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150/205

150.魔族に滅せぬモノならば

 背中の目玉に穴が開く。


 が、その傷が徐々に埋まっていった。


 不死身かよ。勘弁してください。そういうのは聖王だけで間に合ってます。


 と、再び私が身構えたところで――


 シャンシャンが右隣に立って、私の右腕をそっと光で包んだ。


「右腕、大丈夫? ずっと左手しか使ってなかったし」

「ありがとうなシャンシャン」


 指先がピクリと動く。さすがッスね治癒魔法の専門家は。


 短杖を右に持ち替えつつ、元聖女の前に立つ。


「もう一度仕掛ける」

「タイミングは合わせるわ」


 説明せずとも、光は常に私とともにあるようだ。


「サッキーと若君にも効いちゃうからほどほどにな」

「あたしの光くらいで二人がやられるわけないじゃない?」


 いや、そこで過小評価やめて。


 とはいえ、半端に力をセーブさせすぎても、魔皇帝へのトドメには至らないか。


 復活した右腕の感触を確かめつつ、短杖に極大破壊魔法ソードフォームをまとわせる。


 青白い光の刃を、中途半端な土下座状態の筋肉ダルマに向けた。


 背中の瞳がじろりと私を見る。


「……殺す……殺す殺す殺す! エイガ! 助けて! お兄ちゃんと一緒に戦おう!」


 少年がゆらりと闘技台の上にのぼった。

 落下した時に、魔知将ヤンミンを庇って落ちたし、距離が離れていたとはいえシャンシャンの光を食らったりで、戦ってないのに結構ダメージ受けてるな。


「断る……お前は……誰だ!?」

「……お兄ちゃんだよ」

「そんなはずは……ない。兄は……クロアは……死んだんだ」

「……死んで……ない」


 魔皇帝が立ち上がる。


 ムキムキマッチョを挟んだ対岸の少年に、私はたずねた。


「若君さぁ。急にどうしたわけよ?」

「師匠! ようやく思い出しました。俺……やっぱり記憶を書き換えられてたんです」


 魔皇帝が全身をわななかせる。


「……思い出すな。思い出すんじゃない」


 兄弟の魔眼がぴたりと合う。本来ならまた、若君が動けなくなってしまいそうだが。


「……き、きかない……嘘……なんで?」

「兄上の身体を乗っ取り、なりすましたその罪……あがなってもらうぞ」


 少年は自力で呪いに抵抗すると、拳法家のように身構えた。

 私は二人に首を傾げる。


「どーいうこと?」


 魔皇帝の背中の瞳から大粒の涙がこぼれ落ちる。


 若君はといえば――


「今は説明している時ではありません師匠! それに聖女殿! 俺に構わず光で滅してください!」


 遠くでサキュルの「ちょ! ま! やめて!」の声が聞こえたけど、一旦聞かなかったことにしよう。一旦ね。


 私の右手にシャンシャンが再び触れる。


「じゃあ、こういうのはどうかしら? エーテルドライブ。祝福魔法。ええと……光の加護

を付与……とか?」


 元聖女から流し込まれた光の魔法力をまとって、青白い魔力刃が純白に煌めいた。


 あっ……いける。


「最終確認だ。いいんだな若君……いや、弟王エイガよ!」

「はい! 兄をどうか……安らかに眠らせてあげてください」


 魔皇帝は動かない。動けない。


「……そんな……どうして見捨てるの? エイガのためなのに……」

「俺はたしかに兄上に生きていて欲しいと願った。それがすべての過ちだ。本来なら……俺の命であがなうべきところだが……」

「……ひどいよエイガ! がんばってお兄ちゃんしてきたんだよ!」

「俺が間違ってた。憎いなら殺せばいい」

「……なら……エイガを殺して……あたしも消える」


 突然、魔皇帝が走り出した。手足が連動せずバラバラに動いて気持ちが悪い。人の骨格の動きじゃなかった。


 背中の目が血走り、筋肉を内側から食い破るように触手が伸びる。


