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カルテ2 不眠症


開業してから三日が経過した。その間客は一人も来ていない。

誰も心が病んでいない、と考えれば確かにいい事なのかもしれない。病院を開業してからクレアには病院内で事務仕事をやってもらうため、諸々を教えていた。


 「今日もお客さん来ませんね」


 「まぁ、医者としては病人がいないに越したことはないんだけどね」


 「いえ! 多分まだ行こうか迷っている人とかの方が多いんですよ! 今までこういう病院はなかったですから!」


アンネさんの話やクレアとの面談の時でも、精神病はこの世界ではおそらく認知されていないんだろうな。


 「ところで先生! 先生はいつから先生をしてるんですか?」


 「そうだなー、長くやってるとしか言えないな」


そんなこともあり、時間があるときはクレアから俺についての質問タイムになってたりする。だいたいは誤魔化しているが、実は異世界から来たと言っても信じないだろう。


 「そういえばクレアが元気になってからお母さんも毎日楽しそうにしているな。良いことだ」


 「そうですね! ママのお店でも最近明るくなったねってよく言われるんだって! 先生のおかげです」


昼食はクレアと共にユリアさんの店で食べることが多い。ユリアさんも初めて家で会った時に比べたら眩しいほどに明るくなっていた。今日もちょうど昼食を済ませてきたところだ。


 「クレア、掃除は…今日はいいか。暇だし街でも行くか?」


 「え! いいんですか?」


 「もう少し待って、誰も来なければ早めに閉めて街にでも行こう。俺も少し部屋に行くから何かあったらカウンターのベルで教えてくれ」


 「わかりました! それまで掃除してます!」


クレアは鼻歌を歌いながら掃除に向かった。クレアも元気になってくれて素直にうれしいものだ。

俺はここ数日、薬草を集めていた。とりあえず一度作っておけば材料があれば量産できるためいろいろ作っておきたい。

今回は不眠用のポーションを作ろうかと思い部屋に戻ってきた。


ステータス画面を開き、必要な薬草を確認する。


 「えっと、材料は…ティリア、ローザ、カモミラ、ラタリウムか」


確認しながら生成し、出来たポーションを取り出した。


 「色は、白っぽいな。においは…甘いな。飲みやすそうだ」


とりあえず生成ができ、他には何かないか探していると、一階と連携しているベルが鳴った。何かあったのか。一階に降りるとクレアが駆け寄ってきた。


 「先生! お客さんが来ました!」

 

 「え、お客さん?」


数日間あまりに何もなかったため、急な来客に少し驚いてしまった。


 「えっと、入れても大丈夫ですか?」


 「ああ、頼む」


そういうと俺もクレアも仕事モードに切り替え、対応する。心眼もONにしておく。


 「こちらです。どうぞ」


クレアに案内され、部屋に入って来たのは若めの女性だった。とても顔色が悪い。とりあえず椅子に座るように促した。


 「初めまして。この病院の医師をしています。リョウと言います。今日はどうされましたか?」


 「あ、えっとギルドの知らせを見てきたんですけど」


しまった。つい癖でいつもの対応をしてしまった。


 「失礼しました。すみませんが先にこちらのアンケートを書いてもらっていいですか?


渡したアンケートには名前や症状などの簡単な項目を書く欄があり、スムーズに診断を進めるために準備した。症状によっては話すより書く方が分かりやすかったりする。


 「これでいいですか?」


 「ありがとうございます」


書いてもらったアンケート用紙に目を通していく。名前はカミラ・ソムノレンス。症状は…おそらく不眠症か。


 「夜、眠れない期間が続いているのはどのくらい前からですか?」


 「はい。だいたい二か月くらい前ですかね。そのせいで日中も集中できなくて…最近怒られてばかりなんです」


なるほど。不眠症は大体五人に一人はいて、女性の方がなりやすいとされている。主な原因は過度なストレスや他の精神疾患などによる併発や薬の副作用があげられる。


 「寝るときに何か不安な事を考えていたりしますか?」


 「そうですね…また明日も怒られるんじゃないかと思うとなかなか寝付けなくて」


 「そうですよね。それは不安になりますよね」


心眼はオンにしているがまだ、信用という所までは来てないか。そもそもずっと難しい顔をしていて周りに目を向けられていないようだ。


 「ちなみに寝れないという状態でもいくつかありまして、例えばそもそも寝付けずに時間が過ぎるのか、寝てもすぐに起きてしまうのか、朝起きた時に寝た感じがしないのか」


 「そうですね。寝るまでに時間がかかるのと起きた時に寝た感じがしない事ですかね」


眠れない原因としてはストレスや極度の緊張から交感神経が刺激され、興奮状態になることがあげられる。そんな状態で眠りに入っても疲れは取れない。


 「なるほど。何か運動などはしていますか?」

 

 「いえ、仕事だけで特には」


不眠症の治療法としては、寝る数時間前に適度な運動などをしてしっかり体を疲れさせ、時間をかけて眠気を誘う方法はある。慢性的であれば一時的に薬物療法などもあるが、使えば使うほど効果が薄れていくためおすすめはしない。


 「わかりました。これまで改善として何か試されたりしましたか?」


 「できるだけ考えないようにしましたが、逆効果でした。リラックス効果があるハーブなども使ってみましたがだめでした」(この・・・は・・・な)


何か伝わってきそうだったがまだ聴こえそうにないな。

うーん、どうするか。不眠症の最も効果的な治療はストレスや緊張をする環境から離れることではあるが、そう簡単な話ではない。大体は薬の処方が一般的に行われていた。


 「そうですか。…あの、医師がこんなことを言うのは変かもしれませんが、不眠に効くポーションがあるんです。抵抗がなければ試してみますか?」


 「そんなものがあるんですか!?」(ちゃんと寝れるんなら何でもいいです!)


