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146.身体で覚える必殺拳

 同時に衝撃が全身を駆け抜ける。


『――ッ!?』


 普段であれば後方に跳ぶなりして威力をそぐはずが、それもできぬまま内臓から背中までズドンと拳で撃ち抜かれたような打撃だ。


 体が反射的に内側に向けて魔法力による強化を行い、耐える。


 ラードンの拳が胸からゆっくり外された。


 その場から一歩も動けず、私は胸を手で押さえ膝をつきかける。

 昨日、純白竜の加護を受けて強化された白竜の軽鎧には、傷一つ無い。


「どうだ白竜よ。これこそが我が奥義。震蕩打撃術……鱗通しだ」

『めちゃくちゃ痛いんだが』

「痛いで済むとは化け物め。普通であれば悶絶気絶。死んでいてもおかしくない。というか、殺すつもりで放ったがな。ガッハッハ」

『威力は理解した。で、やり方は?』

「いやースカッとした。お前にはやられっぱなしだったからなぁ」

『教えるんじゃなくて、コレしたいだけだったの? バカなの? 死ぬの?』

「怒るな。今日は文字通り胸を貸す。コツも教える。まあ、我が十年、毎日鍛錬し続けた殺竜技ではあるのでな。教えてやるが出来るようになる保証はないぞ」


 オッサン満足そうですね。

 しかし……だ。


 本気の一撃を食らって理解したことがある。


『なあラードン。なんで右で打たなかった?』

「心臓だとお前が死ぬからな。右で急所を打てば相手は死ぬ。そういう技だ」

『あーはいはい。なるほどね。んで、どうして私と初めてやり合ったときに、出さなかったわけよ?』

「一応、事故でも処理できるが王者として綺麗に勝つ義務があった……というのは建前で、お前がちょこまか動くからだ」


 不機嫌そうにラードンは腕組みする。なんか頑固な麺屋の親父味がある。


『動かない相手じゃないとダメってか?』

「う、うるさい! この技術は硬い鱗に覆われた真の竜族と戦うためのもの。外傷を与えず内部破壊するために磨かれてきた。我もいずれ竜を倒し竜を名乗るに相応しいおとこになるために……」

『対人用じゃないってか。使い勝手悪いっすねぇ』

「黙れ黙れ黙れ! が、確かにお前の言う通り。デンと構えた巨大な竜が相手ならばいざ知らず、人の大きさ程度になるとだな……後ろに跳ばれるなりして無力化されてしまう」

『動けない相手にしか使えないんか』

「相手を地面に倒した時や、壁を背に追い詰めた場合には致命の一撃となるがな」


 使い方が限定的すぎる。けど――


 蔓縄でふん縛って身動きをとれなくすれば、コンボのフィニッシュにいいかもしれん。


『で、やり方のコツは?』

「さっきも言ったが一日や二日練習したところで、できるようになるもんではないと思っておけ。まずは最初の押す動作でだな……」


 始まったラードン師範による必殺、鱗通し講座を、私は頭の中にスラスラとメモ書きした。


 コツだの理論だのを理解したところで――


「まあ、無理だとは思うがやってみろ。この胸に飛び込んでこい白竜よ! ガハハハハ!」

『んじゃ、遠慮無く』


 左手を巨躯の胸に押し当てる。


 で、押し込みからの超ショートストローク高速拳打。これにアレンジで私なりに魔法力をひとつまみ。


 どんな技にでもちょい足しすると、だいたい上手くいくマヨネーズ的なものだ。


 なんとなーくでやってみたところ。


 軽く放った拳打を受けたラードンは……。


「――ッ!?」


 息を止め白目を剥いて、そのまま仰向けで大の字を描いて庭にぶっ倒れた。


 あれ? なんか想像より手応えありだな。って、やばい。死んじゃうかもしれん。


『シャンシャン! ちょっと庭まで来てくれ! 急患だ!』


 メイド服姿の金髪美少女が飛び出した。


「ちょ、ちょっとなにやってるのよメイヤさん!」

『いやだってな、殴っていいっていうから』

「限度と加減ってものがあるでしょ!」


 いてくれて良かった。治癒魔法のエキスパートな元聖女。


「で? どこを怪我したの? 全然外傷っぽいのは見られないけど? 頭? 頭が悪いの?」

『シャンシャンそれ悪口になってるから』

「そういう意味じゃなくて後頭部ってことよ! ほら、早く教えて!」

『右の胸のあたりだ』


 元聖女がラードンの小脇にしゃがみこみ、胸の辺りに手をかざす。


「魔族の血が濃いから少し効きは悪いけど、これならなんとかなりそう」

『そういうもんなんか?』

「濃すぎるサキュルさんやエイガくんには、むしろ逆効果だったくらいだし」


 悶絶顔でビクンビクンラメェ状態な元魔竜将軍だが、シャンシャンの治癒魔法を受けるうちにだんだんと赤子のように安らかな表情になっていった。


 この技を覚え鍛えるのに十年か。たぶん、私が再現できたのって、お手本が良かったからっぽいな。


 これ、拳打と同時に相手の「内部」に魔法力を注ぎ込んだら、けっこうヤバイ技かもしれん。



 大闘技場の真ん中で、魔狼と魔翼の攻撃に身じろぎひとつせず、ポージングを決めたまま魔皇帝は涼しい顔だ。


 私は右手に十分魔法力を練り上げた。


 天覧席の「今だ」の合図に呼応して――


 踏み出す。


 魔皇帝は逃げも隠れも避けもしない。


「……余のポージングは乱れぬ。無駄なことを」

「無駄かどうかはやってみなきゃわからんだろ」


 ウルヴェルンが私と立ち位置をバトンタッチで引き下がる。


 魔皇帝の正面に立ち、右の手のひらで巨躯の厚い胸板をぐいっと押し込んだ。


 壁のようだ。微動だにせず。


 天覧席から声が響く。


「行けええええええええええええ! 白竜魔将おおおおおおおおお!」


 ラードンの絶叫。これを魔皇帝は意にも介さない。どんな技が来ようと防御に絶対の自信あり……か。


 その高慢を……打ち砕く!


 魔法力を込めた掌底が瞬時に拳となって魔皇帝の心臓を捉えた。


 鱗通し。硬ければ硬いほど、この一撃は必殺になりうるのだ。

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