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191/205

191.夢です通してください……

 背中にすべすべとした感触があった。シルクのような感触だ。


 身体が重い。まるで巨大な蛇が全身に巻き付いたように。


 まぶたを上げようとしても、開かない。


 私に絡みついた蛇が左脚に密着し、妖しく蠢く。

 穴の開いた脇腹にぴたりと吸い付いて、柔らかいモチモチとしたもので撫でる。


 そのたび、じわっとした心地よさに襲われた。身体が芯からかああっと熱くなる。なのにけだるくまどろんで、指先一つうごかせない。


 まるで大蛇に丸呑みにされたかのように。温かい粘液の中に溺れる。苦しみは消え、痛みは薄い膜状の快楽に上書きされた。


 心地よい。絶頂感に向かうのではない、緩やかな幸福を全身に浴び続ける。


 生まれる前の胎内は、きっとこうだったのだろう。与えられる喜びをただ甘受する。


 絡みつく蛇が私の上に乗り上げる。柔らかい二つの膨らみが私の胸板に重なり、押しつぶすように密着した。


 しっとりとした感触とゴムまりの弾力。触れるだけで瑞々しい艶が感じられるほどだ。


 ツンとした先端が充血して硬さを帯びた。


 蛇は私の首筋に舌を這わせ、付け根からゆっくりと味わうように耳の舌まで舐め上げる。

 巨大なナメクジが頸動脈にそって登ってくる感触。時折、柔らかい肉の先端が首筋をほじくるようにつつき、蠢き、私を慣れさせない。


 くすぐったさの中に、じわりと快感が残る。


 船の軌跡の波のように肌の上を流れて広がり、全身の痛みに染みこんで甘い痺れが脊椎から指先や足先、身体の末端部分にまで波となって伝わった。


 蛇は私の身体の上でのたうつ。湿り気を帯びた体温がふれあった部分で無邪気に交わる。身体の一部を引きずり込まれるようだ。


 仔犬がじゃれ合うリズムで蛇は身体を揺らした。


 蛇は再び私の首に巻き付くと、耳元でチロチロと舌を這わせる。ゾクッと背筋が反応して、動かなかった身体が反射的に波打った。


 熱い吐息を喉元に感じる。蛇が首筋を甘噛みし、耳たぶを舌を上で踊らせた。


 チロチロと遠火で炙られるように粘膜の触れた部分が熱くなる。


 このままだと……堕ちる。堕ちたまま、戻れなくなる。


 私は……立ち上がらなければいけない。奮い立たねばならない。私とて……男なのだ。


 目を開け。このまま、まどろみの夢に耽溺たんできしていられな……。


 蛇の丸く柔らかい膨らみに私の顔は埋められた。甘い匂い脳が痺れる。


 ねえ、蛇って……こんなやわわでたわわな器官ついてたっけ?


