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38.大魔導師青年の事件簿

 キャンプ地はナナシ川の土手上である。下れば沢で、丸石の川原と透明なせせらぎが陽光に照らされていた。


 見た目は穏やかだが、浅瀬を外せば所々深く流れも早い。


 テント近くには極大破壊魔法(限定)で掘った風呂がある。


 風呂の近くにひとまず衝立ついたてを作った。まあ、木の板を並べただけみたいなもんだが、ログハウスの床やら天井やらを作る練習がてらだ。


 水際なんで塗料 (ダンキってなんでもあるね)できっちり仕上げてある。

 木材の風合いを残すニス仕立てだ。きっちり乾けば耐水性もつくんだとか。(ロリ知識)


 衝立だけだとアレなんで、一畳ほどだがウッドデッキ(試作機)にハンガーなんかも用意した。


 三方に天井も開けっぴろげだけど、脱衣場である。


 で、土手の上から風呂場を直接見られなくしたことによって――


「んも~メイヤってば覗いちゃ だ め だ ぞ♥」


 入浴時間になる度に、淫魔がイキリ散らかすようになりました。

 誰が風呂沸かしてやってるとおもってんの? 頭涌いてんのか貴様。


 衝立の向こうからサキュルがブラをひらひらさせた。


「けどぉ、こんな素敵な脱衣場作ってくれたご褒美に、ちょっとくらいなら見せてあげちゃおっかなぁ?」

「貴様は普段からほぼ全裸だろビキニ露出魔」

「違うよ! 着衣してるんだから。一線は引いてるってことだし」


 ほとんど局部しか隠せてない布きれで、何をおっしゃる。


 ひらひらひらりと、ブラが舞う。まるで猫にとっての猫じゃらしだ。


 安い挑発に乗る私ではない。


「とっとと風呂に入ってしまえ」

「は~いママぁ」

「ママじゃないが?」

「メイヤは立派なママだよぉ。あっ! そーだ魔力灯欲しいかも! 夜にお風呂来るのさぁ、怖いんだぁ。シャロンが一緒だとなんだっけ? 光る玉? あれで明るくしてくれるんだけどね」

