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商業都市 メルカトゥラ


丘の上から道なりに山を下り、街に通じる道まで降りてきた。異世界であれば森の中で魔物でも出てくるかもとややビビッていたが、幸い特に襲われることもなかった。


森を出て街の方角を見ると歩いて数分かと思われる距離に大きな門があった。


 「あれが入口か? 大きなものだな」 


確かパリだったか…の凱旋門みたいだな、写真でしか見たことないけど。

そこから街まで歩き、門の前に着くと門番のような人が声をかけてきた。


 「君、名前は? どこから来た? 何を目的に?」


矢継ぎ早に聞かれ、俺はやや混乱してしまった。だが山を下りるときに街に入る際の女神さまのありがたいガイドを読んでいたため何とか返答できた。


 「えっと、リョウと言います。西のタリスの街から来ました。こちらで商業を始めたいと思いまして」


 「ほう。どんなことを?」


 「病院みたいなものですかね」


なるほど、といい初めてならと街のガイドブックのようなものを渡された。

商業を始めるならギルドへの登録だけはちゃんとしたほうがいいという警告も受けた。


どうやらここは商業の街であるため許可を取らずに小売りをしたり、商売をすると捕まるらしい。噂では薬物の取引や人身売買も秘密裏に行われているそうだ。これも前の世界に似ているな。


アドバイスのようなものを聞き、無事に街の中に入れた。

早速、ガイドブックを開いてみると、日本語ではないが読めるようになっている。女神パワーのおかげか。


 「いろいろ回りたいが、ちょっと疲れたな。宿は…」


ガイドブックの案内図には大まかに買い物ができる有名な店や、商業ギルドの場所、魔法学校というものの場所に簡単な説明が添えられていた。


 「魔法専用の学校なのか。興味深いな」


宿を探していたはずが、目移りしてしまい時間がかかってしまった。海外旅行とかはこんな感じなのかもしれない。そして宿の場所を見つけ、歩みを進めた。


――――


街に入り、とりあえずガイドに従い道を進んでいく。

しばらく歩いていると、入口から二十分ほどの場所にガイドに書いてある宿を見つけた。慣れないことが重なっているため思っている以上に疲れた。早く休みたい。


見つけた宿に入り、受付をする。


 「いらっしゃいませ。おひとりですか?」(あら、かっこいい人ね)


 「え! あ、はい。空いてますか?」


今、声が被ったか? 被ったというか変な感じだったな。


 「もちろんです。お部屋の希望はあったりしますか?」(何かサービスしてあげようかしら)


まただ。頭に直接話しかけられているような。このおばちゃんからか?

とりあえず街が見やすい部屋にしてほしいとお願いをしたら九階の部屋を案内してくれた。カギを受け取り部屋に向かった。


階段の方に向かうとその途中にエレベーターがあった。やや日本とは形が違ったが使い方とかはほとんど変わらなかった。

こっちの世界にも普通にあるんだな。


エレベーターで九階に上がり部屋に入った。部屋は日本のビジネスホテルのような清潔感のある内装をしていた。いろいろ気になるところは多いが今日の所は一旦寝ることにした。


次の日、目を覚ますと時間は昼頃、十二時間も寝てしまった。

やや怠くなった体を起こし、顔を洗おうと洗面所に向かった。そして洗面所の鏡を見て俺はひどく驚いた。


 「誰だこいつ、俺か?」


この世界に来て初めて自分の顔を見たが、若くなっているのは女神の発言や身体の感覚から何となく気づいていたが、顔が別人だ。

顔をぺたぺた触って確認してみるが認めるしかない。はっきり言ってイケメンだ。


 「まじかよ、変わりすぎじゃないか?」


やや信じがたい現実を受けいれつつ顔を洗い、ベッドに戻る。

さて、見た目の事は一旦置いておいて、商業ギルドに向かう前にいろいろ確認しておこう。

俺は再びステータス画面を表示させ、まずはこの街についての情報を調べてみた。例によって女神のガイドを開く。


この街はメルカトゥラと呼ばれる商業が盛んな街。露店なども多く、他の街や国との交易もあり珍しい商品なんかも売られている。

病院という大々的な建物はそんなに多くはなく、理由としては単純に魔法が使える世界であるため傷の回復などは回復魔法で治しているそうだ。


文明としては前の世界の科学の役割がこちらでは魔法に変わっている。文明レベルとしては魔法がある分こちらの方がやや上だろうか。いきなり異世界に来てもわからない事ばかりだ。まずは商業ギルドとやらに向かうか。


しばらく外出することを伝えると、昨日の受付のおばちゃんはにっこりとした笑顔で対応してくれた。宿をでるまでジッと見られていたのは気のせいだろうか?


