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192.いつめんだけど空席ひとつ

 淫魔のサッキーが私の治療を買って出た最大の理由にして、謎。

 治癒魔法の使い手である元聖女――シャンシャンなら一晩と掛からなかったはずだ。淫魔が無理して精神的なダメージを負い、変態から普通の可愛い女の子にならずに済むんだが……。


 魔帝都の中心にそびえ立つツインタワーキャッスルの一室で、私は小さなコアに訊く。


 彼女は机の端に腰掛けて、両足をぷらぷらさせて返した。


「君、シャロンがいなくて幸運だったね」

「誤解だからな」

「女の子の尻や胸を喜んで揉む君が言うと、信頼性に欠ける気がするね」

「不可抗力でしょうに」


 事実だけを述べれば、私は聖王国の教区内にいる女の子たちのお尻を揉み逃げダイナミックしたあげく、シャンシャンの妹の胸も揉み揉みしたのである。


 これってラッキースケベに該当するんですか? 義務スケベじゃね?


 小さなコアはあくびで返す。あきれ顔だ。


「わかっているよ、君」

「で、シャンシャンはどこに行っちゃったんかね?」

「君には教えないで欲しいと……ね」

「無事なんだろうな?」

「祈るより他ないよ。ただ、ドラミにどこかに連れて行ってもらったようだね」


 ドラミちゃんに? ってことは、魔帝都を出たってことか。


 コアはじっと上目遣いで私を見る。


「間違ってもドラミを問い詰めて、困らせるものじゃないよ」

「へいへい」


 速攻で釘を刺してくるとは察しの良いガキもといロリである。

 つまり、シャンシャン不在だったってわけだ。


「君の治療に際し、魔帝国にも治癒術士はいるが、サキュルがどうしてもと嘆願したのだよ」

「サッキーが?」

「誰もが君の力になりたいと感じているということさ。かといって、聖王との戦いで君と並び立ち、戦えるほどの力はない。歯がゆいね。たくすより他ないのだから」


 私の戦闘スタイルの特性上、どうしても短距離転移魔法による機動戦がメインになる。

 一撃離脱が信条の、極めてソロ向け仕様スペックなのだ。


「別にみんなが気に病むことないだろ。私が適任。ただ、それだけだ」

「君ならそう言うと思っていたよ。わたしは……わたしたちは君の仲間だ。だから、君の意見を最大限尊重する」

「改まって急にどうしたよ? なんか、怖いんだけど」

「会議場でみなが待っている。そろそろ行こうじゃないか、相棒」


 気に入ったらしく小さなコアは私に拳を向けた。そっと優しくグータッチして、彼女を肩口に乗せて部屋を後にする。


 コアとヤンミンの解析結果から、作戦の大枠は私がダウンしている間にほぼ固まったとのこと。


 あとは実行者である私の意見を交えて、聖王殲滅戦に臨む。


 最後の戦いを前に、シャロンの顔を見られないのは少し寂しい。

 これが今生の別れかもしれんが――


 いや、弱気は私らしくないぞ。笑顔と余裕とおちゃらけと、めた態度が、世紀の超絶最強天才大魔導師メイヤ・オウサーなのだから。



 長机の上座の中心に、魔皇帝エイガがつく。脇を固める四天王。

 こちらは清楚化してもじもじするサッキーと、今日も元気いっぱいツインテールふりふりなピンドラちゃんが下座に並んだ。


 テーブルの上に柔らかい布が敷かれ、子供の手のひらほどもある巨大な宝石が鎮座している。


 ドラミちゃんが瞳をキラキラさせた。


「お兄ちゃんお帰り~! ねぇ見て見て! キラキラの石だよ? 綺麗だね~」

「あ、ああ、えっと……そうだなドラミちゃん」

「あんねあんね、シャロンちゃんはえっと……心配しないでって」


 私は腕組みする。


「まったく、このクソ忙しい時に単独行動ですか? いったい誰に似たのやら。困った元聖女だな。放っておけ。そのうち、私の淹れたコーヒーが恋しくなって戻ってくるだろ」

「うん! シャロンちゃんもお兄ちゃんが大好きだから、戻ってくるよね!」


 と、ピンドラちゃんは終始朗らかだが――


 魔翼将軍カルラの視線が痛い。


「あらあらあらぁ。一晩中お楽しみだったそうねぇ白竜ちゃぁん♪」


 なぜかサッキーが「ご、ごめんなさい」とうつむいた。


「おい鳥女、エイガ君の心を読んだな?」

「だ、だって……心配だったから……つい、やっちゃったのよ」


 ついで国家元首の心を読むんじゃないよ、まったく。

 で、読まれた方はというと――


「師匠、医療行為だとはうかがっていましたが……その、勘違いをしてしまいました。お恥ずかしい限りです」


 と、一礼した。


「皇帝が簡単に頭を下げるもんじゃないでしょ」

「俺は結局、魔貴族諸侯連合のトップに過ぎません。彼らとの折衝はヤンミンのおかげで上手くやれているだけです。それに、師匠も中央平原の王。対等な立場ですから」

「こっちは片手で収まる人数ですが? 国の規模が違うでしょうに」

「戦力ではこちらが負けております。師匠の本気には、誰も太刀打ちできない」


 と、言いつつも、私が悪人(私基準)以外はしばかない、シャドウジャスティス二号なことを、若き皇帝は重々理解している。


 皇帝の両脇に控える魔狼将軍と魔竜将軍が明後日の方を向いた。

 ま、この二人だって戦闘力的には相当強い。相手が悪かったのだ。なお、その相手とは私である。


「おだてても何も出ないぞ皇帝陛下」

「陛下はよしてください師匠」

「このやりとり何度目だねエイガ殿」

「これからも、どうかよろしくお願いしますメイヤ殿」


 本当にね、誰に似たのよ。出会った頃はもっとこう、可愛げのあるピュアボーイだったのに。


 色々あったしな、今日まで。強くなった……ってことか。


 人は変わる。変われるんだ。私とて自覚の有無問わず、キャンプ暮らしを始めてから変わっただろう。


 根っこの部分、性根はそのまんまかもしれんけどね。


 と、浸ってる場合じゃない。


「おいコラ、ヤンミン。仕事しろ」

「皆、お喋りが好きみたいですね。黙れ、全員」


 あっ……ちょっとキレてる? 議題の進行妨げちゃったかな。


 ヤンミンが手のひらから映像を投影した。


「私とコアで王国に秘匿された姉妹機……イモコ(仮称)のデータ解析を行いました。拝聴しろ」


 私の肩口でコアが「仮称ではないよ、ヤンミン」とため息交じりだ。


 こうしてヤンミンの「講義」が始まった。授業を受けるのなんて魔導学院生ぶりだな。今日の教授は気難しそうだし、寝ないよう留意しつつ素直に黙っとこ。

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