40.犯人……わかっちゃいました
長女ズが雁首並べて困り顔。
ここは名探偵の灰色の脳みその出番だな。
「つまり犯人は貴様だッ!」
ビシッと指さす相手は――
「え!? サキュルやってないよ!」
淫魔である。
「自作自演だろうに」
「異議あり! サキュルはえっと、異義を申し立てます!」
裁判長ポジになってしまったシャンシャンが顎を撫でた。
「うーん、双方、論拠はあるのかしら?」
淫魔がはいっと手を上げた。指先までピンピンだ。
「だって被害者だよ? あり得なくない?」
そこがみそだ。
「いいか貴様たち。犯人というのは盲点を突く。テニスボールが落ちていたら、その死体とおぼしき奴の脈が止まっている理由は明白。なんか脇に挟んだりして脈を止めて、死んだふりして容疑者から外れるものだ」
元聖女が首を傾げた。
「急にどうしたのメイヤさん? 意味がわからないわ」
「ともかく、被害者が犯人なはずはない……という思い込みを利用して、サッキーが自作自演したんだよ」
これにサキュバスは反論した。
「じゃあ明日からブラ無しで生活しますけど? いいの? おっぱいぷるんぷるんだよ? むしろサキュルはウェルカム!」
「……ふむ。どうやら犯人は貴様だったかシャンシャン」
今度はビシッと元聖女を指さす。決まったな。
「な、なんであたしなの!?」
「シンプルな消去法だ」
「動機はあるのかしら?」
「おっぱい格差問題が生んだ悲劇だな」
「ふぅん。死にたいんだぁメイヤさんってぇ」
八つ裂き光輪ぐるんぐるん。元聖女が修羅に変わった。
「待て待て。落ち着けシャンシャンよ」
「だいたいメリットが無いわよね? サキュルさんを困らせるだけなんだし」
隣で淫魔が「逆に考えればおっぱい解放の大義名分得ちゃったかなぁ」と苦笑い。
確かにシャンシャンがブラを奪ったところで、装着しても哀しみしか生まず、ブラがなくなった淫魔はおっぱい全開である。
三人白確定か。詰んだなこの人狼。
サキュルは困り顔だ。
「けど、やっぱりメスを学ぶにはブラは必要だから……秘すれば華っていうしね。隠されているから希少価値がでるんだし」
隠す価値なし……もとい、元聖女も同意した。
「えっと、あたしも隠しておくのには賛成。っていうか、シャツでよくないかしら?」
「ブラの方が楽なんだよね」
「……くっ……ころせ」
「今なんて?」
「なんでもないわよサキュルさん」
シャンシャン、ひっそりと敗北。
しかしまぁ――
捜査は振り出しに戻った。
もう一度、テントの周囲を確認する。
外部犯行説を裏付ける証拠は……っと。
テントから少し離れたところに、紅葉みたいな痕を発見した。
つい、言葉が漏れる。
「なるほど犯人わかっちゃいました」
「本当なのメイヤさん!?」
動機は不明だが、キャンプに入り浸っている奴がもう一羽。
私は先日自作した犬小屋へ。
サキュルが着いてくる。
「待ってメイヤ! 足跡はキングっぽいけど、テントのそばにあった下足の痕跡にアヒルっぽいのは無かったよ?」
元聖女が「ハッと」目を丸くする。
「アヒルって飛べないと思われてるけど、少し飛べるのよね」
さすが家畜のお世話に含蓄があるな。
私がまとめた。
「つまり、キングはジャンプホバリングでテントに入り込み、ブラを奪取。足跡を残さぬようにジャンプで犬小屋へと戻り……干し草の中に隠したってところだろう」
動機はわからないが、そもそもアヒルのしでかしたことだ。
理由なき犯行かもしれない。
犬小屋の真ん中に鎮座するアヒル。
「ほらどけどけ! しっし!」
「バーグァバーグァ!」
抗議するキングを追い出して干し草を探ったところ――
「なに? 見つからない……だと?」
隠しているならここなのに、サキュルのブラは無い。無いのだ。
アヒルがフフンと自慢げに尻尾フリフリ挑発する。
「ドテイノウ」
絶対喋れるタイプだってこのマスコット的な何か。
いや、待てよ。
「貴様が犯人だ」
「グワッグワ?」
不思議そうに首を傾げるキング。その王冠がすべての鍵だった。
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「さすが我が王。使いやすいとはいささか言いがたいが、栞をプレゼントしてくれるとはな」
ブラはロリコアの元に届けられ、知識の源泉の管理者はこれを本に挟むものとして使っていた。
キングはブラ奪取後、王冠の力で書庫へと転移魔法で跳び、そこにお宝を隠したのである。
プレゼントされたと思い込んだコアは有効利用の方法として、薄布を本に挟むことにしたらしい。
まさか挟むおっぱいが挟まれることになろうとは。
私は転移魔法で書庫へ跳ぶなりすべてを察し、幼女の前に立つとビシッとその顔を指さした。
「犯人は貴様だ!」
「なんだ君は……やぶからぼうに」
話せば長くもならないが、こうして無事、サキュルの肌着は持ち主の元へと返るのだった。
めでたしめでたし。




