35.はたらくかぞく ~本日もご安全に~
家を建てると目的ができれば、自然と仕事も分担された。
セクシーしか取り柄が無いと自称する、残念セクシー担当のサキュルは資金と食料調達だ。
高級キノコをゲットして外貨獲得である。他に山菜やら毒の無いキノコやらもゲット。妖怪山菜採りサキュバスへと進化した。
森や山での仕事が終われば釣り。最近、一人でミミズを針につけられるようになったので褒めて欲しいと成長アピも欠かさない。
釣果の一部をアヒルに上納。その日食べる分より多く釣れた時には保存食にする。
頭とはらわたを取り除いて塩で揉み、七輪で焼いてから天日干しである。
ダンキホーテってこの世のなんでもあるんだね。なんか干し網みたいなのまで売ってたし。
あの店を支配したら世界取れるんじゃね?
てなわけで、すっかりサキュルは漁村か山村に嫁げそうな雰囲気である。
ロリコア書庫で得た知識万歳。
で、もう一人の長女はといえば――
山林にけたたましい切断音がこだまする。
きゅいーんぎゅいーんちゅみみみーん!
キック一発「たーおれーるぞー」と、元聖女はすっかり林業にハマっていた。
必殺の八つ裂くタイプの光輪。これが伐採にドンピシャだったわけだ。
切り倒す方向やら、建材向けの樹木の種類やらもロリコア書庫で調べたようで、ついにシャンシャンは単身で90メートル級の杉を切り倒すことにも成功した。
ズドオオオオオオオン!
と、森の中に巨大な幹が倒れ込む。切り株の向こうから元聖女が姿を現した。額をタオルで拭う姿には、貫禄すら備わりつつある。
「ねえメイヤさん! あたし、これで食べていこうと思うの」
「元聖女が木こりに転職とはたまげたなぁ」
「あなただって元大魔導師の現在無職でしょ?」
「元じゃなーい! 私は現役バリバリだから!」
「はいはい。それでは大魔導師様。こちらの木の運搬をよろしくお願いしますね」
樹齢千年みたいな大木は、そもそも山から運び出すのが大変なわけよ。
けど簡単。そう……転移魔法ならね。伝説の運び屋とは私、メイヤ・オウサーの事なのだ。
巨木に触れて転移魔法で瞬間移動。ま、このサイズのものと一緒に跳ぶとなると、出現先にも相応のスペースが必要なんで、キャンプのすぐそばとはいかんのよな。
世界がぐるんとねじ曲がり、ほどけるように元に戻ると山林から遠い平原に出た。
丸太置き場にしている。今回ジャックザリッパー聖女が切り倒したレッドシダーも含めれば、ログハウスを作っておつりが来るな。
くううう! 森林破壊は楽しいぜ! いえーいエルフ族見ってる~?
と、ふざけてもいられんか。
そろそろ製材に加工していかんとな。元聖女が山一つハゲさせかねん。
今日もどこかで鳴り響く聖なる光の回転刃。
音を聞いたら思い出せ。すぐそばに木こり聖女が潜んでいるのだ。
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森でシャンシャンを回収した。樹木の枝葉を落とし、樹皮を剥いて丸太にカット。そのままだと干割れを起こすらしい。聖なる丸鋸ことシャロン・ホープスさんが一本一本、芯まで切れ目を入れていきましたとさ。
樹木も魚も加工して日干しにしておく。知識の源泉に触れられるようになったおかげで、何かと捗るようになった。
次はログハウスを建てる場所決めと基礎工事ってやつだな。
水場の近くが便利なんだが、軟弱な地盤の上に建てようものなら沈む傾く瓦解する。
川の増水で流されるようじゃ困るわけよ。ああもう、大工さんってすごくない?
私ってば壊すのは得意なんだが、作るのって本当に大変だ。面倒臭い。やることが……やることが多い。
けどまあ――
シャンシャンもサッキーも毎日イキイキしてるし、こんな暮らしは悪くないのかもしれない。
仕事終わりに淹れたコーヒーの美味しさが格別に思える今日この頃なのであった。




