表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

202/205

202.道は未来へと続いているから

 聞き慣れた声が呟く。


「ああ、シャロン……君か……ありがとう……ただ、ずいぶんと印象が変わってしまったのだね」


 コアだった。ずっと安楽椅子に座っていた彼女が、等身大に戻って自身の足で立っている。


 イモコと並ぶと姉妹というのがよくわかった。


「コア! 貴様……無事か! 大丈夫なのか!?」

「わたしのために泣いてくれるのかい、君」


 気づいていなかった。いつの間にか視界がぼやけて、熱いものが頬を流れ落ち止まらなかった。


 コアがイモコと対峙する。


「どうやら終わったようだね、イモコ」

「……うん……」

「とりあえず地上に戻ろうか。大聖典を置きっぱなしのはずだよ、君」


 ガラス玉の瞳がじっと私を見据えた。


「今更、あんな古くさい本でなにするってよ?」

「いいから、君。転移魔法で運びたまえ」


 口で説明するより早いと、幼女は笑った。



 地上に戻ると――


 銀髪の少女が大聖典を抱いていた。


 全裸で。


「お、おいリーゼ貴様! その本は危ないから置きなさい」

「い、いやです!」

「その前になんか着るものないんですか!? 正視できないでしょうが!」

「は、恥ずかしいのはこっちなんですよ義兄にいさん!」

「だったら物陰に隠れるとかしなさいよ!」


 銀髪をさらさらと左右に振ってリーゼは下を向いた。


「この大聖典を手にした者は……聖王……ですね」


 雰囲気が変わった。

 おい、まさかやめろよマジで。やっとやっかいな聖王が消え去ったってのに、最後の最後で「じゃじゃ~ん! 実はわたしがラスボスでした~!」なんてさ。


 背中にイモコを庇ってコアが一歩、前に出る。


「リーゼ。君も銀天使でいる間に、何が起こっていたか見ていたはず。魔晶石だった、わたしと同じようにね」

「はい……死ぬこともできず、ただ……皆さんにご迷惑をおかけし続けて……わたしが助けてなんて言わなかったら、姉さんだって……こんなことには……」


 天使が浮き上がってリーゼの前に降りたつ。ぎゅうっと抱きしめる。


 今のシャンシャンにとって、ああすることだけが気持ちを伝える手段なのだ。


 愛と許しを。


「姉さん……ううっ……ごめ……ごめんな……さい」


 金天使は無言で首を左右に振った。


 リーゼだって何も悪くない。聖王に利用されちまっただけだ。


 命じられるまま大霊峰の竜たちを殺したことも、全部あの化け物に責任がある。


 助けようとしたのは、私やシャンシャンが勝手にしたことだ。


「いいかリゼリゼ。貴様が救いを求めようとそうでなくとも、私もシャンシャンも……みんな救うつもりでいたぞ。ドラミちゃんだって、全部のみ込んだ上で、この戦いに力を貸してくれた。自分を責めるな」


 リーゼはそっと天使の腕を解いた。


「コアさん……それに……イモコ……さん?」


 コアの後ろからそっくりな幼女が顔を出し「……うん」と返す。


「姉さんが今、聖王……なんですよね?」


 バトンタッチするように、イモコが前に出た。


「……そう……」

「わたしには姉さんほどの才能はありません」

「……あっ……うん……いいの?」


 リーゼの表情が引き締まる。迷いの無い澄んだ眼差しで銀髪の少女は大聖典を見つめた。


「わたしが聖王を……姉さんから引き継ぎます。歴史上最弱にはなると思いますから、イモコさん……どうか力を貸してください」


 おいおいおいおい、ちょ……あの、それって――


「ねえちょっと待って貴様たち! シャンシャンからリゼリゼに名義変更なんて、簡単にいけるわけ?」


 イモコが小さく首を縦に振る。


「……当人同士の合意がなくても……今のイモコは……自分で仕えるべき王……選べる……」


 大聖典に光が宿り、独りでにページが開いた。


 一行目の文言が書き換わる。


 シャロン・ホープスからリーゼ・ホープスに。


 聖王の位が譲渡された。


 瞬間――


 金色の天使の身体が光に包まれ、水晶の鱗が剥がれ落ちるようにして……。


 ふわふわの金髪が姿を現した。


 全裸で。


 迷わず私はシャンシャンを……シャロンを……抱きしめた。


「た、ただいま……メイヤさん」

「おかえり! おかえり! おかえりおかえりおかえり! シャンシャン!」


 涙が溢れて止まらない。ああ、格好悪いな。みんなに見られて……けど、関係ない。

 私は元来、格好いい人間ではないのだから。


 ああ、これで本当に……本当に全部、終わったのだ。


 いや、今日、この場所から始まるのかもしれない。


 私たちが紡ぐ、新たな物語れきしが。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 更新お疲れ様です。 良かった!ハッピーエンドで終わらせます宣言が有ったので多分大丈夫…正直言うとちょっと心配でしたが、なんとかハッピーエンドで片付きそうですね。 ただドラミちゃんは下手を…
[一言] リゼリゼは、シャンシャンほど才能ないから、シャンシャンほど神に近づかない=天使化はそこまで進まないで済む?ということかのう?
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