「わかったわかった」

「ありがとうメイヤ! だーいすき! 超超超超超大好きなんだからね! んじゃお風呂いただきま~す!」


 ひらひらしていたブラがシュッと衝立の向こうに引っ込んだ。


 確かに盲点だったな。シャンシャンからは「光源が欲しい」なんて要望は出ない。


 それが普通に出来てしまう人間は、足りないものに気づけないのである。



 川に近い方が便利だが、掘って水が湧く地盤に建物はやばいやばい。

 自沈層なる脆弱すぎる地質も危険度MAX。


 なにげに極大破壊魔法で吹っ飛ばしてきた地面にも、色々あるんだなぁ……と。

 これからも大切に吹っ飛ばしていきたい所存である。


 で、まあ地面に極大破壊魔法(ドリル式)を使って、二メートルほど掘ってみる。


 水が出たらアウト。あと、ドリルが何もしていないのにスッといくような地盤も除外。


 調査の結果――


 テントが元々あった辺りから、西に十歩ほどという、ほとんど変わらない場所に良地盤が眠っていた。


 日頃の行いの良さである。ナナシ川からの距離もまあまあ。もし、大水で流されるようなことになったら……そんときゃそんときよな。


 さてさて、ここに木の支柱をドーンとしてもいいのだが……。


 地面にダイレクトアタックだと木材は腐食したり、シロアリのご飯になったりしてしまうとのことだ。


 なので基礎工事が大切。


 で、混ぜて固まり石になるコンクリートなるものがあるんだが、結構職人技の領域っぽい。


 他に何かないかとロリ文献をあさったところで、ジャポネ様式の木材建築方法に着目。


 まず大きな石なり岩なりを地面に埋めて、その上に木の柱を立てるんだとか。


 礎石基礎というらしい。


 私は転移魔法で中央平原の岩場へと跳んだ。


 巨石を極大破壊魔法(超特大ソードフォーム)で輪切りにし持ち帰る。だいたい一軒家が上に乗るくらいの平米へいべいだ。


 しっかりした地盤に、カーペットみたいにドーン。

 この上にログハウスを建築するという算段である。


 地盤と建物の柱は厳密には接着されておらず、重量はあってもログハウスが岩盤カーペットの上に乗っかっているという状態だ。


 この地方じゃ地震はまず起こらないが、固定してないのがみそ。

 揺れると建物が基礎の上で滑って威力を逃がし、免震するんだってさ。


 今日はこれくらいにしておこう。



 翌朝――


 資材置き場の下で寝袋芋虫状態の私である。天井があるだけで、寝ている間に雨に降られて無事死亡しない安心感。


 家が出来ればさらに快適だ。壁と天井がある幸せは、キャンプの開放感と不便さを知ればこそ。


 ついにログハウスに着工と思いきや……。


 鶏よりもけたたましい声が、テントの方からやってきた。

 サキュルである。


「大変だよ大変大変!」

「何が大変だ……変態かぁ貴様ぁ!」


 淫魔はビキニパンツだけだった。昨日、脱衣場の衝立ついたての裏から、ひらひらさせていたブラがない。


 四方八方に大きな胸を揺らしながら、淫魔がマミータイプシュラフの上に覆い被さってきた。


 と、そのまま大きなケツをこっちに向けて、サキュルは私の太ももの間あたりに身を沈める。


「あっ……なんかいいかも。ちょうど収まる感じで」

「私の上でくつろぐんじゃない。大型犬か貴様。こっちに尻を向けるな」

「背中を預けるということは信頼しきっている証拠だよメイヤ? ほらほら、お尻叩く?」


 と、遅れてテントから寝間着(変Tシャツ)姿のシャンシャンが起きてきた。


「ちょっと何してるの二人とも?」


 元聖女は言いながら右手に光を集めている。聖属性打撃魔法シャイニングホーリーストライクだ。魔法なのに打撃ってのはこれいかに。


 淫魔が悲鳴を上げた。


「ひいん! きゃうんきゃうん!」


 お尻を隠すようにサキュルはシャンシャンにへそ天で降伏の意思を示す。


 こいつもう、淫魔じゃなくて駄犬でいいかもしれん。


 で、元聖女はというと両手で顔を覆った。


「ちょ、ちょっとサキュルさん!? どうして上、つけてないの! 女の子なんだから、その……ほ、奔放ほんぽうすぎるわよ!」


 恥じらうシャンシャンにサキュルは手ブラして返した。


「だから大変なの! サキュルの一張羅がなくなっちゃったのぉ!」


 ここに起こる――


 サキュルのブラ消失事案。


 私は淫魔を股の下からどかして寝袋を出ると立ち上がった。


「なるほど。名探偵の出番というわけか」


 シャンシャンが指の隙間からこちらを見る。


「え? メイヤさんって元大魔導師のニート兼大工さんでしょ?」

「失礼な。私は見た目通り知性派で脳筋の反対語として辞書に載るような人間だ。学生時代は王都の魔導学院で起こる不可解な難事件を、いくつも解決してきたんだぞ。みな、名探偵と私をあがめたものだ」


 サキュルが私の顔を指さした。


「うっそだ~! だってメイヤでしょ?」

「胸を隠せ胸を。あとでシャツに着替えてこい」


 私はギャルピースを目元に当てて決めポーズ&ドヤ顔である。


「犯人ありきの名推理。私が決めた相手を確実に有罪にまでもっていく。ねつ造偽証で正義執行。我が名は……名探偵メイヤ・オウサー」


 シャンシャンがあきれ顔だ。


「それ、迷探偵の方じゃない?」


 淫魔がおっぱいリフト腕組みで頷く。


「うんうん。たぶんメイヤってやつが犯人で、都合が悪いから他の人にえん罪なすりつけてたんじゃない?」


 元聖女もこれにはニッコリ。


「あっ! だから謎解きできちゃうわけね。犯人自作自演説? みたいな」


 私は海溝よりも深いクソデカため息を漏らす。


「ハァ……まったく。貴様らときたら」


 えん罪なんて人聞きの悪い。ちょっと罪のバトンをタッチしたに過ぎないのだ。

 予算を横領している教授とか、学食の食材の質を落として材料費を懐に入れた料理長とか、サークル活動費を不当に割り振りキックバックで私腹を肥やす職員とかとか。


 善人に汚名を着せたことなど、一度たりとも……いや、あったかなかったか……うーん、お ぼ ろ げ。


 記憶っていうのは忘れてしまうからこそ、辛さ悲しさとバイバイできるものだからね。


 長女二人が同時に私を指さした。


「「犯人はおまえだ!!」」

「証拠が無いでしょうが証拠がぁ!」


 こうして――


 サキュルのブラ誘拐事件は幕を開けた。

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