宿を出てから街を散策し観光しながらギルドに向かった。珍しい物ばかりで見ているだけでも興味が湧いてくる。

 

 「へぇ~、見たことない物が多いな。しかし…」


行き交う人たちはガヤガヤとしているがやや表情が暗いように見える。あれは何かを抱えているが、無理に振舞っている時の表情だろうか。やや引き攣っている。


――――


ギルドに到着し、中に入るとまさに商業をしていますという格好をした人たちがたくさんいた。二階建ての建物で一階では酒を飲んでいる冒険者のような人たちも見受けられる。俺はとりあえず受付のようなところに向かった。


 「すみません、えっと商業ギルドへの登録に来たんですけど」


 「はい、登録ですね」(かっこいい人が来た)


っ! まただ。声に被るような直接聴こえるような声がする。もしかしてこれが心眼のスキルってことか?


 「ちなみに何をされるか決めてますか?」


 「はい、病院のようなものを…」


 「病院ですか…なるほど」(珍しいこと事を言う人だな)


うぅ…。この感じ慣れないな。それに毎回必ず聞こえるわけではないのか?

一応ちゃんと聞き取れるが間違って心の声に反応しそうだ。


 「わかりました。では商業ギルドの身分証を発行しますのでこちらに記入をお願いします」


受付の女性から紙を渡され。記入していく。内容はよくある項目で基本情報みたいなものだった。


 「これでいいですか?」


 「はい、ありがとうございます。では少々お待ちください」(しのん りょう? 珍しい名前だな)


記入した紙を受け取ると、後ろの方に下がっていった。数分待つとカードのようなものを渡された。


 「こちらが身分証の代わりになります。他の国や街に行ってもこれを提示すれば問題ありません」


 「ありがとうございます」


それからギルドの案内を聞き、これでとりあえず始めること自体はできるみたいだ。説明を聞いている時も心眼のスキルで心の声が聞こえてきて、一部の話は聞き流していた。うまく制御できなければ逆にやり辛くなるな。


そのまま拠点を決めるため、案内された不動産の役割を持つ受付に移動した。


 「すみません、こちらで建物を借りれると聞いたんですけど」


 「はい、どのような建物が希望ですか?」


 「店…を出したいのでそんな感じのがあれば」


詳しい話を聞きたいと言われ、病院のような物、傷の治療ではなく心のケア。患者の話を聞いて出せる薬があれば提供したいことを話した。すると受付の人はまるで考えたことがないという様子で驚いていた。


 「そんな事ができるのですか?」(それが本当ならいい商売になるかも)


 「え、ええ。傷は回復魔法で治せますが、心にも病気があるのでその治療を、と思いまして」


やや違う期待をかけられている気がするがとりあえず話せることは話した。すると話を聞いた後で興味深そうにしていた表情がやや暗くなった。


 「そうなんですか。それなら…えっと」(この人になら話してみてもいいかな)


 「何か不安ごとでもありますか?」


つい心の声に反応してしまい、そう尋ねていた。受付の人は少し驚いた様子だったが意を決して話してくれた。


 「実は以前にこのギルドで働いていた子がいたんですけど、その…いい子なんですけど真面目過ぎるのか他の方とよくトラブルを起こしていて」


話を聞くと、どうやらその子は完璧主義と言える性格なのか、あれもこれもきっちりしたがるそうで適当に仕事をする人によく注意をしていたみたいだ。


次第に周りから浮き始め、裏では軽いいじめのような事も起きていたみたいだ。

しばらくは毅然としていたがそのうち耐えきれなくなったのか休みがちになり、家に篭るようになったと。


 「それから声をかけても反応してくれなかったり、話も頷いてくれる程度で…その子もその心の病気なんでしょうか」(そうではないといってください。でもこんなことでわかるわけがない、いや、でも)


受付の女性は心配だという様子で話してくれた。何とか話を聞き心の声も聞き取れた。二つの感情が鬩ぎあう気持ちはわかる。信じたいけどどうなんだという感じだ。


それよりなるほど。異世界でもあるんだなそういうの。表に出たら信用も何もあったもではない。話を聞く限りは一種のPTSDの可能性があるな。


 「そうですね。一度その子に会って話を聞かなければわかりませんが、その可能性は高いと思います」


 「そうですか。治るんでしょうか?」


 「時間はかかるかもしれませんが治すことは可能です」


 「そうなんですか!」(よかった!今はこの人を信じてみよう)


受付の人がその子の事をとても心配しているのがよくわかった。後で聞いた話では周りから浮いていたことは知っていたが何もできずにもやもやしていたそうだ。


 「その子に会うことはできますか?」


 「はい。案内できますがすぐに行きますか?」(できるなら早くクレアに会ってほしい)


クレアという名前なのか。やることはあるがこの女性もやや興奮気味であるためとりあえず先にそのクレアという子に会っておこう。


 「それではお願いします」


それから受付の女性は他の従業員に席を外すことを告げ、俺たちはクレアという子の家に向かった。



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