118.誰にでもできる魔翼将軍の簡単な処し方
歓声が大闘技場を包む。
つい先日、ラードンを撃破したばかりだというのに、私は武闘台の真ん中に立っていた。
試合開始から五分が経過。
相手は死神――魔翼将軍カルラだった。
優雅に翼を羽ばたかせ舞う姿に客席が魅了される。
大鎌を振り回し、上方から強襲。刃を振るってまた空中へと戻る一撃離脱先方が、彼女の十八番ってわけだ。
「うふふ♪ さあ、一緒に死の輪舞曲を踊りましょう」
どうして戦う羽目になったのかというと――
四天王の筆頭がどちらかをハッキリさせたいと、鳥女側からの申し出があったためだ。
私は『別に筆頭名乗りたいならお好きにどーぞ』と辞退したんだが、どうやらこれが彼女には気に入らなかったらしい。
魔皇帝の裁定で、またしても特別試合が組まれた。
会場は大入りでチケットも争奪戦。転売が横行するほどの過熱ぶりだ。
どちらかといえば、客の目当ては死神カルラらしい。
歌姫のコンサート会場のような熱気だ。
魔力灯の光る棒みたいなのを持ち、揃いの半被姿に鉢巻きまでしたカルラ親衛隊が、最前列で統率の取れた応援を披露する始末。
カルラ復帰ゲリラライブ。
ラードンをメッタメタにしたこともあり、元の闘技場ファンたちも私を敵視。先日、大損ぶっこいたギャンブラーたちの恨みも買っている。
魔翼将軍がライバルだった魔竜将軍の仇討ち! と、世間は共通の敵を前にして結束を深めたんだとさ。
わーお。私の存在がみんなを仲良くしちゃったんだね。
どうしてだよおおお! 以下、顛末の詳細である。
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むかーしむかしってほどでもないちょっと前のこと。
闘技場界隈ではずっとラードンが王座を維持していたが、あるとき、気まぐれでカルラが参加。
あっという間に最上位ランクに到達し、魔竜将軍VS魔翼将軍のカードが組まれたのが昨年末。
結果は二時間に及ぶ塩試合の末、魔皇帝の「……飽きた」の一言で引き分けとなったそうだ。
どうしてそうなったのかといえば、鉄壁巨漢のラードンの鱗を死神の鎌は引き裂くことができず、一撃離脱戦法を駆使するカルラをオオトカゲのオッサンは掴まえることができなかったから……とかなんとか。
共に決定打を欠いて、試合が成立しなかったという。
で――
死神、曰く。
引き分けに終わったラードンを倒した私を、民衆の前に引きずり出して斬り刻めば、自分こそが四天王最強だと証明できる。
だってさ。
本当はどうでも良かったんですけどね。
ツインタワーキャッスル本会議場における四天王定例会にて――
私が興味なさそうに、話長いなぁこの女。夕飯は唐揚げかコロッケがいいなぁ。なんて、思っていたら、態度が気に入らなかったようでカルラはぶち切れ。
「女の子に負けるの怖いんでしょ? で、負けたらきっとこう言うに決まってますわ。女性に暴力は振るえないとかなんとか。弱いだけならまだ可愛いけど、弟王ちゃんの影に隠れて恥ずかしいとは思わないのかしらぁ?」
ねっとり挑発された上に、若君の名前出してきたんだよなぁ。
『もしやるってことになれば、遠慮無く顔にグーでいくが構わんのだな?』
「あたしの顔に触れられると思ってるのぉ? ほんとにほんとにほーんとにおバカさん」
ってなわけで、魔翼将軍カルラにお付き合いすることになったのである。
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純白の軽鎧を刃が切り裂き、こちらの反撃よりも速く死神が空を舞う。
破損の度合いはかなりのものだ。
困ったな。カルラはただ動きが速いとか、空を飛べるから以上にやりにくい。
私の攻撃……というか次の一手を読んでいるみたいだ。
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あらあらあらぁ♪ いい線行ってますわね。それにしてもこの男、戦いの最中になってようやく思考が見えてきましたけれど、それ以前の記憶部分は空っぽですわ。
どういった戦闘スタイルなのか読めませんけれど、このままじわじわ斬り刻んでダルマにしてさしあげましてよ。
あの脳筋ラードンの場合、何をしてくるのか心を読まなくてもわかりますし……というか、わかっても攻撃が通らないから千日手でしたけど、今回は楽に勝てそうですわね。
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私の視界に赤い古代文字の警告が点灯した。
仕方ない。一度、リフレッシュするか。
ぶっつけ本番だけど、上手くいけば御の字だ。
カルラが一撃を放って空に戻り宙返りする。こいつの攻撃は基本、単発だ。次の攻撃までは早くても五秒。
首の辺りに触れてイメージする。
白い軽鎧スーツを頭部以外分解――
再構築。
途端に全身を覆うピチスーが光となって散華した。
マスク部分だけをそのままに。
二秒ほど、覆面全裸である。
会場内の歓声が悲鳴に変わった。
私はセクシーに艶やかに身体をくねらせる。
ああ、今、私は魔帝都のたくさんの人々に見られているんだ。
魔皇帝にも若君にもラードンにもウルヴェルンにも、あとなんか陰キャっぽい魔知将ヤンミンにも。
もちろん対戦中のカルラにも。
Come On!
二秒後に再び白竜の軽鎧を身にまとう。
半損していたアーマーが全回復だ。
頭上を指さす。
『さあ、かかってこい。私はどれだけ傷つけられようとも、何度でも甦るさ』
死神は――
顔を真っ赤にして墜落した。地面に激突してそのまま、動かなくなった。
なんかしらんが勝った。
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きゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!
破廉恥ですわ! なんですの! 試合中に脱ぐなんてあり得ませんわ!
しかも踊り出すなんて。そりゃ輪舞曲とか言いましたけどぉ。
頭の中どうなってますの?
ウッ……なにこの……えっと……なんですの?
どうしてそんなに温かい心の光に満ちていますの。ダメッ! ああ! 入ってくる! 中に……わたくしの中に……。
ひぃ! しゅ……しゅごいぃ……!?
どうしてそんなに優しい色をしていますの。
温かいものでわたくしが満たされてしまうなんて。
あん……らめぇ……もう無理ぃ……そんなに大きなの入りませんわぁ!
愛に……わたくし……陵辱されてしまいましたわ。
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試合続行不能。反論無いなら私の勝ちだが? と、審判に詰め寄ったところ、局部を出した子一等賞……もとい反則と見なされて、今回は没収試合になりましたとさ。
いいじゃねぇか別にチンコ出したくらいでうだうだ言うんじゃありませんよ!
試合の後――
控え室で正座。
若君にいっぱい怒られた私です。