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親のエゴ


ミレスさんのカウンセリングが終わってから数日が経っていた。うまくやれているだろうかと時折考えてしまう事がある。


 「また、考え事ですか?先生」


 「ああ、いや、ミレスさんの事が何か気になってな」


 「え!もしかしてミレスさんに惚れたんですか?」


 「違うよ。部下とうまくやれているかって」


度々、考えに耽っていてはクレアは声をかけてくる。その度に、惚れたのか、好きになったのかと言ってくる。


 「そうですか…確かに気にはなりますよね」


 「クレアさんは違う意味で気なってそうですね!」


 「うるさい!」


クレアはラフトルに組み付き、技をかけていた。最近はより仲良くなっているように見える。と、そんなやり取りをしていると玄関の鈴が鳴った。


 「いらっしゃいませ~」


クレアもラフトルもその音を聞いた途端に仕事モードに切り替わっていた。ラフトルも慣れたものだ。


案内され、部屋に入って来たのは中学生くらいの少年とそのお母さんだった。


 「こんにちは。パナリエに張られていた広告を見てきました。悩みを聞いてくれるとの事で」


パナリエはユリアさんのパン屋の名前だ。早速張ってもらった効果が出たようだな。心眼もオンにしておこう。


 「はい。もちろんですよ。先にこちらを書いてもらってもいいですか?」


 「はい。わかりました」


俺は軽く病院の説明を行い、例によってアンケート用紙を記入してもらった。

書いてもらった内容を確認すると、どうやら親と子の意見の相違が起きているみたいだ。


 「なるほど。具体的にどんなことか聞いてもいいですか?」


 「はい。家では代々商業を営んでいるのですが息子を跡継ぎにしたいと考えています。でもこの子は魔法学校に通って魔法を勉強したいと言っていて、いうことを聞いてくれません。どうしたらいいでしょうか?」


ふむ。前の世界でもよくあった問題だ。親が子の道を決めてしまうという物。それに言うことを聞かせたい…か。勘違いをしている人は多いが、子供は親の所有物ではない。


 「そうなんですか。学校に通いながらというのは無理なんですか?」


 「そんな暇はありません。学校に通っている暇があるなら家の事を少しでも覚えてほしいと思います」(魔法を学んだところで何の役にも立たないんだから当然よ)


 (やっぱりどこで話してもお母さんの意見は変わらない。僕はこのまま家を継ぐしかないのかな)


高校や大学に通いながら、家の仕事を手伝う。良くある話だと思うが、大抵は社会人になった時に本格的に後を継ぐために働き始めるものではないんだろうか。詳しくは分からないな。


 「ねぇ、先生。どうすればこの子に言うことを聞かせられますか?」(いうことを聞いてくれれば、こんな相談もしなくてよかったのに)


なるほど。他の所でも誰かに相談したんだろうか。彼はすでに諦念しているように見える。それにしてもぐいぐい来るお母さんだな。


 「お母さん、話は分かりました。すみませんが少しだけ息子さんと二人で話してもいいですか?」

 

 「え? あ、はい」(なるほど、息子を直接叱ってくれるのね)


ラフトルにお願いをして、お母さんを一旦部屋の外に連れ出してもらった。


 「えっと、まずは名前を聞いてもいいですか?」


 「僕はフィティスと言います」(なんで二人で話そうと思ったのかな、いきなり怒られるのかな)


 「ありがとう。先の話だけど魔法学校に行きたいというのは本当ですか?」


 「え…はい…」(行きたいには行きたいけど…)


フィティス君は消え入りそうな声で返事を返した。恐らく、否定され続けた事で自信を持って言えないのだろう。中学生くらいの時期ではこういった芽は摘んでおかなければいけない。もう少し大人になった時、自己主張ができない人間になってしまう。


 「そうなんだ。お母さんにはいつも断られているの?」


 「お母さんはいつも魔法を学んでも意味はないって言ってます」(魔法が使えればもっといろんなことができるしきっと役に立つのに)


