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181.凸前ブリーフィング

 魔帝都に戻ると、翌朝早々に会議を招集。


 皇帝の居城、ツインタワーキャッスルの会議室に関係者一同が集められた。


 魔皇帝に四天王。こちらは元聖女と淫魔と人間体のピンドラ。そして、私とコアとアヒルのキングだ。


 コールダックに横乗りした小さなコアから現状が伝えられた。


 一番、紛糾ふんきゅうしたのは聖王国への侵入チームについてだ。


 魔翼将軍カルラが椅子から立ち上がり、翼を広げた。鳥によっては身体を大きく見せることで、威嚇したり自分の強さをアピールすることがあるらしい。


「ぜひ、わたくしの同行をお許しくださいな。情報収集の役に立ってみせますわ」


 魔皇帝エイガを挟んだ対岸で狼男も立ち上がった。


「おいコラクソ鳥。テメェが心を読めるっていっても、騙されただろうが?」

「あ、アレはリーゼちゃんの記憶が封じられていたからよぉ」

「同じ事が起こるんじゃねぇか? すっこんでろ」

「なによ! あなたこそ人数合わせだったじゃないの。だいたい偽魔皇帝との戦いで、チャンスに邪魔したわよね?」

「妨害してきたのはテメェだろうが? おいメイヤ! 連れて行くなら俺様にしろ! 鼻が利くんでな」

「匂いをくんかくんかする変態狼男なんて連れてたら、不審者丸出しじゃないかしら? その点、わたくしは天使って言い張ればよいのですし」


 魔皇帝エイガの頭上を跳び越えてにらみ合いする四天王二人。


 エイガも立ち上がった。二将の間に挟まり、双方をいさめる。


「二人ともそこまでだ。聖王国ではウルヴェルンの姿は目立ちすぎる」


 狼男の尻尾がへにゃんと垂れた。一方、勝ち誇って胸をぶるんと張る鳥女。


 だが――


「カルラもカルラで天使を騙るのは、人々の注目を集めてしまうから無しだ。両名ともに帝国領の防衛に努めてくれ」


 魔竜将軍ラードンが「そういうことだ」と、腕組みし頷く。どういった形で攻撃があるにせよ、銀天使リーゼが相手では帝国軍の精鋭とて、歯が立たない。


 魔知将ヤンミンにいたっては、ずっと文通相手だったコアと直接対面……というか、アヒルのキングをテーブルの上に乗せて、そのふわふわ感を楽しんでいた。


 ともあれ、軍を指揮する四天王は、銀天使の侵攻ルートを見定めて軍には近隣住民の避難を円滑にする準備を進めているという。


 カルラとウルヴェルンを座らせて、エイガ君がテーブルに身を乗り出し私に迫った。


「ということで、俺が同行します師匠!」

「貴様、ついにおかしくなったか」

「ひ、酷いです師匠! いいですか冷静になって聞いてください。俺、パッと見だと人間と大差無いじゃないですか? 聖王国でも目立ちません。これ、すごい発見じゃないですか?」


 魔王の子孫の中でも、エイガ君は純粋魔族に近い。七色の虹彩を持つ以外は、外見上、そこまで人間と違いが無かった。


「貴様が行ってなんになる?」

「師匠のお役に立ってみせます」

「お役に立つ前に、聖なる光の魔法力を食らってやられちまうでしょうに」

「根性で耐えます」

「それが出来たら苦労はないだろ。死んだら帝国はどうなる?」

「でしたら、今ここでサキュルに帝位を譲りますから! この命、捧げる覚悟です」


 突然名前を出された淫魔が「ええ!? サキュルが皇帝!? ど、どどど、どうしよう」と、目を白黒させた。


 私は魔皇帝と淫魔、それぞれの頭にチョップを食らわせた。


「師匠! 暴力はいけません!」

「いった~い! ちょっと! いいじゃん豪遊の妄想するくらい! サキュルが皇帝になったらぁ……むふふ♪ あーんなことやぁこーんなことぉ……」


 淫魔が身体と尻尾を海藻のようにくねらせた。頬がのぼせたように赤くなり、熱い吐息とともにどこからともなく、じゅわっと汗ばむような湿度感というか、したたるしずる感をサキュルはまとった。


