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145.攻め続行

 私の側に並び立つ魔狼と魔翼の両将軍。

 すかさず魔皇帝がウルヴェルンをにらみつける。


「……造反か?」

「グッ……クソがああああああ!」


 剣を抜いたまま膝を屈する狼男。だが、その隣で大鎌を構えるカルラは平気なようだ。


 魔皇帝の弱点その1。


 魔眼はタイマン専用スキル。

 私はカルラに視線を送った。


「攻撃開始だ」

「はぁい♪ 白竜ちゃん。ご一緒しますわぁ!」


 超低空飛行で地面すれすれを駆け抜け、大鎌が魔皇帝の足を掬う。


 本来なら膝から下がスパッといくところだったが――


「あらぁ……カチカチ」


 大鎌の刃は通らず、カルラは魔皇帝の足に鎌を引っかけた状態でターンしながら急旋回。


 不機嫌そうな魔皇帝まこっちゃんは、ダブルバイセップスの構えをとった。


 そう――


 どういう理屈かまでは知らんが、こいつはポージングをキメているとき、物理も魔法も無効化できるのだ。


 だがしかし。


 魔皇帝の弱点その2。


 防御姿勢を取る=攻撃ができない。おまけに魔眼も使用不能だ。


 だから魔皇帝は、魔眼で相手の動きを止めて、一人一人の記憶を上書きし無害化する必要があったんですね。(これが一番早いと思います感)


 ウルヴェルンの拘束が解ける。息もつかさず長剣を元上司の胸元に叩きつけ獣が吠える。


「返しやがれ! 俺様とエイガ様の出会いの記憶をおおおおおお!」


 加えて上空からカルラが舞うように急降下しては、首を鎌で斬りつける。


「反撃のタイミングを与えませんわよ。その構え、解いた時が、お わ り♪」


 魔皇帝の弱点その3。


 というか、魔皇帝でなくとも三人相手に防御を固めたら、動けなくなる。


 仮にウルヴェルンかカルラにカウンターを仕掛けた場合、どちらかが死ぬ……かもしれん。


 が、二人とも覚悟の上。なにより私がそれをさせない。


 ポージング解除に合わせて放つ一撃の構えをとり、精神を研ぎ澄ませる。


 魔眼の圧を含まない魔皇帝の視線が、拳法家のように身構え腰を落とし、地面を踏みしめ魔法力を練る私とぴたりと合った。


「……本命は汝か」

「ご明察」

「……鬱陶しいハエどもめ」


 ウルヴェルンの剣を胸筋で阻み、太い首が鎌の刃の進行を一ミリとてさせずにいる。

 魔皇帝はふぅと息をつく。


「……ならば待つだけだ」

「いいんかね? 守ってばっかりで。魔皇帝まこっちゃんさぁ」

「……不敬な。不愉快だ。安い挑発には乗らん」

「高けりゃ買ってくれるんですかね?」

「…………」


 閉じた貝だな。こりゃ。

 いずれウルヴェルンもカルラもスタミナ切れを起こして攻め手を欠く。持久戦ってか。


 客席の一般人たちが逃げ惑う中――


 私はスッと視線を天覧席に向ける。


 席を立ち柵に身を乗り出そうとする若君を、元魔竜将軍ラードンが押しとどめていた。


 巨大爬虫類男は、じっと見下ろしながら一度、頷く。


 くの字に曲がった尻尾で床をダンと打った。今、このタイミングか。


 わかったよ。やってみるさ。



 ある日の夕刻――


 ラードンが魔帝都の我が家にやってきた。


 魔皇帝との決戦に、何もしないと約束したのだが……。


「白竜魔将……我からも一つ、伝えたい」


 わざわざ白竜の軽鎧姿になれと言ってきた元魔竜将軍。言われるまま、庭園で対峙する。


 今日も遠くでカコンと鹿威ししおどしが鳴いた。


『わざわざ着替えさせたってことは、言葉じゃなくて体で伝えるってか?』

「今だけは我が先生だ。良いな?」


 腕組みするオオトカゲ。ま、敵に回らないだけでも十分だったんだが、なんであれ受け取れるものは受け取っておこう。


『わかりました。よろしく頼みます先生』

「お前はその……なんだ。プライドはないのか?」

『私に負けてヘーコラしてた奴のセリフかね』

「ぐぬぬ……も、もう教えてやらんぞ!」

『あーごめん。ごめんて』


 不機嫌そうに尻尾を地面に叩きつけるラードン。さて、何を伝授してくれるのやら。


「白竜魔将よ。お前と対戦した時に、使わなかった技だ。危険過ぎるのでな」

『必殺技を教えてくれるのか? いいのか?』

「構わぬ。我も魔皇帝に記憶を書き換えられたのだろう。知らねば受け入れていられたものを……お前がやってきたことで魔帝国は崩壊するかもしれん。まったく余計なことをしてくれたものだ」

『うっせーよ。教えたくないのか教えたいのかどっちなんだ貴様?』

「いいからそこに立っていろ。動くんじゃないぞ。あと、覚悟しておけ白竜!」


 言われるまま、棒立ちになる。

 と、ラードンは私の胸に左の手のひらをくっつけた。パイタッチである。


『いやーんエッチ』

「茶化すな。行くぞ」


 巨大な手のひらが一瞬グイッとこちらを押す。


『なにこれ?』

「その場に踏みとどまれ。あと、口を開くな。舌を噛むぞ」


 次の瞬間――


 私の眼下にあった爬虫類の手のひらが、刹那せつなのうちに拳に変わっていた。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 更新お疲れ様です。 >開いた掌が刹那でグーに こ、これはまさか…!? 某「フタエノキ○ミ、アッー!」の人は『二重の極○が当たった刹那の瞬間に己の怪力を活かした全力パー → 更に一撃が追加…
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