それからしばらく対話を試みた結果、彼は魔法を学びできれば冒険者になりたいとの事だった。小さいころにある冒険譚を読み、ずっと憧れていたそうだ。


それを聞いていたラフトルは実際に冒険者だったこともあり、その辺の話をしてくれた。彼は興味深そうに話を聞き、意思は固そうだった。場合によっては家を出るつもりでいるとも言っていた。


 「そうなんだ。家の事もあるとは思うけど、俺としてはフィティス君のやりたいことをやるべきだと思うよ」


 「私も半分は家を出たようなものだから、先生と同じ意見かな~」(確かに冒険者は大変だけど自由で楽しい部分もあるしね)


 「本当ですか!?」(ちゃんと認めてくれた人は初めてかも!)


 「ただ、そうするにはいろいろ手順を踏まなければいけない」


少なくともまずはお母さんの説得だ。それにあの感じだと難しそうだ。

出来たレールの上を進むことは簡単かもしれない。それをわざわざ彼は外れようとしているわけだ。凝り固まっている価値観を壊すのは至難の業だ。


 「冒険者になることは伝えたことはあるの?」


 「いえ、どうせ言っても認められないので…」(否定されるに決まっている。魔法学校にも行けないんだし)


 「なら、一度それを伝えてみよう。実際に伝えてみて本当にだめなら違う作戦を考えよう」


彼はまた否定されるかもと怯えていたが、テレパシーでも使えない限り相手の心は分からないものだ。それはお母さんも同じだ。

再びお母さんに入室してもらい、彼の気持ちをしっかり言葉にしてもらった。

最初こそもじもじしていたが、後半は訴えるようにしっかりした言葉で伝えていた。


 「だから、魔法学校にいきたいんだ!」(これが僕の本当の気持ちだ。伝わってくれ)


 「……そう」(気持ちは分かったけど、こんなはっきり伝えられたのはじめてだわ、ちゃんと考えていたんだ)


お母さんは話を聞き終え、難しい顔をしながら深く考えていた。

お母さんはしばらく考えていたがこちらに向き直し、聞いてきた。


 「先生。私はどうしたらいいでしょうか? この子の気持ちは理解しましたが、何というか…」(学校に行かせてあげたいけど、家も継いでほしい、うーん、どうしよう)


 「そうですね。お母さんは恐らく今、学校に行かせることと後を継がせることの二つの気持ちが鬩ぎあっているんじゃないですか?」


 「え!その通りです」(びっくりした。考えていることが読まれたかと思った

)


いや、まぁ聴こえているんですけどね。


 「こういう場合、条件を付けてみるのはどうでしょうか?」


 「条件…ですか?」(どういうこと?)


親が子に言うことを聞かせたい、という気持ちは十分に理解はできる。

例えば、子供がゲームばかりで全く勉強をしていない状態で、どうすれば勉強をしてくれるのか。言うまでもなくただ、勉強しろと怒鳴っても意味はないし、何ならそれで成績が下がることもあり悪循環の始まりだ。


 「まずは彼の意思を尊重して、魔法学校に入学させます。もちろんそこには試験等もあるでしょうからまずは受かるかどうか、次に入学できた場合に上位の成績を取ることなどです」


 「なるほど…」(ちゃんと勉強できているか確認するってことね)


条件として提示できるのはあくまでその子が本気で取り組みができる条件に限る。例えば、次のテストで高得点を取れば褒美に何か買ってやるというのは一見、やる気を上げるのには効果的だが、本人がそれを覚えてしまえばそれからは褒美がなければやる気が出なくなり長期的な努力が出来なくなる。


本人が自分のために、自分のやりたいことのために努力ができる環境を作れるのが一番いいことだ。そこで努力ができないのならその程度の夢ということになる。


 「そこで、彼がその成績をキープできていれば彼は本気で自分のやりたいことをやろうと努力をしていることになります。後はご両親の心遣いになるかと思います」


 「確かにそうですね…。わかりました…夫にも話をしてみようと思います」(私達次第…ね)