 弟王エイガは諦めたように目を閉じた。


 あーもう。死んで責任取ろうなんて百年早いんだよ。貴様がいなくなったら、誰が魔帝国をまとめるのさ。


 短距離転移魔法で兄弟の間にフッと割り込むと、兄だったものの前に立ち塞がり、私は簡易聖剣と化した極大破壊魔法の刃を振るった。


 振るって振るって振るって振るう。


 魔皇帝の四肢がバラバラになると、内側で菌糸のように詰まった触手が空中でばらける肉体を、つなぎ止めようと広がった。


 もろとも斬る。斬る。斬る。


 魔皇帝の中に詰まっていたのは目玉と触手の化け物だった。

 なるほど、表情筋もまともに動くまい。美味い食事すら味わえていないのだ。


 どういった系統の化け物かは知らないが、寄生して宿主の能力を使いなりすますタイプなのだろう。


 魔眼や記憶の上書きに、ポージングによる絶対防御あたりは、元の持ち主の力だったんだろうな。


 こんなのに身体の内側から操られるなんて、死ぬよりも恐ろしい。


 寄生する悪意。


 それが――


 どういうわけか若君を愛したらしい。


「……い、痛い……痛い痛い痛い痛い!」


 これまで痛覚があるのかも疑わしかった目玉と触手の化け物が苦しみの声を上げた。


 光あれ。


 右手の聖剣が唸りを上げる。


「私は正義の味方ではないが、これまで貴様が無為に傷つけてきた者たちの怒りと、記憶を消された悲しみの報いをくれてやる」


「……いやだ! いやだいやだいやだ! きえたくない! ひとりはいや! エイガと一緒がいい! それができないなら……世界全部滅べばいい!!」

「貴様と心中させられるなんて、まっぴらごめんだ迷惑系の化け物がッ!!」


 遠くから魔知将が叫んだ。


「手を止めるなメイヤ・オウサー! そいつは殺せる! 今は自身がかけた呪いの維持を解除して、魔法力を回収して再生しているだけだ!」


 つまり、ヤンミンに施した呪いも解除して、回復してるってことね。


「……や、め……て……た、す……け……エイ……が……」


「師匠! 俺の代わりに、お願いします! この国を救ってください!」


 少年の声に頷くと、私は剣を両手持ちにして大きく後ろに引き込んだ。


「国を救うのは貴様の仕事だ。私はその露払いに過ぎない」


 全身全霊を込めて、最後のラッシュをかける。


 すべての触手を切り落とし、剥き出しになった眼球を十字に引き裂いた。


 小さな爆発とともに――


「……あ、ああ……あたしがいなくなったら……エイガが……心配だよ……」


 目玉は声とともに消し飛んだ。


 なに最後まで「エイガのため」みたいでいられるんだよ。醜悪すぎるだろ。姿形というよりも、その魂のあり方が。


 ふう……。


 魔皇帝の肉体ごと完全消滅させたっぽいな。再生すんじゃないぞ、マジで。


 しかしまあ、シャンシャンの聖なる力との合わせ技でなんとか滅することはできたっぽいけど……。


 今日はもう疲れたな。うん。


 寝る。


 最後にそう思ったところで、私は床にぶっ倒れた。意識はもうどこか遠くに飛んでいったあとだった。

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― 新着の感想 ―
[一言] 台詞的には寄生生物の性別は女性なのか?それとも言葉遣いが女性的なだけの無性生物?触手目玉だとどうとでもありえそうやのう。 とりあえず、今回のこれで、魔皇国とはよき関係になれそうな気はする。…
[良い点] 更新お疲れ様です。 なるほどそういうオチでしたか! そもそも魔帝を『生きてる一つの生命』と決めつけて考えてた=それを前提に考えてたらこのオチには行き着きませんわなぁ…いやはやまだまだ脳ミ…
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