元聖女が説明する。薪燃料の暖房器具。大きさはまちまちだが、普及しているものだと、だいたい六十センチ四方の金属箱だってさ。


 排煙用の金属製筒型煙突を壁か天井に穴を開けて設置。

 天板がコンロになるので、鍋を掛けたりヤカンの水を沸かしたり。


 第一長女が瞳を輝かせた。


「どうかしらメイヤパパ?」

「パパじゃねぇから!」

「怒らなくてもいいじゃない」

「わかったわかった。じゃあリビングの角にでも設置しよう」


 壁と床に石材敷いて火事にならんようにしなきゃな。ま、寒くなるまでには考えておこう。


 というか――


「まだログの一本も組んでいないのに貴様ら浮かれすぎだぞ。ほらさっさと始めるぞ」

「「はーい!!」」


 声を揃えて返事だけは良い長女ズであった。



 私が担当するのは比較的長い製材である。シンプルに重たい。

 が、質量なんて関係なく、転移魔法でサクッと「置く」だけだ。目視領域内での短距離転移なので楽勝。


 ほら、私って大魔導師様だから。メイヤ・オウサーは建築にも強いタイプのインテリジェンス。


 長女ズは二人一組で建材の両端を持ち、うんこらよいせと組んでいく。


 早くもサキュルが息と音を上げた。


「んもー! なんでシャロンそんな元気なわけ? っていうかー力持ちじゃない? ヒョロガリなのに」

「ヒョロくないわよ! ちょっとスリムなだけ」

「どうなってんのぉ? 体脂肪率0%で脳筋なのぉ?」

「今、無脂肪乳って言った? あたしの胸って製材みたいって言ったのかしら?」

「言ってない言ってない! ねえメイヤ! おかしいよね? シャロンってこんなにパワー系だったっけ?」


 言ってんだよなぁチクチク……いや、ザクザク言葉。


 私は手元の板材をぐっとはめ込み一息つく。


「シャンシャンの事だ。また聖女の光属性魔法でインチキしてるんだろ?」


 金髪がふわっと膨らんだ。怒った猫の尻尾みたいだな。


「インチキじゃないわよ! ただ神の祝福を身に宿して身体能力強化を図ってるだけ」


 と、サキュルがぴんっと尻尾を立てた。


「身体能力強化!? それサキュルにもしてしてー!」

「ええ、良いわよ。エーテルドライブ……シャイニングホーリーストレングス!」

「ぎょわああああああああああ肩があああああ! 肩の筋肉壊れるうううううううう!」


 サキュルが材木の端から手を離した。膝から崩れ落ちる。元聖女はというと、一人で材木を保持したまま――


「あ、あれ? 大丈夫サキュルさん?」

「本当に筋力強化なのこれぇ! いきなり全身筋肉痛なんだけどぉ!」


 なぜ人は同じ過ちを繰り返すのだろう。シャンシャンはバスタードソードサイズの壁材を振り回すようにこちらに向き直った。


 ぶおんっと空を切りなぎ払うモーション。とっさに上半身を背中側に反らせて回避。


 板を使う板が眉尻を下げてこちらに熱視線。


「メイヤさん、ど、どどどどうしよう?」

「危ないから一度手にしてるものを置け。で、サキュルへの強化を解除しろ。逆効果だぞ」

「あっ……そうだったわ! サキュルさんって聖属性とか光魔法によわよわだったんだっけ」


 地面で胎児のポーズになり淫魔は親指をしゃぶりながら「コロシテ……コロシテ……」と退行状態だ。


 効き過ぎだろ。



 一日目の夕方――


 陽も落ちたところで作業も中断。

 サキュルはなんとか復活したものの、私やシャンシャンに比べて非力でクソ雑魚ナメクジ筋力しかなく、胸の脂肪も活躍するでもなく、普段のポジティブが嘘のようだ。


 外の焚き火台を囲んで三人でシチューを食べた。

 普段はおかわりするのに、淫魔は「今日はいいや……えへへ」と、元気がない。


 別に心配なんぞしていない。が、適度にイキってくれないと私の調子が狂う。


 ああ、ソロキャンプなら余地もないのに、長女ズのおかげで考えることが多くなった。


 淫魔が丸太ベンチの座面を撫でた。


「サキュルさぁ……もっと二人の役に立てると思ったんだけどなぁ」


 すぐさま第一長女がフォローする。


「だ、大丈夫よ。力仕事だけじゃないし」


 私もシチューをもぐもぐする。さらに残ったものをパンで拭き取るようにして、綺麗に食べきった。


 行儀が悪い? 否。洗い物も楽なんだよこの方が。


 さて、コーヒーでも淹れますかね。夜だけど食後の一杯。二人にも付き合って貰おう。


 浄化水の入ったヤカンを火に掛ける。沸騰するまで少し時間があった。


「さて、今後の工程について説明してやるから、貴様ら耳をかっぽじって拝聴しろ」


 私は二人に現状を告げた。


 ログハウスの壁は60%ってところだ。今日は手間取ったがコツも掴めたし、明日には天井の骨組みまでいけるだろう。


 天井を作る。で、床下に断熱用の羊毛をたっぷり敷き詰める。それから床に板を張り、窓には木の扉。いずれガラス窓にしたいところだ。


 さすがに板ガラスを作るとなると骨なんで、聖都か魔都の工房に発注だな。


 玄関ドアを取り付けて……と。そうそう、靴は玄関で脱ぐようにしようと思う。土足で室内を汚さないスタイルだ。


 各部屋の天井に魔力灯でも吊り下げればひとまず完成しそうである。


 冬になる前にリビングダイニングの一角を石板やらで防火処置して、薪ストーブを導入。


 ローテーブルを自作して、あとはソファーもあればといったところだ。


 シャンシャンが瞳を輝かせた。


「窓にガラスをはめる予定ならカーテンレールも取り付けないと! ねえサキュルさんはどんな柄のカーテンがいいかしら?」

「えっ……あの……うん。サキュルよくわかんないから、シャロンに任せるね」

「一緒に町の織物屋さんを見に行きましょ! 約束よ!」

「う、うん。ありがとシャロン」


 清楚か!? まともか?


 うーむ。どうすれば淫魔が元気になるのだろう。


 もはやここまでくると育児である。


「いいかサキュルよ。ありがとう」

「急にどうしたのメイヤ?」

「貴様が釣った魚の焼き干しは美味うまいし、今夜のシチューもキノコがたっぷりだ。自前で調達できないアレコレをダンキ・ホーテで購入する資金は、貴様が稼いだ外貨のおかげ。自分が役に立っていないだなんて思うことはその……なんだ……無いからな」


 途端にサキュルの虹彩に輝きが戻った。


「ふああああああああああ! うれし~! うん! こっちこそありがとねメイヤ、それにシャロンも! ちゃんとサキュルは役に立ててたんだね!」

「役立たずになったら即、キャンプからたたき出すから肝に銘じておけ」

「んも~♪ メイヤってば ツ ン デ レ♥」

「うるせえええええッ!!」

「恥ずかしがり屋さんなところも大好きだよメイヤ!」

「…………」


 ふう。やっぱ調子に乗ったら乗ったでムカつくな。

 けどまあ、賑やかなくらいがちょうど良いか。


 ヤカンの口から蒸気が噴き出た。星空の下、コーヒータイムとしゃれ込むか。


 にしても――


 本当に最近刺客の類いが来ないな。


 なんか不自然なくらいに。


 どうなってんだ? 両国とも中央平原を諦めたってのか?

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