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151/205

151.師匠と弟子

 戦いから数日――


 魔帝国は少しずつ元の落ち着きを取り戻し始めた。


 魔皇帝は乱心した。世間には心の病だったと公表された。


 暴走を止めたのは弟王とその協力者たち……ということで決着である。


 魔帝都の中心にそびえるツインタワーキャッスル。

 片側の塔の主が不在となった城の地下深く――


 巨大昇降機をおりた先に、ドーム状の空間があった。


 魔力灯で照らされた内部は薄曇りの昼ほどの明るさを一定に保つ。


 灰色の霊廟れいびょうがあった。


 台座の上に石棺が鎮座する。


 見上げて私は指さした。


「あの中に初代魔王がいるってのかね?」


 隣に立つのは――


 魔皇帝エイガだ。金刺繍のほどこされた黒衣に鮮血のマントをはためかせた少年が「指をさすのはおひかえください師匠」とボソリ。


「ごめんて若君」

「もはやメイヤ・オウサーは魔帝国軍四天王ではありません。若君は止してください」

「んなこと言ったら若君だって私を師匠って呼ぶじゃないの」

「師匠は俺が死ぬまで、俺の師匠であることに変わりはありません」


 なんか不公平じゃない。それって。


「で、こんな殺風景な場所に私だけつれてきてなに? 告白なら伝説の木の下とかにしてほしいんだけど」

「こ、こここ、告白だなんて! なにを仰るんですか!?」


 え、やだちょっと。少年なんで赤くなるの。冗談でしょうに。


「とっとと本題入って、カゲ君」

「師匠……その呼び名、二人だけの時は特別に嬉しいです」

「喜んでる場合か貴様」


 少年は襟首をただした。

 そのまま私に一礼する。


「このたびはアーク魔帝国をお救いいただき、感謝に堪えません。大魔導師メイヤ・オウサー殿」

「はぁ? そんなこと言うためだけに地下くんだりまで足を運ばせたっての?」

「ご先祖様にも国家の恩人を紹介したかったんです。それに……一国の主が配下の前で頭を下げる姿は見せられませんから。これからはちょっとその……尊大な感じで接するかもしれませんけど、俺、ずっと師匠のことは慕ってるんで……」

「まあ、立場とかあると色々大変なわけね」


 魔皇帝エイガは顔を上げた。少しだけ、あどけなさが減って大人に近づいたかな。


「兄のこと……師匠にはきちんとお話しておこうかと」

「死んでるって言ってたよな」

「はい。あの目玉と触手の魔物は……俺が城に招き入れてしまったんです」

「招き入れたって?」


 少年はうなずく。


「幼い頃、窮屈な城を抜け出しこっそり魔帝都を出て、魔物の住む森に行くようになって……修行して強くなって、兄上に勝ちたいって……」

「アクティブなお子さんっぷりだな」

「お恥ずかしい限りです」


 まあ、つい最近まで忍者スタイルで世直ししてたんだし、別に今更感はある。


「そこで出会ったんです。他の魔物に食われるでもなく、ただただ虐げられるだけの……チビスケを」

「チビスケって?」

「目玉と触手のモンスターでした。ちょうど片手に乗るくらいの大きさで……」


 ああ、なんか嫌な予感しかせん。


「助けたんだな?」

「はい。森の中に居場所がないと。俺、事情は知らなかったけど……チビスケは嫌われてたみたいで。だったら一緒にくる? って……チビスケの正体も知らずに」

「やっぱアレかね。死体に潜り込むタイプの……」


 少年は悲しげな瞳で「はい」とだけ返す。

 寄生系の魔物が元凶だったのだ。


「だが、どうして貴様の兄が犠牲になった?」

「兄だけではなく、恐らくは父も母も。立て続けに……。魔皇帝の一族がいかに強いといっても、眠りに落ちている間は無防備です。不審死でしたが国民には事実を伏せられ、国の中枢に関わる者の記憶は、兄を殺してその身体を奪ったあいつが……記憶を……俺も……そんなことがあったことすら覚えていなくて……」


 エイガは拳を握り肩を震わせる。


「俺が……やったんです」

「貴様じゃない。救いの手を差し伸べただけだ」

「けど、結果は……俺が森になんて入らなければ……助けたりしなければ……」


 こういう時はどうすりゃいいんだ。

 優しくすべきか、厳しく接するべきか。


 わかんないから両方やろう。


 腕を広げた。


「こい少年。泣きたいなら胸を貸してやる」

「し、師匠! 俺……俺ぇ!」


 素直に私の胸に飛び込んでくる少年。その勢いを利用してカウンターの右ストレートで頬をぶん殴り吹っ飛ばした。


「ぐあああああ! な、何するんですか師匠!?」

「甘ったれるなこの甘々の甘ちゃんがぁッ!!」

「不条理ですよ! 今のは! いくら師匠でも無茶苦茶です!!」

「いいか世界は残酷で不条理で、それでも私たちは生きていかなきゃならないんだ。残った者として、自分の足で立って歩け」


 と、言いつつ私は倒れた少年に手を差し伸べる。


「ほれ、立ち上がるまでは少しだけ私も手伝ってやるから」

「この手をとったら、また何かしませんよね師匠」

「どうした? 自分で立てるか?」


 エイガはそっと私の手を取る。チャンスとばかりに背負い投げた。


「師匠おおおおおおおおおおおおおお!!」

「掛かったな! バカ弟子があああああああああ!!」


 二度あることは三度あるのだ。

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― 新着の感想 ―
[一言] 肉体性能とか考えると、本来なら兄王の方が強かったろうし、そっちが魔皇帝になる流れだったのかねぇ…… 目玉の目的はなんだったのか……カゲくんと二人の世界を作りたかった的な?
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