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182/205

182.空よりも高く遠く祈り届けて天に吠える

 私は今……魔帝都上空を旋回飛行中だ。


 竜騎人のスーツを身にまとい、ピンドラの頭の上で座禅を組む。


『お兄ちゃんもウチとお揃いのピンクなんだぁ』


 空中でも尻尾をブンブンさせてドラミちゃんは上機嫌。ずっと会議だ話し合いだで、窮屈と退屈を持て余していたようだ。


 一応、魔翼将軍旗下の軍団から飛行許可を貰っている。住人たちはといえば、避難訓練だ。


 ドラミちゃんを仮想銀天使として、避難経路を確認する。魔帝都総出の訓練だが、他の町でも準備が整い次第、魔翼将軍が中心になって実施される。


 ドラミちゃんがピンクなこともあってか、避難しながらちびっ子やらが指をさしたり手を振ったり。


 案外、平和だな。

 できればこの避難訓練が訓練のみに終わって欲しい。


 がんばらなきゃな。と、遠足気分な幼年学校の子供たちに私も手を振って応えた。


 地上ではウルヴェルンとラードンの陸戦隊と、都市警備部隊が総出で誘導している。


 一通り、予定の飛行ルートを飛び終えたところで――


『なあドラミちゃんや』

『なーにお兄ちゃん? あ! ははーんさては、恋のお悩み相談でしょ?』

『どうしてそうなるよ』

『だってさぁシャロンちゃんとぜんぜんお話できてないし』


 一番に彼女の元へ行ったが「今は一人にしてほしい」とやんわり断られてしまった。


 すぐに会議になって、訓練の手伝い……というか、ドラミちゃんが調子に乗ってアクロバティック飛行を魔帝都の人たちに披露したりせんように、お目付役だ。


『お兄ちゃん! このお仕事が終わったらダッシュだよ? ウチと約束ね』

『シャンシャンは困ってるっぽいんだが……』

『それでもね、女の子は白馬に乗った王子様がぁ、暗い闇の底に手を伸ばして救い出してくれるのを待ってるんだからにぇ!』

『シャンシャンが待ってなかったら、私ってばとんだ迷惑な人だな』

『あれ? お兄ちゃん自覚なかったの? 生まれながらにお騒がせ人間でしょ?』


 ええぇ、貴様、私の人生の何年を知ってるの? 知り合ったの割と最近よ?

