32.王の秘密
シャンシャンが幼女に首を傾げる。
「こんな不便な場所にずっとフォアグラと二人きりなの?」
「フォアグラ? 君はキングを食材と見なしているのか。ふむ……それは困る。ようやく見つけた、わたしが仕えるべき王なのだ」
「仕える……べき?」
「わたしがわたしを定義するならば、迷宮核というものになるだろう。この身も人と対話するための境界体でしかない。幼い少女の姿というのも、親しみやすさを考慮してのことだ」
サキュルが挙手した。
「先生ー! 何言ってるか全然わかりません!」
「貴様は黙っていろ」
「ええぇ!? サキュルも小粋な会話に参加したいよぉ!」
「いちいち話の腰を複雑骨折されては困るんだが? なんならそのおしゃべりな口を塞いでやろうか?」
「き、き、キッスで?」
私はポーチから蔓縄の種を放つ。淫魔の手足を縛って猿ぐつわが彼女の口角に食い込んだ。
さらに縄で目隠しもする。
床にどさっと倒れると、淫魔はビクンビクンとしながらよだれを垂らす。
元聖女が訴える。
「や、やりすぎよメイヤさん! 初対面の人にそんなプレイを見せるなんて!」
「シャンシャンよ。サッキーの心配ではなくそっちの心配をしている貴様もなかなかにアレだぞ」
ダンジョンコアを自称する幼女が頷く。
「君たちのことを理解した。つまりだ。キングの身柄を要求すると?」
「いや別に。それ言ってるのシャンシャン……こちらの元第一級聖女シャロン・ホープスさんだけですが」
「では君の望みはなんだ?」
「金」
「俗物か。君は」
だってシンプルにお金があれば家が建つんだもの。仕方ないじゃないか。私だって金金金! 金の亡者になんてなりたくないんだよ!
だから金くれ。
と、第一長女が安楽椅子に歩み寄る。
シュババッとキングが椅子の後ろに隠れた。
「ところで提案があるだけどコアさん」
「コア……なんと?」
「コアさん。ダンジョン・コアさんっていうのがお名前なんでしょう? あたしはシャロン。で、サキュバスのサキュルさんと、野生化した大魔導師のメイヤさんね」
改めて第一長女がおもしろ家族を紹介してくれた。
幼女は「ふむ」と息を吐き。
「君はアレだな。天然というやつか」
「天然?」
金髪をふわりとさせてシャンシャンは首を傾げた。
そういうとこだぞ。天然の狂気を孕んだ破壊の聖女よ。
青い瞳の幼女は眉一つ動かさない。
「キングは渡さない。なぜなら、我が王は本をとってくれるのだ。いちいち椅子から立ち上がらずともな」
先ほど見た光景である。幼女とアヒル。どちらが上の立場か、これもうわかんねぇな。
「大事なお友達なのね。心配しないでコアさん。そうとわかればフォアグ……キングちゃんを食べようなんてしないから」
「君はそうか。天然だが、どうやら他の二人よりも話が通じる相手のようだな」
「そこでもう一度提案というか、お願いなんだけど……キングちゃんには川魚をごちそうするから、高級キノコを採るのをやめてほしいの」
「ふむ。だが、我が王の領地だ。君の願いを承諾する理由は無い」
「どうしたらOKしてくれるか、条件を提示してコアさん」
少し考えるような間を挟み。
「なるほど。条件か。明確化しよう。キングに代わって、わたしから……ふむ。わたしは今、驚きを欲している。迷宮を踏破するほどの者であれば、冒険譚の一つも持っているだろう。物語を聴かせてもらおう。わたしの退屈を解消してくれたなら、君らの話も聞く。どうか?」
足下で芋虫状態の淫魔が「もごご~!」と全身をわななかせる。
どうせ猥談である。放っておこう。
で、シャンシャンはといえば。
「ど、どうしようメイヤさん! 何か楽しいお話でコアさんを満足させて!」
「私に丸投げやめなさいってば」
「だってメイヤさんおもしろいでしょ? おもしろいこと言って!」
「ハードル上げるんじゃないよ!」
幼女は「なんだつまらぬ」とぽつり。
この手の輩を満足させるのは不可能だ。知的好奇心系の話をしたところで「本で読んだ」とか言いそうだしな。
とりあえず思いつく限り、小ネタで攻めてみるか。
・
・
・
――二時間経過。
「君はつまらないな」
カッチーン。案の定である。私のトークに幼女はあくびすらしなかった。
五十万の軍勢をおっぱらった話も、悪徳大司教の個人的な宗教改革をした話も、魔都で庭師をして庭園を生まれ変わらせた話も、カジノで五十億以上稼ぎそこなった話も。
幼女のリアクションは薄い。
「フィクションにしても荒唐無稽がすぎる。どうやら交渉は決裂か。キングが導いた者たちと期待していたが……」
椅子の下からアヒルが顔を出して「ザァーコザァーコ」と汚くあざ笑った。
こいつやっぱりグリルにしてやろうか。
と、シャンシャンがアヒルをひょいっと抱き上げてぽつり。
「さっきからずっと気になってたんだけど、キングってメスよ?」
「君……何? なんだと?」
初めて幼女表情が変わった。目をかっぴらいている。
元聖女はプルプルもこもこコールダックのお尻を見せる。
「だってほら声も大きいし、お尻の尻尾の部分がシュッとしてるでしょ? オスは先端がくるんってカールしてるのよ」
「シャンシャンよなんで知っている?」
「家畜のお世話も教会でしてたから」
なるほど。本で得た知識ではなく経験が物を言ったわけだ。
「まさか……わたしが……英知の源泉たるわたしが、そのような勘違いを……キングは偽りの王だというのか!?」
王を欲するがゆえに、そうであれと願った結果のなれの果て。
幼女に勝利(?)して、シャンシャンは得意げに平らな胸をを張り腕組みだ。
「フフン♪ まだコアさんはちっちゃいんだし仕方ないわよね」
「君……口を慎みたまえ。無限の時の囚人たるわたしは、君などとは比べものにならぬのだよ」
と、ここで足下の芋虫状態な淫魔がようやく、二時間かけて自力で蔓縄を噛みちぎった。
結構根性あるな。
「じゃあじゃあ何歳? サキュルはね~シャロンよりお姉ちゃんなんだけど。ちびっ子に勝てるかなぁ」
「やめておけ。女性に年齢の話など無粋だ」
「こういう時だけ紳士なの? ははーんさてはメイヤ……ロリコンなんだ! だからサキュルのダイナマイツボデーに発情しないんだぁ。って、あれ? じゃあなんでシャロンに盛らないの?」
元聖女の視線が足下の淫魔に突き刺さる。
「ちょっとそれ、どういう意味かしら?」
「だってシャロン……胸がッ!? あっ……八つ裂くタイプの光輪無言で出すのやめてー! なんかヒュンヒュン空気斬ってる音するんだけどぉ! ごべんなざいいいい!」
どうやら目隠しされていてもシャロンの光輪が感知できるようになったらしい。
成長といっていいんだろうか。
ダンジョンコアは眉尻を下げた。
「君たち……なんだ。君たちはその……騒がしいな。鏡のようなわたしの理性の湖面をざわつかせる」
と、言いつつも。
「が、キングがクイーンだったとは……驚いた。退屈を解消してくれた礼はしなければな」
シャロンのまさかの活躍で、やっと対等に話しができそうだ。
金になればいいんだが。




