131.ひさびさ家族会議
久しぶりに、中央平原の本来の我が家――
ログハウスに転移魔法で戻ってきた。
本当なら地下書庫のコアにも顔を見せたいのだが緊急事態だ。
メイド服姿のシャンシャンと一緒に、本日はゲストをご招待。
リビングの床に蔓縄で亀甲縛りされたカルラが転がっている。
口に猿ぐつわも噛ませているので一安心(?)だ。
「ムムム~! ムグググ~!」
微妙にうっとり顔で鳥女は身じろぐ。が、動くほど全身に蔓縄が食い込み締め上げた。
私とシャンシャンは腕組み仁王立ちで、足下にて蠢く魔帝国軍四天王を見つつ――
「さて、どうしたもんかね」
「手荒なまねは良くないわよ」
「じゃあひとおもいにスパッとやって埋めとくか。中央平原は広いから掘り起こされることもないだろうしな」
カルラが唯一動かせる首から上を左右にぶんぶん振る。イエスかノーか反応はできるようだ。
それに会話せんでも、私の心を読んでるんだろ? ほれ、正直に首を縦に振らんかい。
シャンシャンが不思議そうにカルラを見つめる。
「ねえ、カルラさんどうして首を縦に振り出したの? 埋まりたいの?」
「ムムム~!」
鳥女は首を左右にシェイクした。一瞬、元聖女の心を読み取って本気度を確認したらしい。
シャンシャンってアレなんだよな。死は救済タイプというか。
ガチでやりかねない。
心を読めることは元聖女には伏せてあるんだが、逆に素のリアクション見ちゃった鳥女に、シャンシャンという存在を知ってもらえて私は満足だ。
「ムムム~! ムゴムゴ~!」
海老みたいに全身を反らせるカルラ。跳ねることしかできない無能四天王がそこにいた。
シャンシャンが困り顔だ。
「説得できないかしら? 仲間になってもらえたら心強いし。それにメイヤさんにも協力的な人なんでしょ?」
「まあ、記憶を失ってた時の白竜魔将を認めていただけで、今の私をどう思ってるかはわからんからな」
カルラがじっと私の顔を見て瞳を潤ませる。
そろそろ喋らせてやろう。猿ぐつわを外すと――
「魔皇帝陛下に挑むなんてバカなことはやめて、わたくしと一緒に元の暮らしに戻りましょう! ね? 黙っててあげるからぁ!」
本当ぅ? 私はいぶかしんだ。カルラはウンウン何度も頷く。
「困ったな。貴様のことが信用ならん。かといって始末するのも違うし、解放すればしたで魔皇帝の元に走るだろうし」
縛っている間に短期決戦も考えたが、問題は山積みだ。
まず魔皇帝の能力――人の記憶を操る術への対抗策。知識の泉ことダンジョンコアに相談するにしても、手段が見つかるかわからない。
魔眼で動きを止められては戦いにならんし、底が知れない。私以外が対処するのも基本NGだ。
今回はシャンシャンが解呪してくれたが、当の元聖女が操られるなら即終了。
私がまた、記憶を奪われた時には……その場にシャンシャンがいないとアウト。
他の仲間も原則、力は借りられない。魔皇帝にコントロールを奪われたら、私が手出しできなくなる。
若君……ああ、癖だな。カゲ君の事もある。私との出会いについて、カゲ君も魔皇帝の手で記憶改ざんされていた。
過去にも恐らく、魔皇帝はカゲ君の記憶を操ってきたんだろう。
ついでに言えば、貴様もだぞ魔翼将軍。
「陛下が……記憶を?」
今まで操作された者が、記憶を取り戻すことは無かったんだろう。
もしかすれば、心を読んで秘密に近づく度に、カルラも魔眼と記憶改ざんコンボで無かったことにされていたかもしれない。
魔翼将軍はそれでも――
「だ、だったらどうだっていうのかしらぁ? 今の作戦、全部心の声で訊かせてもらったけど、白竜ちゃんじゃ陛下に勝ち目が無いじゃない?」
シャンシャンは「え? なに? 心の声って!?」と、こちらはこちらで困惑中だ。
魔翼将軍をキャンプ地に拉致ったまま、何日も隠してはおけない。
やっぱ山中に埋め……
カルラがブルリと震えたところで。
外からリビングに巨乳ビキニが飛び込んできた。
「やっほー! メイヤ帰ってきたんだね? あっ! また女の子増やしてる! んもー相変わらず隅に置けないんだから。この野獣!」
ケラケラとお気楽に笑って私の二の腕に抱きつくと、胸の谷間をぐいぐい押しつけてくる……サキュルである。
目が合った。
相変わらずの特徴的な七色の虹彩だ。
七色の……虹彩? って、たしかカゲ君も魔皇帝もそうだったんだよな。
魔帝国を建国した魔王の血族。特に強い力を受け継いだ選ばれし者の証……だったか。
サキュルって本人は知らないようだけど、魔王直系かそれに近いってことになる。
淫魔と魔王のハーフってか。
あっ……ええと……たしか前にカゲ君が怪我した時、元聖女の治癒魔法が効かないというか、使ったらヤバイってなって、サキュルがサキュルの方法でカゲ君を治したんだ。
サキュル自身にもシャンシャンの聖属性魔法力は特攻だった。効果は抜群だ。
ぽやっとした顔の淫魔が足下の鳥女を指さす。
「っていうかプレイ中だった? あ! えっとね、サキュルはサキュルって言うんだ」
「…………」
カルラは淫魔の心を読んでいるんだろうか。
顔つきが変わる。魔翼将軍が恐る恐る声に出す。
「サキュル……様ですか? か、カルラと申します」
「え~? やだやだなになにぃ? 初対面なのに様とかつけちゃうタイプ? いーっていーって、もっとフランクでフレンドリーでさぁ」
私が「埋めようかな」と検討した時よりも、カルラの表情が凍り付いた。
サキュルが密着したまま私に向き直る。
「で、なんかトラブってるの?」
「うむ。ひとまず捕虜にした魔帝国の四天王をどうするかって話でな」
「じゃあじゃあサキュルに任せてよ! 同じ魔族なんだし、ちょっと話せば悪そうなやつはだいたい友達? みたいな」
大丈夫だろうか? と、心配になるのは誰にでもできることだ。
カルラの様子がおかしい。いったいサキュルの中に何を見た?
シャンシャンが「だ、大丈夫なの?」と眉尻を下げる。
淫魔はサムズアップで応えると――
「ほらほら二人とも出てった出てった! こっからは魔族同士の熱いトークタイムだから!」
私と元聖女はログハウスから追い出されてしまった。
外に出るとピンドラちゃんが竜の姿のまま、ログハウスにブレス照射の構えである。
「おいおい何してるんだドラミちゃん?」
『あ! お兄ちゃんお帰り~! あのねあのね、もし悪い奴が逃げようとしたらね! 焼こうかなって!』
念話で物騒なことのたまうのやめなさいよ。
「今、サッキーが説得してるから、焼くのはちょっと待て。というか、ログハウスごと焼くんじゃないよ。まったく」
帰ってきて早々、どいつもこいつも手が掛かる。が、なんだか懐かしい気持ちになった。
ま、淫魔の説得は期待せんでおこう。
最悪、カルラを解放するしかないかもしれんな。もちろん、次に私に向かってきたら……ましてや誰かを傷つけようものなら、容赦はせんがな。




