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開業


次の日、宿で目が覚めこれから拠点となる病院に赴いた。環境を整えなければ病院としては何もできないからな。


病院に行くとアンネさんとクレアさん、そしてユリアさんの三人がいた。


 「おはようございます。どうしたんですか?三人そろって」


 「あ! リョウさんお待ちしていました!」(クレアちゃんの事を言ったらきっと驚くわ)


クレアさんが一体どうしたのだろうか。そう思っていたが話を聞いて納得してしまった。


 「実はクレアちゃんが仕事に復帰したいそうなんですけど、昨日の事もあって同じ場所ではちょっと無理そうで…」


昨日の帰りに少しだけ覗いたが、怒声が響き渡っていたのを聞いてすぐに帰ってしまった。あれ以上の事が起きていたんだろうか。それを抜きにしてもいじめられた環境には戻りたくないだろうな。


 「まぁ、そうですよね」


 「それで、リョウさんがよければクレアちゃんを病院で働かせてくれませんか?」(どうかな、だめかな?)


 「お、お願いします! 私、役に立ちますのでどうか」(やばい、緊張して変になった! 恥ずかしい!)


アンネさんに続いてクレアさんが頭を下げてきた。


 「それは構わないですけど、まだ病院の方も準備ができていませんし、すぐには無理ですよ」


 「準備も私、手伝います!」(私でも役に立てるなら何でもやろう)


気持ちはありがたいが今の状態ではどうしようもないな。早く環境だけでも整えよう。


 「あの、じゃあ、その準備に必要な物ならギルドの力でできることはします」(これでもダメなのか)


 「わ、分かりました。それはありがたく頂戴します。でも俺もまだやることが多いのでどのみち今すぐには無理です」


 「ですがそういう事ならクレアさん、よろしくお願いしますね。こちらとしてもありがたい話です」


少し勢いに押された形にはなってしまったが、クレアさんと働くことになった。俺はとりあえず前の住人が病院の二階に住めるように部屋を作っていたためそっちの方から進めた。三人には明日から準備を手伝ってもらう事にして今日は一度帰ってもらった。


 「ここが二階か、結構いい部屋だな」


病院に入り、裏側の階段から二階に上がる。そこには2DK程の広さの部屋があった。前の人は夫婦だったのだろうか。一人にしては広すぎるしな。


ここ数日過ごしてみて気になったことは心眼のスキルは便利ではあるが普段の生活ではそこまで使わないことだ。仕事をする上ではこれ以上ない能力ではある。


そこでこの能力に関して対策できないか例によってステータス画面を開いた。


心温(しのん) (りょう)20歳

スキル 「心眼」2「ポーション生成」

生成熟練度 1

  ・

  ・

  ・

生成可能ポーション なし


最初に見た時と特に変わりは…ん? 心眼の横に数字なんてあったか?

少し気になり「心眼」の文字をタップすると拡大された。


「心眼」 レベル2

対象の強い感情に反応し、その声を聴くことができる。

対象が自分に対して否定的な感情を持っていると聴くことはできない。

対象が自分に対して好意的な感情を持っている時に任意に聴けるようになる。☑ON/OFF


知らないうちに心眼のレベルが上がっていて、項目が一つ増えていた。


 「好意的な感情ならば聞くかどうか選べるのか。何て都合がいいんだ」


どうやら選べるらしいので仕事の時以外はOFFにしておこう。

あとは女神ガイドの「採取ポイント特集♡」と言うのを開いてみた。

実際に病院を開くならある程度薬も作っておこうと思う。


ガイドに従い、入って来た反対側の出入り口から外に出た。

少し進み、やや生い茂った森の中に入った。ガイドによればこの辺では薬の材料になる薬草などが採取できるみたいだ。


 「とりあえず必要なものは安定剤か」


やはり精神を落ち着けるものが必要になる。項目にあった「精神安定剤」をタップして必要な薬草を確認した。


「精神安定剤」

柑橘系の植物のコルテクス、フロス、メリッサ、シンポポゴン、カモミラ、ステビア。これらを調合したハーブティ。


植物の名前に写真、調合方法まで丁寧に解説され素材集めはやりやすい。

全て自然由来の物のため前の世界のような副作用もないみたいだ。


 「便利だな」


しばらく森の中を散策して必要なものを少し多めに採取した。

街に戻り、調合する際に必要な容器などを購入し、部屋に戻った。


 「えっと、植物をつぶして細かくしてメッシュフィルターに詰めるっと」


街の中には茶葉を販売しているところもあり、フィルターについて話をしたところ普通に販売してくれた。ありがたいことだ。

試しで一つ作れたため、実際にお湯に溶かして飲んでみた。


 「っ! うま!」


ハーブティは前の世界では飲んだことはないため、薬のような苦さをイメージしていたが甘みがあってとてもうまい。柑橘系の植物のおかげで香りもとてもいい。


 「これはいいな」


そういえばと思い、ステータス画面を再び開きアイテム欄というアイコンをタップした。するともう一つ画面と机に箱のようなものが出てきた。画面にはなにも書いていない。試しに薬草を一種類ずつ箱に入れてみた。


