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175.トラップ発動

 床にうずくまったリゼリゼが発光する。


 あーこれ、やってますねぇ。カルラチェックすり抜けかよ。深層心理の奥底に封じてたんですかねぇ、記憶やらなんやら。


 大爆発でも起こして、魔帝国の中心部を吹き飛ばしエイガ君に四天王も、まとめて消し去ろうって寸法ですかね。


 そうはいくかよ。


 黒い棺のような壁が六面、銀髪の少女を封印した。


 光を漏らさず食い止める。この場所でしか使えない、超強力にして最強の対爆封印防御結界だ。


 極大破壊魔法を閉じ込めるくらいは可能である。


 私は声を上げた。


「総員、プランBだ。コア!」


 溢れる光を閉じ込めると同時に――


「了解したよ、君。ミッションをプランBに変更」


 復唱に合わせて、紙を折って作った四角い箱が平面の展開図に戻る。


 ハリボテめいた部屋の壁が倒れて消える。


 すべては――


 地底湖の広がる泉の前に作られた巨大な舞台セットだ。


 魔帝都かと思った? 残念、ダミーでしたぁ。参加者キャストばかりは本物を使わざるを得なかったけど。


 ここは中央平原。地下なのかどうかさえも不明な、ダンジョンコアが支配する隔離空間である。しかも最深部の塔のほぼ直上。彼女コアの思うままに生み出すことのできる世界だ。


 ほんの一瞬、世界を焼いた聖女の光。


 もちろん聖属性で、サキュルは早々に気絶していた。魔皇帝エイガが膝をつきながら呼吸を荒くする。


「し、師匠! やっぱり俺も戦います!」

「だまらっしゃい。どの盤面でもキングが取られたら詰みだからな」


 黒い棺にシャンシャンが手を伸ばす。


「リーゼ! お願いッ! やめてッ!!」


 涙をこぼす少女の前に割って入り、私は姉妹を引き離した。


「シャロン……こらえろ」

「メイヤ……さん」


 少女は胸元に手を添える。金の片翼を模したペンダントトップをぎゅっと握った。


「リーゼの説得をさせて! お願い! ちゃんと話せば……」

「プランBだ」


 リゼリゼを覆う黒い棺にヒビが入り、中から光が漏れ出した。

 砕け散り、変わり果てた聖女が姿を現す。


 卵から羽化するように。うずくまっていたのは……人の形をした別の何かだ。


 水晶……身体の向こうまでわずかに透けている。


 リーゼ・ホープスは人間ではなくなっていた。背中に銀翼を広げる。


 シャロンが叫ぶ。


「イヤアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!」


 まずいな。コアがこの場でしか使えない、時間と能力と手間暇をかけた超局所的なメタい封印を、内側からぶち破るなんて。


「コア! フェイズ5までスキップだ!」


 天の声が「コード:エクソダスを承認したよ。まだチェックメイトではないさ」と返した。


入城キャスリングだドラミちゃん!」


 ドラミが焦りながら。


「う、うん!」


 会議場のセットが消えるのに合わせて、ピンク髪の少女が巨大化する。桃竜だ。


 ドラゴンが関係者一同を庇うように前足で覆う。シャロンもろとも腕に抱き、身体を丸めて防御姿勢をとった。


 シャロンの悲痛な叫びが響く。


「リーゼ! お願い! やめて! お願いだからッ!!」


 銀の天使は微塵も反応を示さなかった。届かないか……声は。


 もはや一刻の猶予もない。


「ファイナルフェイズだ。命を運ぶ白き矢を射出しろッ! コアッ!!」


 天の声の返答より早く、どこからか白いアヒルがやってきた。


「クワックワ!」


 王冠を頭にのっけたコールダックが防御姿勢のピンドラにぶつかる。と同時に、王冠が光り輝き、ドラゴンもろとも全員が転移する。


 行き先はキャンプ……ではなく、魔帝都にある我が家だ。コアとヤンミンが協力して、キングの転移先に屋敷を設定した。


 名目上、あの庭付き一戸建ては、我々おもしろ家族が魔帝国に置いた大使館になる。


 無理矢理な解釈だが、ピンポイントであの家は中央平原だったのだ。


 コアの世界に、私と銀天使だけが残った。


 標的――魔皇帝がその場から消えたためか、銀天使は棒立ちだ。


 天の声――コアが告げる。


「先ほどの対爆封印防御結界で、リソースを使い尽くしてしまったから、これ以上のサポートはできないが。想定通りの状況だね、君。望み通り一対一だ」

「いや、違うぞコアよ。まだ、待避完了していない奴がいるだろう」

「わたしはこの場を離れられないのだよ。遠慮はいらない。書塔もこの空間も気に入ってはいたが、好きにしてくれたまえ」


 もし、リーゼに聖王が「何か」を仕掛けていた場合の対処だが、自爆特攻までは想定内だ。


 加えて、なんらかの能力で聖王自身がこの場に姿を現す可能性も考慮していた。


 位相をずらした地下深くの隔離空間。本来であれば転移魔法で跳べないようにも結界を施すところである。


 が、今回はその結界は敷いていない。仮想魔帝都舞台の用意と、自爆特攻対策にコアが注力したためだ。


 知識の源泉――決戦の地にする案だったが……。


 たった今から全プランを破棄。


 私だけの作戦行動を開始する。


 コアが声を震えさせた。


「このごおよんで、いったい何を考えているのだね、君!?」

「私はいつも通りだっての。ま、なんかあったら……みんなを頼むぞ……コア」


 今から私は、好きになった女性の妹を手に掛けるかもしれない。


 大切な者を守るためなら、私は奪う。相手の命だって。


 大切な人にとって、唯一残された肉親であろうとも……。


 これじゃ聖王と究極的には同じだ。シャロンはきっと望まない。


 それでも……いや、だから……だからこそ。


 救う手立てがあると祈り、あがき続けるしかないんだ。


 短距離転移魔法で棒立ちの銀天使の背後に跳ぶと、その背に触れて転移魔法で強制連行。


 場所は大霊峰の裾野に広がる、旧世界の遺跡群。


 百竜大戦ドラゴロイヤルの舞台となった竜の古戦場だ。


 ここならいくら暴れても、誰にも迷惑はかからんからな。

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