 「わかりました。何かあれば遠慮なく相談しに来てください」


それから二人は礼を言って、部屋を出ていった、がその後フィティス君が戻ってきて元気にお礼を言い直してきた。


 「先生!ありがとう!僕、頑張るね!」


 「ええ、頑張ってくださいね」


俺は笑顔で返し、彼は病院を後にした。入って来た時と表情が変わっていて前向きになっていたのが良くわかる。話が通じたことが嬉しかったのだろう。未来のある子供にはやりたい事を追ってほしいと思う。


 「先生。お疲れ様です! 商業の街で代々の家業があるのに冒険者を目指す子がいるのは珍しいですね」


 「そうなのか?」


 「はい、ここの魔法学校はどちらかと言うと生活とかを便利にするためだったり、商業をする上で使える魔法だったりを学ぶところで、冒険者みたいな火炎魔法をぶっ放すみたいな所ではないんですよ」


クレアの話では、ここメルカトゥラの魔法学校は冒険者向きではないみたいだ。もちろん冒険者にはなれるがもっとしっかり攻撃魔法とかを学べる大きな魔法学校があるそうだ。そのためここの魔法学校に通い、冒険者になる人は毎年、多くはないみたいだ。


 「へぇ、そうなんだ。二人も魔法は使えるのか?」


 「私は使えませんね。使えてたら事務仕事ももっと捗ったはずですが」


いや、魔法が使えても仕事はやるんだな。クレアらしい。


 「私は~、少しだけですね。水を操れる程度です」


 「すごいな。実際に見たのは初めてかもしれない」


 「そうなんですか?」


ラフトルはポンポンとお手玉のように水の玉を出現させ目の前で円を描くように回していた。そういえばと思い出し、魔法をはっきり見たのは初めてだった。今度魔法についても調べておくか。


 「そういえば二人は魔法学校には行ってないのか?」


 「私はママの仕事ぶりを見ていたのでそもそも学校に行くつもりはありませんでしたね。それに入ろうと思えばいつでも入れますし」


いつでもとは学力的な意味なのか、大学みたいな感じなんだろうか。


 「私も前に話した通り、冒険者になるか故郷でゆっくり過ごすかだったので魔法学校は考えてなかったですね」


冒険者は特に魔法学校に行かないとなれないというわけではなく、それこそ大学みたいなものらしい。魔法を専門的に学べば冒険者でもやや待遇が良かったりなど。それなら学校内を自由に入ってみてもいいかもしれないな。


 「入学しないと中には入れないのか?」


 「いえ、入り口で受付すれば制限は少しありますが中には入れますよ」


それはありがたいな。魔法学校は前の世界にはなかったため興味が湧いてきた。明日にでも行ってみるか。


 「明日、行ってみるかな」


 「じゃあ、私も行きます。ラフトルは留守番で!」


 「何でですか~!私も行きますよ!」


そんな予定を決めつつ、病院を閉めるために片づけを始めた。


――――


俺は、普段寝る前にその日のカウンセリングを振り返るようにしていた。


そして今日もまた振り返っている。前の世界でもよく問題になっていた、親という存在。それは人生で最初に会う人物で最初の他人だと言われている。


時には親である二人の浅はかな行動から望まれない子供も生まれてくる。その上、邪魔だからと虐待を受けたりする子供も少なくない。人によっては自分がプレイするゲームのキャラのように自由自在に操ろうとする人もいる。


気持ちは分かるが、よく考えてほしいとは思う。

簡単な話、自分が子供の頃に親にやってもらったこと、やられて嫌だったことを思い出し、その気持ちを理解すれば自分が親や、教育者になった時どういうアプローチをすればいいか分かるはずだ。


それを自分の思うように子供の事を考えない教育が広まっていく事で、子供から親という立場が軽視されるようになり、我がままな人間が増えていく。


まぁ、嘆いたところでたった一人の人間の思想で世界が変わるわけもない。

できることをやろう。


そんな事を考え、今日も眠りにつくのだった。



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