やや取り乱した様子だったため、一度落ち着かせ先ほどの不眠ポーションを取り出した。急いで降りてきたためアイテムボックスに入れるのを忘れていた。


 「これ…ですか?」(白っぽいけど見たことないポーションだ)


 「ええ、一応試薬品なので…無理にはすすめません」


 「いえ、…試してもいいですか?」(お願いします神様、どうかこれで)


かなり不眠に苦労しているみたいで俺はそれ以上何も言えなくなった。あとは女神ガイドの効果次第になるな。


 「わかりました。寝る前に半分ほどで効果がありますので飲んでください。期待してしまうかもしれませんが普通に寝るつもりで寝てくださいね」


 「わかりました。えっと、お代は…」


 「試薬品なのでいただきません。ただ効果があったらその感想を聞かせてください」


 「わかりました。ありがとうございます」


そして彼女は礼をして帰っていった。彼女が帰るのを見送ってからクレアが話しかけてきた。


 「先生、不眠って辛いんですか?」(仕事してた先生かっこよかったなー!)


心の声を聴いてしまい、書類をまとめるふりをしてすぐに心眼をオフにした。しまった。これはいかんな。


 「ああ、寝たくても寝られないって事だから辛いんだよ。寝ないとと強く思うことも寝れないことに繋がってしまうしな」


 「ふーん、よくわかんないです」


軽く片づけをしながら、仕事について少しずつクレアにも教えていく。今はお客さんがほぼいないため暇な時間ばかりだがもう少し増えてしまった場合は一人じゃ厳しいしな。


 「少し、外に出るか」


 「はい!」


時間もまだ夕方頃のためそう提案すると笑顔で返事をし、すぐに片づけを終わらせた。それから街に繰り出し俺の知らない店なんかを教えてくれた。

その中には薬草なんかを売っている店もあり、必要そうな薬草をいくつか購入しておいた。その後クレアを家に送り、病院の二階の自室に戻ってきた。


 「さて、始めるか」


店にはいろいろな薬草が売っていて、見たことのない物ばかりだったため手当たり次第に買ってきてしまった。買った薬草を並べ女神ガイドと照らし合わせる。いくつか作れるものは増えているのだが…。


 「今作れるのは…まじか、全部精力剤…か」


あの店に売っているのは精力剤の役割になる薬草なのか?

まぁ、何に使えるかわからないため作れるだけ作っておこう。

それから数時間も熱中してしまい、さすがに疲れたため眠りについた。


――――


 次の日、ここ数日と変わらず病院の内装や仕事内容やらいろいろ話しながら作業をしていると、玄関の扉が開き、綺麗な女性が入って来た。


 「いらっしゃ…あれ、カミラさん?」


 「先生! こんにちは。昨日の感想を伝えに来ました」


カミラさんは昨日とは打って変わって顔色も良く、仕事の後なのか一瞬誰かわからなかった。


 「ああ! どうでしたか?」


 「はい! それがもう爆睡で! 起きた時は寝れなかったのがウソみたいでしたよ」


カミラさんは相当嬉しかったのか、とても興奮した様子で感想を語ってくれた。あのポーションは薬草から作ったもののため漢方に近いのかもしれない。


 「それで、その、あのポーションはどこで手に入れたんですか? 私、ポーションの研究をしていてあんな色のポーションは見たことがありませんでした!」


 「一応自作ですね…」


カミラさんは驚いたようで作り方を聞いてきた。どうやら研究をしている知り合いも不眠に悩んでいるみたいで、そのポーションを生成するために研究をしているというループが起きている。気持ちはわかるが普通に休んでほしいものだ。


俺は材料は知っているが、工程はチートなため何を使ったかだけ教えることにした。そちらの研究が進んでくれれば不眠に悩む人も減るだろう。個人で所有するよりは企業で公式に作ってくれた方がいいかもしれない。


それからもいろいろ聞かれたが答えられることだけを答えたら、改めて礼を言って帰っていった。


 「先生、お疲れさまです」


 「ああ、クレアも」


勢いに押された形でやや疲れてしまった。息を吐き今日も病院を閉じる。


不眠症の改善はたった一回の質のいい睡眠で治ったりもする。それができないのは環境によるストレスが大きい。薬に頼ってしまうのもありだが、長期で見るとあまりお勧めはできない。いっそ振り切って限界まで体を酷使して一日ずっと寝てしまったくらいの方がいいかもしれない。


 「それでは先生! また明日です!」


 「ああ、気を付けて帰れよー」


クレアを見送った後、俺は部屋に戻り、またポーションの生成をして眠るのだった。

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