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132/205

132.裏切るとか裏切らないとかいう以前の問題で……


 10分後――


 ログハウス周辺の草を大鎌で刈り、汗水を垂らすカルラがいた。


 私の隣で釣り竿を肩に掛け、淫魔が大きな胸をゆっさたゆんと揺らして張る。


「ね? 仲良くなれたでしょ?」

「うむ。確かに……」


 逃げようと思えば魔翼将軍なら一瞬で飛び立てる。無論、ドラミちゃんで追走できなくもないし、場合によっては転移魔法で空中に先回りなんてことも可能っちゃ可能だ。


 けど、魔翼将軍は草刈りに勤しんでいる。

 魔帝国でも指よりの強者が雑用だ。


 隣のぐうたら淫魔より、よほど真面目に見えた。


「なあサッキー。どうやったの? まるで別人みたいなんだが」

「べ、別人? なのかなぁ? サキュルは初対面だったから、どういう人かメイヤほど知らないけど」

「蔓縄解いても暴れなかったのか? 一応、カルラは魔王の腹心なんだが」

「ぜーんぜん。普通にお話できたけど?」


 なぜか間抜けな山猫っぽい半口開いて斜め上を見るような、人を小馬鹿にした顔で淫魔はしらを切る。


 動揺が隠せないらしく、お尻の辺りで矢印尻尾がびたんびたん暴れていた。


 その中程をぎゅっと掴む。


「ひゃん! ら、らめぇ! 尻尾はおっぱいくらい感じちゃうんだからぁ」

「急に淫魔に戻るな」

「戻るもなにも、元から可愛いプリティ最強のサキュバスだけど? ん! やっ……あん……ニギニギしないれぇ。腰砕けになって、それ以上スリスリコスコスされたら立ってらんなくなりゅう」


 よほど弱点らしいな。しかも、こすって欲しそうに腰をヘコらせるんじゃないって。

 昼間ですよ。まったく。いや、夜もダメだが。


 パッと尻尾を手放すと、淫魔は物欲しそうな顔で私を見上げた。


「もうやめちゃうの?」

「会話にならんだろうに。しかし……説得ねぇ」


 草刈りを終えたところでカルラがやってきた。


「えっと、白竜ちゃんって呼んでも構わないかしら? メイヤって名前も素敵だけど、そっちでその……慣れちゃってるのよ」


 どことなく初々しい感じである。急にどうした?


「…………」

「おい、私の心を読んだなら何か返答してもいいだろう。無視ですか鳥女」

「え? あ、ええと……不用意に他人の心を覗き見するのって、良くないって思って」

「はあ? 十分間で何があったんだよ? 急に『なんでもいいから働かせて欲しい』とか『手伝えることはないか?』って言ったかと思えば。貴様の個性を自ら封印ですか?」


 カルラは小さく首を縦に振る。


「気づかされちゃったの。わたくしがずっと誰も信じられず、孤独だった理由。誰にも隠しておきたい本音があるって。それを見透かせるから、わたくしは相手に勝手に期待して……本心を知って失望して……信頼したいと思える人こそ、その心を覗き見るべきじゃない……って」

「あっ……はい」


 本当に見てないのか? バーカバーカブースクソ雑魚鳥頭むっつり変態おっぱい。


「どうしたのかしら白竜ちゃん? ぼーっとしちゃって? あはは♪ もしかして、わたくしの美貌に見入っちゃったの?」

「貴様への罵詈雑言を頭の中でリフレインしながら、脳内でチンコ出してみたんだが」

「わたくしを試しましたのね? んもう! 白竜ちゃんってば、意地悪さんなんだから」


 ムッと頬を膨らませつつも、敵意や害意は一切感じられない。


 サッキーが「ほらね? 大丈夫っしょ?」とウインクする。


 いったい何をお話したんだよ。怖いんだが。


 カルラはその場で翼を広げる。ぐいっとストレッチでもするように軽く羽ばたかせてから、私にひざまずいた。


「ということで、わたくしの目を開いてくれたサキュルちゃんと白竜ちゃんには恩義をもってお返ししますわね」

「つまり、協力してくれるってか……けどなぁ」

「信用していただけないなら、どこかで埋まっていてあげますわ」

「いやまあ、好きにしろ。というか立ってくれ」


 手を差し伸べるとカルラは素直に握り返して「あら、口調は乱暴ですけど、やっぱり優しいところがあるわね」とニッコリ。


 立ち上がって鳥女は私を見つめた。


「白竜ちゃんに協力するのも、別にイヤイヤではないってことだけは、ハッキリ申し上げておきますわね」

「なんだその、悪い気はしないみたいな言い回しは」

「ストレートがお好み? でしたら、言っちゃおうかしら」


 スッと呼吸を整えて魔翼将軍は聖母のような笑みを浮かべた。


「初めてその心に触れた時から、温かさにすっかりあなたを好きになってしまいました。愛していますわ……白竜ちゃん♪」

「はああああ? 急にどうした?」

「ひどいですわね。本気なのに。まあ、白竜ちゃんがわたくしを殺したいほど嫌って、憎んだとしても、この胸のときめきと溢れる想いは変わりませんわ」

「重たい女だな」

「あらあらあらぁ♪ わたくしこれでも改心したの。白竜ちゃんが他の女の子を選んでも、その子を殺したりしないから安心なさいな」


 ああそれなら安心……ってなるか。怖すぎるって。


 隣で淫魔が私の腕を掴んで揺する。


「よかったじゃ~んメイヤ! 愛がいっぱいで!」

「よくないが?」

「やっぱハーレムなら女の子がみんな仲良しがいいよね? うんうん、言わなくてもわかるよ!」

「勝手に私のお気持ちをねつ造するんじゃないよ。まったく」

「けどけどケンカするよりいいでしょ? ほら! メイヤが愛する平和だよ?」

「思ってたのと違うが? というか、なんで貴様が喜ぶんだ淫魔よ」


 胸をぶるんと張ってサッキーは笑う。


「好きな人がモテるのってほら、なんか誇らしいし」

「貴様もおかしく……いや、元からか」

「そーだよサキュルは淫魔なんだし。最近はすっかり釣り人だけどね。もちろん、サキュルもメイヤを独り占めなんてしないから安心してね♥ あ! 夜の営みもチーム戦どんとこいだから!」


 なに言ってんの? こいつなに言ってんの?


 で、淫魔は握手を求めて手を差し出した。そんな手を握るアホなどおらんや……。


「うふふ♪ サキュルちゃん……正々堂々勝負しましょう」

「誰が一番になっても恨みっこなしだよカルラ」


 ガチッと二人は手を握り合い、互いに同じタイミングでうなずいた。


 極悪タッグ組むのやめーや。


 こういうのモテ期なんですかね。今は魔皇帝にお礼しなきゃならんって時だし、いずれ復活する聖王対策もあるってのに。


 いや、こんな時だからこそ……かもしれないけど……いや、やっぱ無理だろ。

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― 新着の感想 ―
[一言] 普段はっちゃけてはいるけど、こう、エロエロなことには意外と潔癖よな、メイヤくん。
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