 だけど、言ってることには一理ある。


『つーか貴様に言われなくとも行くからな』

『うんうん♪ その調子だよお兄ちゃん!』


 ピンドラちゃんが大きく弧を描き旋回飛行して進路を反転。大使館と化した旧ゴクド組本家へと目的地を変えた。


『なあドラミちゃんや。一つ相談というかだな……』

『なになに? ウチで力になれること?』

『実は……』


 銀天使との戦いで、私を守り生かしてくれたのは竜たちの怨念だった。いや、私が生き残ったのは結果論で、復讐がメインだったと思う。


 その時の、身体の自由が利かなくなったこと。竜騎人の鎧が黒く染まった現象に、再現性があるのかが心配だ。


 銀天使と戦った場所が場所だからこそ、起こった偶然かもしれんが。


 次に銀天使……リゼリゼと対峙した時に、また同じ事が起こるかもしれない。戦闘力的には優秀でも、制御不能な力はあてにはできない。


 むしろ、危険すぎる。


 と、話し終えるとドラミちゃんは鳴いた。


「グルウウウワアアアアアアアアアアアアアアン!」


 遠く青い空の向こうに咆哮が吸い込まれる。悲しい声だ。


『ドラミちゃん……大丈夫か?』

『みんなの怒りがお兄ちゃんの身体を使ったんだと思う。なら……』


 不意に、桃竜は上空へと昇り始めた。雲目がけ飛翔を続ける。


『おい、どうしたドラミちゃん?』


 振り落とされないよう、彼女の頭にカエルのようにしがみついた。


 あっという間に雲を突き抜け、白い絨毯がみるみる足下から遠のく。


 視界に警告の赤い古代文字。高度限界を示している。身体が凍り付き、大霊峰の山頂が比では無い。


『誰よりも高いところに行って、ウチが……竜の神様に祈りを届けるよ』

『ドラミちゃんや! おいおい! 無理するんじゃないよ!』


 彼女の桃色の鱗に霜がおり、真っ白く染まった。


『苦しい……けど……竜の……神様……ウチが一番近くに来たから……聞いて』


 ドラミの鱗が光を帯びた。


 霜が剥がれ落ち、色素が抜けた透明感のある白鱗へと変貌する。


 まるで大霊峰の頂点に鎮座していた、純白竜だ。


「グルアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアン!!」


 空よりも高い場所。世界の輪郭が弧を描いて見える天の向こう側で、純白竜ドラミは声をあげた。


『ウチはいっしょにいってあげられない。だから……お兄ちゃんを……守って……神様……』


 いるかもわからない神を信じ、祈りの声を上げた純白竜。


 応えるように、私の身体を包む桃色の鎧が白い輝きを帯びた。


 竜の神の姿は見えない。奇跡でも起こったんだろうか。


『ドラミちゃん……もういい、ありがとう。十分だから……戻ろう』

『え……へへ……届いた……かな……お願い……』


 途端に純白竜は姿勢を崩し、失速。地上めがけてときりもみ状態で墜ちる。


 応答も反応もない。意識を失ったかドラミちゃんや。


 墜ちる、墜ちる、墜ちる。視界いっぱいに赤文字のアラートだ。


 一瞬で雲を突き抜け魔帝都に隕石よろしく落下する、その刹那。


 竜騎人の鎧を解いて、私は転移魔法でドラミちゃんごと大使館の日本庭園へと跳んだ。


 落下の慣性がかからないよう、座標をコントロールして無事着陸。


 ドラミちゃんはといえば、元の桃竜に戻っていた。


『むにゃむにゃ……もう食べられないぃ……』


 猫みたく丸まって寝言ですか? いや、気絶してたんじゃないのか貴様。


 ともあれ、庭に小山が出来上がった。お疲れ妹よ。もし、竜騎人の鎧が怨念の力で暴走しそうになったら、今度は私が根性でねじ伏せてくれる。


 と、騒ぎに気づいて屋敷の奥から金髪の少女が姿を現した。


「あっ……おかえりなさいメイヤさん。それにドラミさんも」

「ただいまシャンシャン」

「あの、えっと……ドラミさんは眠ってるのかしら?」

「ちょっと限界まで飛行訓練で自分を追い込んだあとでな。少しこのまま休ませてやってくれ」

「あたしは構わないけど」


 軒先には出ずに、シャンシャンは縁側で困り顔だ。

 私と視線を合わせてくれない。


「ところでサッキーは?」

「コアさんと一緒に、ヤンミンさんのところよ。アヒルのキングも同伴ね。町を案内してもらってるみたい」

「そ、そうか。貴様は行かなかったんだな」

「え、ええ。誰かお留守番してないとって思って」


 互いに言葉が出なくなった。


「「あの」」


 と、思ったら被った。


「メイヤさんからどうぞ」

「いや、シャンシャン。貴様が話せ」

「あ、あたしのはたいしたことじゃないから」

「どんなに些細なことだって構わんさ」


 すると、シャンシャンはサンダルを履いて軒先から庭に降りてきた。


「な、懐かしいなぁって。少し前のことなのにね」

「懐かしいって何が?」

「メイドのシャーリーをしてたんだなって。あの頃のメイヤさん、記憶を失ってて大変だったんだから」

「その節はお世話になりました」


 つい、頭を下げてしまった。


「変なメイヤさん……って、いつもの事か」


 やっと、彼女は表情を柔和にしてくれた。


 ようやく落ち着いて、向き合って、シャロンと話ができそうだ。

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