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不良少年


最初の学校訪問から、二週間が経過した。

今日は再び、学校の診察日のため昼前に準備を整え学校に向かっていた。今回はクレアも同行し、病院にはコロンとラフトルの二人が残ることになっている。


 「それじゃ、そろそろ行くか」


 「はい!」


 「いってらっしゃ~い」


二人に見送られながら、学校へと足を運んだ。その途中久しぶりにギルドに立ち寄りアンネさんに報告を含め話をすることにした。


 「おや、久しぶりですね、先生。クレアさんも。元気でしたか?」


 「アンネさんお久しぶりです。病院の方もおかげさまで順調です」

 

 「はい!楽しくやらせてもらっています」


 「それは良かった」


アンネさんはクレアがだいぶ元気になっていることを大変喜んでいる様子で、俺に対しても改めてお礼を述べていた。

近況報告を行い、話を聞いてみると最近俺の噂を聞いた人たちの中に、同じように病院を建てようとしている人が増えてきたらしく、その理由は「儲かりそう」だとか「若い女と関係が持てそう」など不純な理由が多いみたいだ。


商業であるため儲かるという点においては何とも言えないが、心の弱い部分を利用して関係を持とうとする人に対してはアンネさんも納得できず、認められないそうだ。


 「病院の設立は先生みたいな例があるのでいいかなとは思いますが、そんな理由で始められると先生にも少なからず被害があると思いますし認可できませんね」


 「それは最低です。先生は知識があるからできているのに真似事でできるわけもないですよ」


クレアの言うことも一理あるが、精神疾患のような深い病気でなければ普段の生活でも普通に友達や親しい人に相談することはよくある。


比較的というか、生きていれば自分の悩みがそこまで重い物ではないと無意識に考え雑談の一種として気軽に話していたりする。

その何気ない行為がストレスの捌け口になっていたりする。

そういう意味では話を聞いてくれる人が多いに越したことはないだろう。


 「今日は休みですか?」


 「いえ、学校に向かう途中です」


 「あー、なるほど! クレアも付き添いですか?」


 「はい!」


アンネさんは大体の話は聞いていたみたいで、それだけを言うと理解してくれた。昔の元気を取り戻した様子のクレアを見てアンネさんもニコっとほほ笑んでいた。


 「それでは長話もなんですね。また時間のある時にギルドに寄ってください。またみんなで飲みあいましょう」


 「そうですね。ではまた来ます」


そう言って、俺とクレアは学校に向かうためギルドを後にした。


―――


 「お待ちしていました。今日もお願いしますね」


学校に着き、理事長室に向かうとリディアさんが迎えてくれた。

しかし、どうも落ち着かない様子だったためどうしたのか聞いてみた。


 「何かあったんですか?」


 「実は、先ほど先生の診察室の前を通ったんですけどすでに数人の生徒が待っているようでして二回目とはいえ、何が起きているのかと思いまして…」


 「なるほど」


時間を確認すると、昼を少し過ぎた所。

診察の時間にはまだ一時間ほど余裕がある。前回はイリスさん一人で、彼女も誰かに話すようなタイプではなかったと記憶している。


 「もし、今からでも可能であればすぐに向かってほしいんですけど…もちろん、今来たばかりですのでゆっくりしてもらっても構いません」


申し訳なさそうな表情を浮かべるリディアさんを見ては、ゆっくりしていてもなと思い、状況の確認も含めて例の教室に向かった。


理事長室は三階にあり、用意されている教室は一階のためクレアと話しながら、階段を下りていった。


 「前回は一人しかいなかったんですよね?」


 「ああ、数時間待っていたが、来たのは一人だったな」


