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143/205

143.切り札の次も切り札で

 抜け殻のような白竜の軽鎧が光の粒子となって、私の元に集まった。


 魔導師の黒衣姿だ。白竜魔将の仮面を脱ぎ捨てた今、ここに立つのは王と臣下ではない。


 支配者と反逆者である。 


 極大破壊魔法でそのまま切り上げようと力を込める――


 刃は一ミリも動かない。引き抜きもできない。魔皇帝は両腕を折り曲げながら掲げた。

 背筋に鬼の顔が浮かぶ……って感じだ。


 瞬間――


 パリンと音を立てて、私の生み出した魔光刃がガラスのように砕け散った。


 傷口から血が出ていない。先日、いくら斬っても無限に再生する化け物に対処したが、こいつも同類か?


「……なぜ余の魔眼に屈しない? いや……どうやって記憶を取り戻した?」

「教えるわけないでしょ」

「…………」


 改めて魔眼の凝視が私を呪う。ほんのわずかに、体に痺れが出る程度だ。


 さて、まいったな。千載一遇だったんだが。胸じゃなく首を狙って切り裂くべきだったか。


 考えても仕方ない。私は再び極大破壊魔法ソードフォームを展開した。

 今日までの鍛錬で本職ではないものの、体術に磨きはかかっている。


 短距離転移魔法で魔皇帝の頭上に跳ぶと、そのまま剣を地面に向けて垂直落下。


「……ほぅ」


 こちらの奇襲に肉ダルマは反応した。右手の人差し指と中指で、魔法力の刃をピッと挟んで軽々受け止める。


 そのまま腕を振るい、私を地面に叩きつける――


 寸前で極大破壊魔法を解除。魔皇帝の大振りな腕のスイングは空を切り、私は着地と同時にポーチから蔓縄の種を放つ。


 拘束できずとも注意くらいはそらせるか?


 一瞬で芽吹いた緑の蛇が巨体を這い回り、亀甲縛りにする。


「……フンッ!」


 男の全身の筋肉が波打ち膨張した。蔓縄はバラバラにちぎれ落ちる。

 秒も足止めできないなんてな。


「あらまあ。マジですか」


 使うしかないか。アレを。問題はいかにして、魔皇帝の動きを止めるかだったんだが。

 強力なだけに詠唱は必要なんだよね。



 魔帝都郊外――

 夜のとばりがおりた軍施設。半径1㎞圏内に人払い済みな屋外演習場の真ん中で、私は魔知将ヤンミンと対峙する。


 幼女の手には便せんがあった。彼女は短杖に魔法力の光を宿し、文面を追う。


「この手紙の送り主とは気が合いそうです。世の中、バカしかいないと思ってた」

「ヤンヤンさ、私しかいないから別にいいけど、他の人がいるところではそういうこと言わない方がいいと思うよ」

「余計なお世話ですね。記憶を取り戻してからの白竜魔将は、保護者面が過ぎる。不愉快」

「悪かったな。で、手紙にはなんて?」

「先の中央平原での決戦。敵軍から放たれた謎の魔法攻撃は地形すら歪めるほどだった。それを君がしたというのは間違いないか?」

「ああ。威力も範囲もありすぎでな」


 手紙を大事そうに封筒に入れ直し、ヤンミンはふところにしまう。


「魔皇帝との決戦では、陛下……いや、かの者を大衆の前で敗北させる必要があります。会場と観客を道連れにするのは愚の骨頂」

「ですんでね、こんな風に魔法力を杖にまとわせるなんてことはしてるんだが……」


 私は短杖で極大破壊魔法ソードフォームを展開する。


「なるほど。制限を加えた上で射程を犠牲に威力を……だが、本来の威力ほどではないか」

「切り札は何枚あってもいいんでな。何か良い案ないかね魔知将殿」

「こんなこともあろうかと、趣味でしてきた魔法研究がある。要は詠唱込みの全力極大破壊魔法を、大闘技場で使用して、なおかつ周囲に被害を出さねばいい。バカでもわかるように教えよう」


 その日は朝日が昇るまで、私はヤンミンから理論と実技の指導を受けた。

 人に魔法を教わることなんて今までなかったけど、独学じゃ見えないあれやこれや、気づきも多い。


 時間もないということで、ぶっ通しで試行錯誤した結果――


 魔知将は腕組み納得する。


「やりますね。まあ、認めてやらないこともない」


 なんとか決戦を前にして、私の極大破壊魔法は次のステップへと進化を遂げた。



 会場の客たちの歓声に、我に返る。

 目の前には壁の如く立ち塞がる魔皇帝。


「……どうやって記憶を取り戻した? 言え」


 おっと、ずいぶん固執するんだな。そういえば、全然攻めてこないし。


 蔓縄の足止めが通じなかったけど、あれ? これってもしかして……。


「いいか貴様、耳をかっぽじってよく聞くがいい」

「…………」


 さっきから魔皇帝が攻撃してこないのは、私を倒すことなんて容易だけども、私みたいに記憶を取り戻す者や、魔眼対策の存在を……おそれているんだ。


 棒立ちのまま、構えることすらしない巨体が上から私を見下ろす。


「……どうした?」


 言葉を待ってるな。じゃあ、遠慮無く――


「心に響かない詩もある。好きになれない音もある。ただ、自分にとってそうなだけ。知らないからってくらいだろう? だったら自分の心に響く声で歌えばいい。知るも知らぬも我が心の赴くままに。願いの数だけ祝福を。ただ一つではない無限の可能性を。私が誰かを否定しないように、私もまた否定されることはない。だがしかし、しかし、しかしだ。数多の想いを塗り替えてただ一つ、盲信と妄信を強いる者にのみ、私は振るう。反逆と自由の意思を」


「…………?」


「ご清聴ありがとうございました。終極殲滅魔法」


 私は短杖を下から上へと振り上げる。コアの分析とヤンミンの指導によって進化した、極大破壊魔法の派生強化型だ。詠唱も十分。


 その効果は――


 轟音とともに青白い光の柱が魔皇帝の足下から吹き上がった。大闘技場の屋根を突き破り、空高く雲を越え星の世界にまで光が届く。


 威力と範囲を限定し、余剰出力を空へと逃がした対個人用。聖王にせよ魔皇帝にせよ、空の向こう、永遠の夜に放逐する。


 無敵の強者を世界から追放。轟音が余韻を残し、だんだんと光の柱が薄くなる。


 やった……か?


 いくら魔皇帝が強くても、直撃には耐えられんだろ。常識的に考えて。

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― 新着の感想 ―
[一言] やったかフラグまで丁寧に立てんでも…… いやしかし、死なないだけで防御力とかは常識の範疇だった聖王と比較して、こっちは本当に単純に強いな。極大魔法も、ダメージは与えられたのかもしれんけど、…
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