休日の病院
イリスさんの診察を終え、次の生徒が来るのを待っていたが、結局今日来たのはイリスさんだけだった。
「まぁ、こんなもんか…」
簡単に片づけを行い、一度挨拶をするためにリディアさんの所に向かった。
「お疲れさまでした。どうでしたか?初日の様子は」
「初日であるためか来たのは一人だけでした」
「そうですか…まぁ、仕方ありませんね。また二週間後にお願いします」
「わかりました。それでは失礼します」
簡単に挨拶を終え、理事長室を後にした。
学校から出て、まだ時間もあるため少し寄り道をして帰ることにした。
「おう、兄ちゃん、元気か?いい薬草が入ったんだが見ていかないか?」
フラフラと店を見ながら歩いていると以前に精力剤の薬草を買った店の主人に声を掛けられた。最近、新しいポーションも作っていないため少し見ていく事にした。
「何か面白い物でもありますか?」
「おう、よく聞いてくれた。つい昨日入ったばかりなんだがこれだ」
店主が出してくれた薬草は紫色の禍々しさを放っている薬草だった。
見るからに毒でもありそうな見た目だ。
「これ、本当に薬草ですか?やばそうな色をしてますけど…」
「まぁ、確かに見た目はやばいけど…というか見た目通りの効果だぞ。これを使えば毒の回復ができる。煎じて飲めば解毒もできるしデトックス効果も期待できる」
「ふむ。解毒か…」
そういえば解毒ポーションは作ってなかったな。
見たことはないが毒を持っている魔物も存在しているという話も聞いたことがある。一応作っておいても問題はないか。
「それなら少しだけ買っていくよ」
「毎度!」
解毒の薬草と少なくなった薬草を買い足して病院へと足を進めた。
その途中にオシャレなスイーツ店を見つけたためクレアとラフトル、それにコロンの分も数種類買っておいた。
―――
病院に着き、ドアを開けるとクレアが迎えてくれた。
「あ!先生!おかえりなさい!どうでし…うわ!いいにおい!」
「帰ってくる途中にいい感じの店を見つけたからついでに買ってきた。食べてくれ」
「おー、おいしそうなケーキだ!」
「コロンは?」
クレアにケーキの入った箱を渡して周りを見渡してみるがコロンの姿が見えなかった。
「あ、お世話になってます…」
そんな俺の問いかけを聞いてからなのか、部屋からおずおずといった様子で出てきた。学校に居辛いからと病院に来てもらったがさすがに気まずいかもしれないな。
「コロンの分もあるから、食べていいぞ」
「え!いいんですか…?」
「もちろんだ」
自分の分もあることを知ってかコロンはやや表情が緩み、嬉しそうだった。
食器や紅茶の準備をして、いざ食べようとしたところで、玄関のドアが開くバタンという大きな音が聞こえた。
「え、何でしょうか?」
「今日は休みだから客ではないと思うが」
念のために俺が行くと告げ、玄関に向かうとそこにはやや息を切らしたラフトルがいた。
「ラフトル、どうした?そんなに慌てて」
「どうしたじゃないですよ!私抜きでスイーツタイムですか!」
どうやら休みであるため買い物をしていたラフトルは、俺がスイーツ店に入って何かを買っている姿を見つけ、自分抜きでケーキを食べると思ったらしく後ろからついてきたそうだ。
「…まぁ、とりあえず中に入れよ、ちゃんとラフトルの分もあるから」
それを聞いたラフトルはやや恥ずかしそうな表情をして部屋に向かった。
「あれ? お客さんですか?」
「あ、初めまして…コロンです」
「あー、どうも。私はラフトルです」
どういうこと?と俺の方を見てきたため簡単に事情を話すことにした。
ラフトルも元は冒険者の仲間からこの街に取り残されてしまった事があるため、事情を聞いてクレアと似たような反応をしていた。
「なるほど、それならここに居れば安全ですね!」
「えっと、迷惑だったりしないんですか?」
「先生もクレアさんも優しい色をしていますから問題ないですよ!それに私もしばらくここに居させてもらっているだけですから同じです」
そういえばそうだった。