 「なのに、二回目で急に人が増えるってのも変ですね」


不思議に感じつつも、実際に見てみればわかるかと思い教室の前に着くと―。


 「あ、きたよ!」「あれが噂の…」


 「ほんとだかっこいい…」「隣の子も可愛いじゃん」


そこには十人ほどの生徒がいた。

少ない…とは言えないだろうな、これが数年間やっていてこの人数であれば少ないと言えるだろう。だが、まだ二回目だ。


 「これは…びっくりですね…」


 「ふむ」


前の世界の病院では毎日何十人と診察していたため、許容範囲ではある。

とにかく、診察を始めるため教室に入りクレアには出入りの管理をお願いした。


とりあえず診察希望の生徒たちにアドバイスも含めて順番に対応していった。

そして、一人の生徒の診察を終え、教室から出る所を見送った瞬間―。


 「ちょっと!じゅんばっ、きゃ!」


 「どけよ!」


廊下の方で何やら言い合いのような怒声が聞こえ、クレアの声と倒れるようなドサッとした音が聞こえた。

何事だと思い廊下に向おうとした所、その人物が教室に入って来た。


 「お前か、最近噂になってるいけ好かねぇ野郎ってのは」(うっ、マジか聞いていたよりもイケメンじゃねぇか)


俺はその人物の対応をする前に横を素通りして、クレアに駆け寄った。


 「クレア、大丈夫か?」

 

 「はい…、すみません。迷惑をかけました」


立ち上がろうとしたところ、やや足を擦りむいている様子だった。


 「はぁ? 無視してんじゃねぇよ!」(くっそ、どうすればいい、喧嘩を売った手前、今引いたら恥をかくだけだ)


 「あ? お前、外部の人にけがさせといてその態度か?」


 「てめぇが無視するからだろうが!」


 「わかった…その喧嘩買ってやるからちょっと待て」


俺は、廊下にいた生徒に声を掛け、回復魔法が使える人物を探し、クレアの傷を治してもらうようにお願いをした。こんな時に俺も回復魔法くらい覚えておけばよかったと後悔した。


クレアの処置を終わらせ、生徒には終わるまで中に入らないように注意し、クレアにも誰も入れないようにお願いした。


――


 「で、今回はどうしましたか?」


 「は?」(急に何だ?舐めてんのか?いや、これはこいつに乗った方がいいか?)


中に入り、改めて向き直った。

先ほどまでの態度と正反対な対応に、少年は明らかに動揺していた。


 「基本的にここでは診察をしています。心の中でもやもやとしている事を吐き出すための場所です」


 「最近、噂で外部の野郎が来てるって聞いたからどんな面か拝みに来ただけだ」(おいおい、頼むよさっきみたいな態度をしてくれ、じゃねぇと俺は…)


心の声を聴きながら、この少年の性格を考えていた。

見た所、十六、十七歳くらいだろう。この年頃は第二反抗期の最中だ。

中途半端に自立心が芽生え始めているため、親や教師の対応は慎重に行わなければいけない。


 「そうですか。それで見た所どうでしたか?」


 「どうって…まぁ、悪くないが俺ほどではないな」(なんなんだこいつは、調子が狂うな)


 「ふむ。そうですか」


他にも生徒が待っているため、このままやり取りを続けても不毛だと思い、切り込んだ質問をすることにした。


 「自己紹介がまだでしたね、私はこちらで臨時の医師をしています。リョウと申します。名前だけでも聞かせ貰っても?」


 「ちっ、なんだよ。俺はルーク・ローレスだ」(リョウ…ね)


 「ルークくんですか。正直に言いましょう、ここは男同士、素直に話しましょう」


 「素直にってなんだよ、俺はそんなのは求めてねぇ、あと君はつけんな、呼び捨てでいい」(いや、話せるなら話したいけど、もしこのことがばれたら俺は今後ここではやっていけねぇし)


やはり、彼は年頃の少年そのものだろう。素直にならない事、見栄を張ることをかっこいいと信じて疑わない、表向きは確かに怖く感じてしまうかもしれないが、その内心はとても繊細だ。


