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34.ロリロリローリロリの昔語り

 八階層の地下迷宮は日替わりで構造が組み変わるとかで、私たちが書庫にたどり着けたのも、コールダックの導きあってのこと……とは、ダンジョンコア幼女の言葉だ。


 外敵対策と同時に、叡智えいちを授けるに値する英雄を選別しているとかなんとか。


 アヒルのキングが私たちを地下墳墓に導いたのは、追走者を罠やモンスターで撃退するために見えたんですけどね。


 試練を与えただぁ?


 物は言い様だな。ったく。


 今日も本のもりの中心で、青いローブが安楽椅子に身を預けていた。


 小さな口が動く。


「まさか君、製図用の机まで用意させるとは強欲ではないか?」

「本を持ち出せないならしょうが無いでしょうが」


 言えば出てくるもので、私の目の前には一畳ほどもある机がデンとある。

 ペンと定規類に方眼紙は持参した。

 本を参照しながらログハウスの設計図を写す。


「メイヤよ。最近、我が王は外で遊びほうけている」

「うちのキャンプにもしょっちゅう来てるぞ」

「ふむ。やはりか」

「なんだ貴様。寂しいのか?」

「そのようなことはないぞ。君、わたしをあまり嘗めない方がいい。だいたい、君たちを客人として招くと決めたのはキングだ」

「メスだけどな」

「うるさい黙れ」

「…………」

「何か喋れ。退屈だ」

「不条理でしょうがその要求」


 さっさと製図を済ませてしまおう。


「まあ君、なんだ。キングが時々、二人をここに連れてきてくれるので……それは良かった」


 キングも私と同じく転移魔法を使うことができる。あの頭の王冠に秘密があるらしい。

 ただし、転移といっても中央平原限定だ。

 転移先は書庫。で、もう一度転移すると、元の場所に戻るというシンプルなものだった。


 もちろん迷宮の主なので、結界による妨害を受けることもない。


 キャンプにコールダックがやってくると、シャンシャンとサッキーは釣った魚を与えて、代わりに書庫まで連れて行く……というのがここ数日の流れである。


「シャンシャンとサッキーと仲良くやっているのか?」

「ふむ。やれトイレがないだの、紅茶が飲みたいだのとワガママな娘たちだ。書庫は飲食厳禁だというのに」

「トイレくらいは作ってやんなさいよ。貴様と違って生理現象があるんだから」

「したければ上にあがって、湖を使うといい。誰も見ていないぞ」


 訊くだけ、願うだけ野暮だった。


 しばらく紙にペンを走らせた。

 一通り終わると――


「なんだ君。もう帰るのか?」

「やっぱり寂しいんだな」

「……わたしには心や感情など存在しない」

「へいへい」

「笑うな!」

「怒ってんじゃねぇか!」

「今のは幼い人間を模倣しただけにすぎない。わたしの本心ではない」

「本心って言葉の意味を辞書で百回引いてみろ」

「君はアレだな。友達がいないタイプだろう」

「貴様の方こそボッチだろうが」

「誇り高き孤立と言いたまえ」


 なんだこいつ、少しだけ私と似たところがあるな。

 と、幼女が安楽椅子をゆりかごのようにスイングさせた。


「ところで、君は出自について本当に何も知らないというのか?」

「急にどうしたちびっ子?」

「質問に質問で返すな。それに、わたしが幼いのは外見のみだ。で、どうなのだ?」

「どうもこうもねぇっての」

「五十万の軍勢を退けるなど、与太話にもならないが……少なくとも我が迷宮のモンスターたちを退けるくらいには強かった。あれはかつて勇者が魔王を討伐するために向かった、魔王城への道のりにある大迷宮を模したものだ」

「魔王ぅ? 勇者ぁ?」

「相打ちになったというがな。魔王には身ごもっていた妃がおり、それがのちの魔皇帝の血族となった。聖王家も勇者の残した種が発芽したのだよ」


 永遠に争ってそうだな。そんなバカどものおかげで、私は今キャンプ生活をしているのだ。


 ありがとうね! 楽しいよ!(半ギレ)


「なんで貴様が事情を知っている?」

「資料には事欠かぬからな」

「で、結局何が言いたい?」

「強いのだよ……君は」

「当たり前だろう超天才天上天下唯我独尊最強伝説級大魔導師のメイヤ・オウサーだからな」

「その強さのルーツが、このわたしにも読み解けないのだ。聖王の強さも魔皇帝の強さも、先祖に由来する。が、特異点だ。君は存在自体が謎だからな」

「じゃあアレじゃないッスかぁ。この世界とは別の世界からポンっと」

「――ッ!?」


 幼女が椅子から立ち上がった。


「その可能性を考慮していなかった!!」

「はあ?」

「どこで着想を得たのだね君は?」

「どこもなにも、シャンシャンが好きな物語だと結構出てくる展開らしいんですけど?」

「ふむ。あの金髪の小娘か。人の空想や創造が現実になるというならば、わたしのコアとしての固有結界を現世に固着させる力もまた同質のもの。隠されたる願望器に触れた何者かの……いや、待て。個人とは限らぬ。これほどの力。接続アクセスしたのはもしや……集合的無意識? だがどうやって同じ夢を見る? 多くの者が意思疎通も統制もされていないというのに……ああ、だからか。だから物語なのか」

「オタクのめっちゃ早口かよ」

「うるさい黙れ! 今、思考を天の海にまで広げているところなのだ!」


 はいはい。放っておいて帰り支度しましょうねっと。


 私がペンのインクを拭き取り、筆記用具をしまい終えると――


 さんざんブツブツ言ったあと、納得したのかロリは椅子の定位置に着いた。と、小さく息を吐く。


「最後に……もしトイレがあったらもう少し長居をしてもらえるだろうか」

「紅茶も出せば完璧だが、そうなるとシャンシャンの方が入り浸っちまうな」

「ふむ。参考になったよ、君。しばらくは楽しめそうだ」


 そう言って幼女は私を送り出した。

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