とはいっても、ラフトルはその性格からあまり「居させてもらっている」という態度ではないけどな。
「優しい色…ですか?」
「はい、それにコロンさんも薄いですけど同じ色をしていますよ」
ラフトルの言葉にコロンは首をかしげていたが、俺もそういうスキルがあったなと思い出しスキルを発動してみた。
コロンを見てみると確かに水色の薄いオーラのようなものが見えた。
ラフトルはやや赤みがかった色をしていて、クレアは優しい青色とオレンジ色のオーラを纏っていた。
類は友を呼ぶ…というものか、二人とコロンは出会ったばかりとは言え打ち解けているように見えた。
「そして!落ち込んでいる時はどうすればいいかというと!ケーキを食べればいいんです!」
あまりに真面目な顔と脈絡のない答えに、クレアもコロンも、それに俺でさえ一瞬固まってしまいその後失笑してしまった。
「なんですかそれ!アハハ!」
「えー!なんで笑うんですか!真面目に答えたのに…」
「それはそうですよ。真面目な顔で何言ってるんですか…く、ふふ!」
やや怒った表情のラフトルとは反対に思わず噴き出してしまったクレアとコロン。学校で出会った時には表情が見えなかったコロンも、今は大きな笑顔を浮かべて笑っていた。
「あはは、まぁ、とりあえず食べようか」
「先生まで!」
ケーキを食べている時も、思い出し笑いなのかコロンはたまに「フフ」と笑っていてラフトルもいじられながらも楽しそうにしていた。
――――
ケーキを食べ終え、食器を片付けながらクレアから学校の話を聞かれた。
「そういえばどうでしたか?学校の方は」
「今日は一人だけだったな。初日だからそこは仕方ないけど」
「そうですか。女の子でしたか?」
「ああ」
そう答えるとクレアは一瞬だけピタッと動きを止め、何事もなかったのように動き出した。
「そうですか…まぁ、学生ですしね」
「また嫉妬ですか?クレアさん~」
「そんなんじゃないし!」
時間をおいて食器を持ってきたラフトルは話を聞いていたのか、クレアをからかうような事を言った。
それからイリスさんの相談内容は伏せつつも、感情が理解できていないという俺の感想を話すとコロンが「それはそうですよ」と説明をしてくれた。
「あの魔法学校は基本的に何でも魔法で解決しようとしています。先生たちも問題が起きても、基本的な魔法を教えているという理念に沿っていれば生徒の気持ちはそこまで深く考えていません」
「理事長先生くらいですかね、どうにかしようと考えているのは。今回リョウ先生に依頼があったのは理事長先生からではないですか?」
「ああ、その通りだ」
どうも学校の教師たちは魔法についてある程度の熟練度があるため、生徒が困っていても、「実力不足だ」「もう少し努力しろ」といった具体的なアドバイスはしていないという。
結果的に、生徒もどう努力をすればいいのか分からなかったり、個人で力量が上がっている周りの生徒を見てさらに落ち込んでしまったりと、裏ではあまりいい学校ではないそうだ。
たまに子供の力量が上がっていない、と親から苦情や文句が入るが教師たちは個人差があるからと重くは受け止めていないそうだ。
「表向きは立派な学校と謳っていますが、裏では優劣の争いが起こっています。私もその争いに巻き込まれた感じですかね…」
なるほど。どこの学校もやはり本質は同じなのか。
前の世界でもどんなに優秀だと言われている学校も、いざ蓋を開けてみると想像とはかけ離れている、なんてこともよくあるだろう。
「ある意味では先生は理事長先生にとって救世主みたいな存在なのかもしれませんね。今まで先生みたいな仕事をしている人なんていませんでしたから」
「そうなのか…」
学校の裏事情を聞いてしまって、やや辟易してしまうが女神にも言われた通りにこの世界の人たちの悩みを解決していく他ないだろう。
それには子供だけではなく大人も教師も全て含まれるだろう。
とはいっても別に嫌になったりするわけではなく、そういう事情が聞けただけでも今後のやり方の参考にできるかもしれない。
俺は俺のできることをやろうと改めて強く決意を固めるのだった。