 ああ……けど……ま……いいか。



 カーテンの隙間から射す陽の光で目を覚ます。


 ここはどうやら、魔帝都の中心――ツインタワーキャッスルの一室だ。

 確か聖王国から転移魔法で、玉座の間に転がり込んだんだよね。


 ここなら人目に付くし、気絶しても誰かなんとかしてくれるだろう。


 もくろみ通り、無事生還である。


 病室というよりも内装豪華な客間で、天蓋付きのクイーンサイズベッドの上に私は大の字になっていた。


 一糸まとわぬ姿で。どうりで背中からお尻までシルクシーツのすべすべな心地よさを堪能できたわけだ。


 銀天使に貫かれた脇腹に触れると、綺麗に塞がっていた。


 シャンシャンが治癒魔法でどうにかしてくれたか、魔帝国の治癒魔法使いか。

 ありがたい。体中に蓄積していた疲労やダメージも、まるごとスッキリ消えた感じだ。


 眠っている間に、なにやら妙な夢を見た気がす……。


 視線を落とす。


 もぞもぞと毛布の中で何かが蠢いた。


 いる……誰かが。


「ん……あん……朝ぁ?」


 毛布の中からショートボブが飛び出した。眠そうに七色虹彩の目元を擦る。


 サッキーだった。


 しかも、全裸で。たわわをぶるんと揺らして、私の腰の上にアヒル座りである。


 下から見上げる南半球が二つ。おもわず両手で支えたくなる距離感だ。


 腰の上を圧迫するように乗っかって、少女はお尻をフリフリ。尻尾の先っちょがにょっきり毛布の下から鎌首をもたげた。



「おい、貴様何してる?」

「何ってえっとぉ……は、はわわわ! そ、そっちこそ、どうして裸なの?」

「全裸の貴様に言われる筋合いはないぞ」

「はううううう! 恥ずかしいよぉ! みないで! みないでぇ!」


 サッキーは私から毛布をひっぺがした。毛布で前を隠す。


 で、ひん剥かれた私はというと――


「や、やあああ! なんでおっきくなってるの! 狂暴すぎるよぉ……うう……けど、みたくなっちゃう……目をそらせないよ……サキュルおかしくなるぅ」


 恥ずかしそうにサキュルは両手で顔をおさえて耳の先まで真っ赤になった。


 だってほら、朝だし。元気にもなるでしょ。


「あっち向いてろ」

「ご、ごごごめんなさい」


 少女はベッドの上でくるんとこちらに背を向ける。しゅんとしおらしい。仕草の清楚さだけなら百合の花だ。


 実際はその……目のやり場に困る。


 肉付きの良い大きなお尻と、くねる尻尾。キュッと引き締まったウェストに、後ろからでもわかる、脇からはみ出るほどの二つの丸い果実。


 頭隠して尻隠さずどころではない。


 しかし、サッキーらしくないといえば、らしくない。


 とはいえ、案外元々は恥ずかしがり屋さんというか、ファッションドスケベ変態淫魔なのかもしれん。


 なんだかんだ、なりかけることはあっても何もなかったわけだし。


 むしろ、今の無防備にお尻をさらす彼女の方がエロいまである。


 と、そういえば――


「もしかして、貴様が私の治療をしてくれたのか?」


 背を向けたままサッキーはうんうんと二回、頷いた。


 あーなるほど理解した。


 以前、カゲ君こと魔皇帝エイガ少年が、お忍びで正義の味方をしていた時のこと――


 私を庇って彼はうっかり致命傷を負ったんだっけ。


 シャンシャンが治癒しようとしたんだが、魔王の血が濃い純血魔族のエイガ君には、聖なる光の魔法力による治癒は逆効果。


 で、代わりにサキュバスのサキュルがエイガ君の傷や痛みを吸い取るようにして、肩代わりしたんだ。


 肉体の負傷を精神的なダメージに変換してサッキーが肩代わりした結果――


 変態的な精神性が破壊されて、清楚で可愛い普通の女の子(なお身体はエッチ)のサキュルができあがった……ってこと。


 つまり、今、私にお尻を向けている彼女は――


 その背後に近づいてぎゅっとハグして頭を撫でる。


「ありがとうなサッキー。貴様のおかげで全快だ」

「ひゃ! あう……ら、らめぇ……ぎゅってしないでぇ……男の人に……触られたら……き、きもちよくなっちゃ……だ、だめなのぉ」


 耳まで赤くして全身をぷるっぷるっと痙攣させる。


 逆セクハラ返しを食らえ! って、あれ? 普通にセクハラか。


 サキュルが肩越しに振り返る。目はハートマークが浮かんだように虚ろで、だらしなく舌を出していた。


「もう……かんにん……してぇ」


 まるでキスをねだるように、顔を寄せてくる。いやいや、清楚化してるんだし、単にハグされて恥ずかしいだけだよな。ちょっと、刺激が強すぎたか。


 そろそろ解放してやるか。と、思ったところで――


 扉が豪快に開かれた。


「師匠! ヤンミンとコア殿の解析がおわりま……お楽しみのところ、し、失礼しました! 英雄色を好むと言いますし……シャロン殿には内密にしますから安心してください!」


 魔皇帝が現れるや、一瞬だけ私と目が合うとすぐに走り去っていった。


「や! ちょ! 待って! 誤解! 誤解だからあああああッ!」


 このあと、魔皇帝→なぜか気まぐれで読心しちゃった魔翼将軍カルラ→全員に情報共有されましたとさ。


 元聖女シャロン・ホープスを除いて。

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