 相変わらずサキュルはどんな状態でもサキュルだな。私はビシッと淫魔の顔を指さし、そのまま魔皇帝に指先をスライドさせた。


「いいかエイガ君。貴様が倒れたら国が傾くぞ」

「は、はい。ですが……俺が魔帝都にいて、あの人が……リーゼ殿が殺しにくるというのであれば……多くの民を巻き込んでしまいかねません」

「だからって、独りになってむざむざ殺されるってのか」

「俺は弱い皇帝です。みなに支えられるばかり……一人では何もできません。魔皇帝として……この帝国に生きる一員として、何か……できることはないのでしょうか?」


 少年は悔しそうに、握った拳を震えさせた。


「貴様の仕事は、この戦いのあとだ。世界の混乱を収束させろ」

「ですが、いくらなんでも……単独潜入だなんて……」

「危険は承知だ」

「ならやはり俺もッ! 弟子は師匠に似るものです」

「エイガ君が私の悪いところまで真似る必要はないぞ」


 サキュルが笑った。


「あのさエイガ。みんな出来ることってバラバラじゃん」

「サキュル……殿?」

「メイヤはね、メイヤにしかできないことをしにいくんだよ。わかってあげなって」

「だけど……俺」

「サキュルはさぁ、エロいことでわくわくすることしかできないじゃん? あと、魚釣りとか。キャンプでシャロンやドラミのお仕事手伝ったりもしたけど、やっぱ難しくて」

「は、はぁ」


 魔皇帝がきょとん顔だ。


「だからみんなを……仲間を信じてサキュルは自分のできることをがんばるって決めたんだ。糸を紡いだりとかね。それで喜んでもらえるなら、嬉しいし幸せだよ」

「幸せ……って」

「待つのってさ、何もしてないみたいで辛いよね。自分にできることがないかって、探そうとして空回っちゃったりして。けど、何もできないからって、エイガが無力なわけじゃないんだよ」


 少年の握った拳がゆっくり解ける。それをサキュルは両手で包むように握った。


「サキュルだって一緒に行ってメイヤと戦いたい。気持ちはエイガと同じだよ。むしろ、エイガみたいに背負うものもないから」

「そんなことは……ないと思いますが……サキュル殿」


 エイガの顔が赤らむ。あれ? なにこれ? なんか……あじまってる?


「さっきからサキュル殿ってウケるんだけど。サキュルでいいよ。友達になろ。もっと気楽でいいじゃんいいじゃん♪ メイヤが世界をどうにかしてくれたら、みんなで遊びに行こうね! だから、みんな元気でいよう。生きてるだけで丸儲け。それでいいじゃない」


 魔皇帝は呼吸を整える。深呼吸三回。そして――


「ありがとうサキュル。俺も、皆を信じてここで待ちます。師匠の帰る場所を守ります……そうですよね! 師匠!」


 私は首を左右に振った。


「いや、私は中央平原のキャンプに帰るが?」

「ここまでの流れをみてノーといえる……さすがです師匠」


 何やっても好感度上がるのやめーや。とはいえ、サッキーのおかげで魔皇帝が無茶せんようになったか。


「で、いつまで貴様たちは手を握りあっているんだ?」

「し、失礼しました」


 慌てて魔皇帝は手を離し席に着く。サッキーは「エイガって彼女いないの? マジ? ウケる~」と、不敬罪一歩手前どころかオーバーランしてみせた。


 逆に敵無し怖い物なしだな、淫魔って。未来よりも過去よりも、今を生きてる感じがして……嫌いじゃない。

 落ち着きを取り戻した会議の卓上。真ん中にコールダックが躍り出る。


 小さなコアが計画の続きを語りだした。


 ドラミちゃんは「ウチ難しいことわがんない」と、置物である。


 シャンシャンは……。


 ずっと下を向いたままだった。

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