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179/205

179.ここから始める逆転劇


 目が覚める。

 竜の古戦場の空は暗い。


 月は高く、無機質な遺跡群に光が優しく降り注ぐ。


 身体バッキバキで草も生えんが……さて、問題は山積みだ。


 シャンシャンに真実を告げなければいけない。

 リゼリゼを救う方法も必要だ。

 おまけに私が竜と契ったことで、銀天使モードのリゼリゼを前にすると暴走するかもしれん。


 ええい、考えても仕方ない。まずは有識者の意見をうかがおう。


 私は転移魔法でコアの元へと跳んだ。



 地底湖に沈む書塔の最奥には、元々書棚と幼女と安楽椅子しかなかった。


 私たちが出入りするようになって、作業机やらが置かれるようになった。


 が、すべてが消えている。塔の中に敷かれたレールも書棚も何もかも。


 全面が白壁である。待て待て待てって。


「ちょ、な! おーいコア! コアちゃん? コアちゃま? いきなり消えることないでしょうが!」


 ただごとではない。この先の決戦であいつの力は絶対に必要だ。


 どうしよう。つーか、あの引きこもりの幼女がどこに行ったってんだか。


 元々移動しないだけに、居場所の見当がつかんぞ。


 と、不意に白床をペタペタヨチヨチ歩く影が通り過ぎた。


「グワッグワ-」


 王冠を頭に乗せたアヒルのキングである。その背にまたがるのは――


「やあ君、生きていたようだね」

「その生意気な口ぶりは……コアなのか?」


 アヒルの首に抱きつく、小さな小さなお人形。それは精巧に十分の一サイズに縮めたような、コアだった。


「さて、状況を訊かせてもらおうか、君?」

「いきなり拠点をまっさらにしやがって。夜逃げかと思ったぞ」

「敵前逃亡には違いないよ」

「先にそっちが説明してくれ」

「ふむ、君の望みの赴くままに……ね。立ち話はなんだが、手短に話すよ」


 人形はフフっと微笑んだ。


 で、彼女曰く――


 まとめると中央平原から一時的に撤退し、魔帝都に身を置くとのことだ。


「君は勝手にわたしを防衛目標に設定したからね。足を引っ張りたくはないのだよ」

「コア……」

「では、次は君の番だ。リーゼ・ホープスは……どうなった?」

「わかった。それも含め、順に話す」


 リゼリゼを私が拉致るところから、すべて聖王の罠だった。

 彼女が銀天使となったのは間違いない。その戦闘力は竜の群れを圧倒し、頂点たる純白竜を倒すほどだった。


 そして――


 すでにリーゼ・ホープスは死んでいて、聖王の魔法によって復活。生かされ続けているという。


 もし聖王を倒せばリーゼも消滅するのだ。


 アヒルの背に横乗りしてコアはキングの首をぎゅうっとする。


「クワワ?」

「いや、心配は無用だよ我が王。わたしは人ではない。心があるように見えるのは、人と円滑なコミュニケーションをとるための仮初めさ」

「クワーワグワグワ」


 二人の間で互いを気遣うやりとりがあったように見えた。小さなコアが私を見上げる。


「しかし、聖王がこれほどとはね。わたしは常々、自分が生身の人間よりも優秀であり、無限の時を生きて学習し続けられるものだと思っていたよ」

「実際そうかもしれんが、急にマウントどうしたよ?」

「聖王には勝てないと思ったのだよ、君」

「貴様のスペックをもってしてもか?」

「ああ、そうさ。悪意においては、わたしはあまりに無知で無力で無垢すぎる。何百何千年が過ぎようと、人が滅ぶ瞬間まで、わたしがそれを上回ることはできないだろうね」


 人形は困り顔だ。


「いや、貴様も結構いい線いってるぞ。皮肉が得意じゃないか」

「お褒めにあずかり光栄だよ、君。いや、この場合は不名誉か」

「人間らしさじゃね?」


 こうしてコアと話していると、だんだんと落ち着いて意識がクリアになってきた。

 手放しかけた「普通」を取り戻した気分だ。


 さて――


「コアよ。どうすりゃいいと思う?」

「君の願いを入力してくれないかい? わたしの力はあくまで、入力に対する反応であって……わたし自身はよりそうことしかできないからね」

「わかった。なら、問おう。知恵と知識の源泉にして隠れし賢者よ。私が望むのは聖王を滅ぼし、リゼリゼを救う方法だ」

「欲張りだな、君は。実に……人間らしい」


 人形は目を閉じる。


 白壁からせり出すように書棚が浮かび、足下にレールが走る。

 コアを中心に書塔が復活。と、同時にフル稼働だ。


 コアがうなずく。


「もはや神話の時代にまでさかのぼる……か。本……スクロール……木簡……石碑……いや、これ……か……なるほど、文字情報ばかりに目を取られすぎたよ」


 四方を取り囲む書棚が一斉に消え、足下から石の塊がせり上がった。


 壁画の一部のようだ。三つの石が三角形の頂点それぞれに配置されている。


 向かって左には人間の姿が描かれていた。祈りを捧げる姿だ。

 向かって右は魔族や亜人獣人。石を手にしようと無数の手が伸び、奪い合う光景。


 そして、上の石には何も、誰も描かれていない。


 つい、言葉が漏れる。


「絵じゃん」


 ちっちゃいコアはムッとほっぺたを膨らませた。あら、おかわいいこと。

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