コルテクス 1

フロス   1

メリッサ  1

シンポポゴン1 

カモミラ  1 

ステビア  1


すると入れた順番で薬草が表示され、最初の画面を見ると生成可能ポーションの欄に「精神安定剤」 1と表示された。

生成可能ポーションの「精神安定剤」をタップすると「生成する」のアイコンが出たため押してみた。


アイテムボックス欄の薬草が消え、回復ポーション「精神安定剤」と表示された。アイテムボックスの中に手を入れると瓶のような材質のものがあったため取り出してみるとまさにイメージ通りのポーションが出来ていた。


 「やばいなこれ。便利すぎるし、ゲームみたいだ」


それから残っている薬草をすべて入れ、ポーションをいくつか作った。

ポーション作りに熱中していると気づけば昼を過ぎていたため、街に昼食を食べに出かけた。


貰ったガイドを眺めながら、良さそうな店を探しているとユリアさんの姿を見つけた。店の前の看板を変えている様子だった。


 「ユリアさん、こんにちは」


 「あ、リョウさんこんにちは。お昼ですか?」


 「はい、でもこの街に来たばかりでどこから行こうか迷ってまして」


 「それなら! ぜひこちらで食べていってください」


機能をオフにしていたおかげなのか心の声は聴こえず、普通に話すことができた。やっぱり普段はこの方がいいな。

ユリアさんはどうやら飲食店で働いているようで、せっかくなのでここの店に決めた。パンを使った店みたいだ。


 「準備は順調ですか?」


 「はい、着々と進めています」


 「それは良かった。どうか娘をお願いしますね」


 「あ、はい。こちらこそです」


なんか結婚前の挨拶みたいな雰囲気が出てしまったがとりあえず食べよう。

メニューを見ながら何にするか決めあぐねているとユリアさんからおすすめを教えてもらった。


 「一応、ここの看板メニューなので一度食べてもらいたいです」


 「わかりました。お願いします」


注文してから十分ほどで料理が運ばれてきた。

これは。ハンバーガーだ! 日本で言うモ○バーガーのようなバンズにたくさんの野菜が挟まれ、中には分厚い肉もある。

食べてみると、肉にしっかり味が染みていて野菜とのバランスがとてもいい。


 「これはおいしいですね!」


 「ありがとうございます。喜んでもらえてよかった」


素直な笑顔に少しドキッとしてしまったが、つい美味しくて早々に食べ終えてしまった。満腹になったところで本格的に病院の準備を進めるために店を出た。


 「また来てくださいね!」


 「はい、ありがとうございます。それでは」


手を振って見送られ、俺は必要なものを買うために店を回った。


――


あれから二週間ほどが経過して、そろそろ始められるぐらいまでようやく準備が終わった。クレアも仕事に復帰できていなかったため、献身的に準備を手伝ってくれた。そのおかげか少し仲良くなった。


 「よし! これでとりあえずは準備完了か」


 「じゃあ、もう始められるんですか?」


 「そうだな。でも始めても人が来るかわからないしな」


 「きっと来ますよ! 私がそうだったように助けを求めている人はいます」


クレアは会った時とは大きく変わってとても明るくなった。それに準備の手伝いをしていた時も頭が良いため細かな部分までフォローしてくれた。


 「そうだといいな」


それから準備が整ったことでギルドに向かい、アンネさんに報告した。正式な許可証を発行してもらい、ついでにギルド内のお知らせボードに病院の紹介文を掲載してもらった。


 「これでようやく始められますね。クレアちゃんをお願いしますね! 私もたまには様子を見に行きますので」

 

 「はい、いろいろありがとうございました」


アンネさんには準備の間、資材調達の情報や運営のためにいろいろ手助けをしてもらった。会ったばかりではあったが本当にありがたいことだ。


その後、ユリアさん、アンネさん、クレアの四人で簡単な打ち上げを行った。

アンネさんはお酒を飲むとずっとクレアに謝っていた。何もできなかった自分が許せなかったのだろう。だから俺が来たときに何とかしてほしいとお願いしてきたそうだ。


 「もういいですよ。あの人たちにも言いたいことはっきり言えましたし。アンネさんが心配してくれていたのは知ってます」


 「そうですよ~、リョウさんには感謝しないといけませんね~」


ユリアさんは途中からやや怪しい雰囲気があったがやはりあまりお酒は得意ではないんだろう。クレアが元気になったことで不安が解消されたのかもしれない。それはいい事なんだが、ずっと見られている気がする。


 「そういえば先生は結婚とかされてないんですか~?」


 「え、あーはい。してませんね」


 「なら、クレアはどうですか? 自慢の娘ですよ~」


完全に酔ってしまったのかそんなことを言い出す始末だ。


 「ちょっとママ! 何言ってんの!」


否定しているが満更でもない様子だった。心の声を聴こうか迷ったがやめておいた。


 「クレアが嫌なら、あ! 私はどうですか~?」


普段はお淑やかなイメージだったが、イメージは所詮、イメージのようだ。

まぁ、今日は何も見なかったことにしよう。


実際、心の奥には何を抱えているのかそれは本来誰にもわからないことだ。一つの言葉で救われることもあれば、たった一言で地獄の底まで落ちていく事だってある。


打ち上げもそこそこに明日から病院を始めるため今日は解散した。

何はともあれようやく開業できることを嬉しく思い、深く眠りにつくのだった。


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