184.転移魔法が得意な人向けの調査手法(最適解)
夜――
聖王都の中でも大聖堂を中心とした教区は特に静かだった。
裏路地さえも整然としている。隠れる物陰を探さなければいけないほどだ。
身を潜め息を殺した。
魔帝都の喧噪とは真逆である。水を打ったような静けさだ。夜の町に出歩く人の姿が無い。猫さえも通らないので逆に不気味なくらいだ。
私の肩口には小さな幼女の人形が座っていた。
耳元で囁く。
「説明した通りだよ、君」
「コアの妹……イモコの位置は、正確にはわからんのだな」
「君の仮称のセンスはどうにかならないのかな」
「わかりやすくていいだろう」
「頼むから、発見した時にその名では呼ばないでほしいものだよ、君」
コアは呆れ気味だ。彼女は続けた。
「聖王都も広い。教区を含む王城のエリア内にまで絞り込むので手一杯さ」
魔帝国四天王のヤンミンが人の姿で溶け込んでいたように、王国のコア――イモコ(仮)もこの範囲内にはいる。というか、彼女を中心に結界などの領域が展開される。
コアはその波動で範囲を特定したというわけだ。
肩乗り幼女は腕を組む。
「教区内と王城付近に住めるのは第一級聖女と従者の女性に限られるということさ」
「木を隠すには森……ってか。それで、誰がイモコか確かめる方法は?」
「直接触ってだよ、君」
「はい?」
「女性の柔らかい敏感な部分を揉んだり掴んだりさすったりつついたりした時に、わたしの妹であれば君の期待とは違う感触になるはずだからね」
「期待って……どういうこと?」
「言った通りだよ、君。今夜のうちに教区内の聖女や侍女を揉みまくる。もし、教区で見つからなければ城内ということになるが、シャロンの情報では聖王は後宮を構えておらず、妃もいないとのことだ」
側室どころか正室もなし。たぶん、あの化け物にとって子孫を成すことは意味がないのだろう。
不老不死にして不滅の力を、光の神に与えられた。みたいなことをほざいていたし。
「しかしなコアよ。本当に……やらなければならんのか?」
「世界を救うためだよ、君。きっと聖女や侍女たちもわかってくれる。さあ、今夜……この区域の女という女の柔らかい部分を揉みまくるのだ」
「通報されるでしょ?」
「修道女たちは寝静まっているからね。寝室に突然現れるのは得意だろう? 君」
寝込みに突然部屋に凸して、一揉みして去って行く。
相手に気づかれずに。
なるしかないか……お尻怪盗。
「わかった、貴様の提案を呑む。お尻怪盗の汚名、甘んじて受けよう」
「君、なにを急に言い出すんだい?」
「え? だってほら、寝込みに尻を揉んでいけってことだろ?」
「飛んだ変態だな、君は。触るのはほっぺただよ」
人形が自身の指で頬をつつく。コツコツと硬質な音だった。
じとっとした眼差しを向けながら――
「しかし、そうか。君にとっての女性の柔らかい部分とは、臀部か。シャロンには朗報だな」
「う、うっせーわい」
久しぶりにキレちまった。もうね、こうなったら揉むしかないね。
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聖女の寝室に転移魔法で降りたつと、ベッドの上で寝転がる女性のお尻を揉み揉み。
「違うな。次だ」
侍女の部屋に跳んで、頭から毛布をかぶった少女のお尻を揉み揉み。
「柔らかい。アウト」
隣の部屋へ。その次へ。痕跡を残すことなく、夢の中の住人たちの尻を揉む。
「なあコアよ。胸だったらアウトだったな」
「君、変態が過ぎるよ。アウトだ」
「頬なんぞ揉んでいられるか。いいか、顔の方が尻よりも敏感だ。間違って起こす可能性がある。安全なのは尻だろう」
「尻が敏感な者がいるかもしれないだろう」
「貴様も言い方がアレだぞ」
軽口を叩きつつ、王城以外の教区を巡り巡った結果――
揉みすぎて手の感覚がなくなるくらい、一晩かけて王都中心の女の尻を揉み揉みコンプリート達成に王手をかける。
最後の一人を揉んでいる時――
「ん……あん……」
まだ薄暗い。窓の外に日が出るよりも早いのだが、女が身じろぎした。
「バカな。まだ朝の5時前だぞ」
「君、修道女の起床は早い。揉むなら早くし給え」
修道女の目が開きかけた。私はベッドに身を乗り出しとっさに視界を手で覆うと――
いかん、尻が遠い。ええいままよ。
すまない一般就寝修道女。
彼女の片手に収まるくらいの胸を手に包んだ。確認と同時に転移魔法で跳んだ。
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「あれ? 今……胸を……ああ、神様。どうかお許しください。聖職に身をおきながら、このような淫らな夢を見るなんて」
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教会の鐘楼の上に立ち、朝陽を出迎えながら右手の感触を確認する。
肩口で妖精のように幼女が訊いた。
「それで、どうだったんだい君?」
「はずれだ。どうやら教区に貴様の妹はいなかったようだな」
一晩かけて検分した結果、全部が全部、柔らかかった。




