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122/205

122.メイドさんと一緒

 三日後の朝――


 メイドが来た。白黒フリフリ系エプロンドレスに金色猫耳付きのヘッドドレス。

 膝丈スカートに、純白のニーハイソックス。


 こちらに向けたお尻の辺りに、黄色いボブテイルがちょこんと生える。


 板張りの廊下をモップ掛けしているんだが……スカートが短いせいか前屈みになるとパンツが見えそうで見えない。


 絶対領域の守護者によって絶妙に隠されていた。


 金髪は長いものを、ねじって巻いてアップにまとめている。


 胸元はその……慎ましやかだ。


 視線に気づいて少女が手を止める。


「ご主人様? さっきから何をじーっと見てるんですか?」

「いや、別に」

「そんな変態チックな仮面をつけていても、丸わかりなんですけど?」


 若君にお願いしたフェイスマスクのおかげで、人と会うのに軽甲冑でなくて済むようになったのはありがたい。


 ものの、変態マスクとは。陶器のような白地に目の部分にはスモークブラックのレンズ。切れ長な形で、なんというか……悪役顔だ。


 加えて鼻部分が尖って伸びて刺さりそうである。飯を食うには困らないが。


「好きで装着しているわけじゃないぞ。訳ありだ」

「訳あり……ね。もう少し普通のサングラスとかでもいいんじゃないですか?」

「仕事柄、こういうのじゃないと威厳が保てんのだ」

「仮面で威厳って……どういう仕事をしたらそうなるのかしら」

「知らないでメイドの応募を受けたのか?」


 メイドはモップ掛けを再開した。


「一応、偉い人って訊いてるわよ。だからかしら、面接がちょっと変わってたのよね」

「変わってたって?」

「家事スキルの他に、戦闘テストもあって」


 若君、本当にパーフェクトメイドを掘り当てたんだな。

 メイドが微笑む。


「すごく待遇もいいし、かわいい制服も支給。住み込みっていうのも気に入ってます。日用品とか必要なものは発注できますし」


 私が彼女のアレコレを心配する必要はなさそうだ。


「三食おやつ付きなのもポイント高いかも。ま、そのご飯はあたしが作るんですけど。食べたいものがあったら、なんでも言ってくださいね」


 お尻をフリフリ。丸い尻尾(?)が気になった。


「猫耳尻尾はなんでつけてるんだ?」

「人間って思われないようにって」


 また手を止めて、少女はヘッドドレスを外す。


 間違いなく人間だ。赤紫色の瞳がじっと私を見る。


「買いだしとかで余計なトラブルを避けるためって。人間お断りのお店もあるみたいだし。もちろん、町で暴漢に絡まれても切り刻めるくらいは強いし」


 物騒だなこいつ。逆に心配になる。

 なんだろうか――


 見ているとホッとする気持ちと、ハラハラする気持ちの二つが同居した。


 少女が首を傾げる。


「ところでご主人様って……正体を隠さなきゃいけないんです……よね?」

「うむ。そういう契約だ」

「そう……なんだ……やっぱり」


 メイドはうつむくと、悲しげな顔をする。


「やっぱり?」


 少女は手のひらで目元を拭うと笑顔を作った。


「秘密とか正体とか、もし、打ち明けたくなったらいつでも言ってくださいね。独りで抱えてると心がつらくなることって、あると思うし。話くらいなら……聞いてあげられますから」

「お、おう」


 急にどうしたんだ? 情緒大丈夫か?


「そういえば、まだちゃんと自己紹介してなかったな。私は白竜魔将ヤメイだ。貴様は?」

「シャロ……シャーリーです」

「なんだ偽名か? 元の名前とあんまり変わってなさそうだが……」

「ぎ、ぎぎ、偽名なわけないじゃないですか!」

「別に気にしないし、好きに名乗ってくれてかまわんぞ。この町で人間が魔族や獣人亜人のフリして暮らすのには、名前を偽ることも必要だろうしな」

「そ、そうですよね」

「だが、もう少し変えた方がいいんじゃないか? あんまり元の名前に似すぎた偽名っていうのもな」


 少女はムッとした顔になる。


「いいんです! あたしの……好きな人がそういう感じだったから」


 好きな人?


「なぁんだ貴様? 好きな人がいるのか? ヒューヒュー!」


 と、煽った瞬間――


 いきなり平手が飛んできて、私の首が真横に吹き飛ばされた。


「ぐはッ!?」


 少女の細腕にしてはなかなかの威力だ。

 普段なら殺気や敵意を感知して身体が勝手に回避行動を取るのに、彼女のビンタを私はモロに食らってしまった。


「し、知らないんだから! ちょっと買いだし行ってきます! ちゃんとお留守番しててくださいね!」


 モップを放り出し、メイド少女――シャーリーは出て行く。


 急にキレた。いやキレさせたのは私か。


 なんか、地雷踏み抜いたのかなぁ。年頃の女の子って難しい。


 今日から一つ屋根の下。上手くやっていけるだろうか……。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 更新お疲れ様です。 なるほどこう来ましたかメイドさん募集。良かった、若様が「残念ながら私のお眼鏡に叶う人が来ませんでした……なので私が!」と自ら女装してメイドさんになりに来なくてww …
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