社会人になれば、自分が大人になったと自覚が芽生えるため自然にそういうものは抜けていくが、高校生くらいになると周りにかっこいいとか、すごいと思ってもらいたいためにそういう行動を取る人が多いだろう。


 「では、ルーク。つい先ほど会ったばかりですが君は勇気がありますね。素直にすごいと思います」


 「急になんだよ、舐めてんのか!」(勇気…そう俺は勇気があるんだよ、全員ビビッて情けねぇやつばかりだ)


 「いえ、君は恐らく素直になりたいとは思っているはずです。ですが、男のプライドというものを大事にしているため周りに舐められないように今のような振る舞いをしているんじゃないですか?」


 「……」(こいつは…俺の心がわかるのか?さっきから言われたかった言葉ばかり言いやがって)


男という生き物はどうしてもかっこよさを求めてしまう、それに周りにもそう思ってほしいため本心とは違う行動を取ってしまう。

それは男の性として仕方がない事だ。


仲のいい人には本心で、知らない人には見栄でというのは誰でも同じかもしれない。


 「ここだけです」


 「ん?」(なんだ?)


 「君が素直に話してもいい所にしましょう。見栄を張らないといけない場所はあっても、ずっと見栄を張り続けるのも疲れます。なのでここだけはルークの本心を出せる場所にしましょう」


 「私も話は聞きますし、時にはルークに合わせて派手な事をしてもいいです。常識の範囲で、ですけど…」


まぁ、こんな事を言っているが実の所、仲のいい男の知り合いが一人くらい欲しいという俺の願望でもある。彼は若いがこういう人物との付き合いは思ったよりも面白かったりする。これは俺のエゴだろう。


 「ちっ!シラけた…。今日は帰るわ…」(くっそ、めっちゃいいやつじゃねぇか)


 「わかりました、もしお暇があれば病院の方に来てもいいですよ。クレアや他にもいますから、歓迎しますよ」


ルークは立ち上がり、何も言わずにドアの前に歩いて行った。ドアを開ける前に振り返り…


 「ここだけ!だからな。お前みたいなやつは今までいなかった、ありがとよ」


 「ええ、いつでもお待ちしてます」


そういうと、今度こそルークはドアを開けどこかに去っていった。


 「先生!だいじょ…ぶ…そうですね」


 「ああ、問題ないよ」


 「今の生徒、謝ってきました」


 「そうか、よかったな」


クレアは一体何があったのか聞いてきたが、人は見かけによらないとだけ伝えて、彼の事を悪く思わないようにお願いをした。


後からリディアさんに聞いたが、ルークという生徒は学校内でも悪い意味で有名らしく、問題を起こすことも多いそうだった。

きっと、興味本位か好奇心か、繰り返していくうちに戻れなくなったのだろう。


彼にとって、この教室が良い所になればいいなと祈るばかりだ。


 「あ、あの先生…」


 「なんだ?」


 「さっきはその…怒ってくれてありがとう…ございました。嬉しかったし、その…かっこ、良かったです」


もじもじと照れながらそういうクレアは顔が真っ赤になっていた。


 「従業員を守るのも、院長の仕事だしな。ケガは大丈夫だったか?」


 「はい、回復魔法はすごいですね。あっという間でした」


 「それは良かった。さて、もう数時間頑張ろうか」


 「そうですね!」


まだまだ並んでいる生徒の悩みを聞き、その日はルークの事もあり学校内も賑やかだった。


いつも思うが、年頃の子供の教育は自分本位、自分の経験を押し付けるような事はしてはいけない。伝えていいのはやったことで起きた失敗談だけだ。

四十代や五十代に多いが、昔の成功体験やすごいと言われた経験を話す人がいる。


話すこと自体を否定はしないが、そればかり話しても聞く側はただの自慢話にしか聞こえないため、話すなら教訓として話す必要がある。


何事もバランスが必要だ。それは話すも聞くも同じではないだろうか。




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