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いじめ問題


魔法学校に赴いてから約一ヵ月、リディアさんから病院に連絡がきてようやく学校側での準備が終わったようだった。話では最初は二週間に一回くらいのペースで様子を見ることにしたそうだ。


 「それで、すみませんが一度全校集会で挨拶をお願いしたいと思います。いきなり来るよりは顔や雰囲気など見てもらった方がいいという判断です」


確かに、いきなり来て希望者は話をしてくださいと言われるよりは俺が直接、話をした方が親しみやすさを感じてくれるかもしれない。


 「なるほど。わかりました」


 「それでは次の集会の時に学校にお願いします」


次の全校集会の日程を聞き、電話を終えた。

次の集会は今日から四日後であるため、時間はあるだろう。クレアやラフトルにも電話の内容を伝え、クレアだけがとりあえずついてくることになった。


リディアさんは初日であるため希望の生徒は少ないかもしれないが、念のため数時間だけでも診察をしてくれないか、と電話でお願いをしていたためせっかくだと思いその日は病院を休みにして学校の様子を見ることにした。


 「また、学校に行けるのは楽しみですね!先生!」


 「そうだな。とはいっても次は仕事で行くから前みたいにゆっくりは見て回れないだろうな」


 「あー、確かにそうですね…」


クレアは少し残念そうな表情を浮かべていたが、それでも学校に行けることが嬉しいのかわくわくしている様子だった。


――――


それから四日後、念のためにいくつか準備を整え学校に向かっていた。

一度、リディアさんに挨拶をするために理事長室に向かった。


 「おはようございます。先生。これより三十分後に集会がありますのでそれまではゆっくりしていてください」


 「ありがとうございます」


リディアさんは俺たちを迎えるとすぐに机に向かい、資料の整理を始めていた。


 「リディア先生。何してるんですか?」


 「お、おいクレア…」


 「あー、いいんですよ。これでも理事をしていますから、やることは多いのです」


俺と話を終えたクレアがリディアさんの仕事を興味深そうに眺めていた。

少しヒヤッとしたがリディアさんは気にした様子はなく、苦笑しながらクレアの質問に答えていた。


それから二十分ほどが経過して、集会のために体育館のような場所に移動した。

前に話を聞いた通り、ぞろぞろと生徒たちが集まってくるが本当に人数が多い。あっという間に室内が生徒で埋まっていった。


しばらくして集会が始まり、生徒たちへの報告、連絡が一通り終えいよいよ俺の紹介に入った。


 「では、最後に以前から話をしていました、これからカウンセリングをしてくれる先生の紹介を行います。どうぞこちらへ」


司会の先生に促され、壇上の中央に立つ。これだけの生徒の前で話をするのは前の世界では精神疾患の講義をする時以来か。いい感じの緊張感でしっかり話ができそうだ。


 「初めまして。リョウと申します。これから学校で決められた日にこちらに赴き、カウンセリングをします。今、何か迷っていることや悩んでいること、誰かに打ち明けたいけどなぜか言えないこと、何でもいいので困っている方は私の所に相談しに来てください。よろしくお願いします」


挨拶を終えると、大きな拍手に包まれ不思議な気持ちになった。

そして司会の先生から、日程などの連絡をしてもらい集会を終えた。


 「さすが先生でした!余裕がありましたね」


 「私もそう思いました。慣れていらっしゃるのですか?」


集会を終え、理事長室に戻るとクレアもリディアさんも先ほどの挨拶を褒めてくれた。


 「慣れているというよりは、一種の儀式みたいなものなのでそんな難しいものではないですよ」


 「なるほど、儀式ですか…。そんな考え方が…」


不思議に思い、聞いてみると入ったばかりの先生であれだけしっかりした挨拶をした人はほとんどいないそうだ。緊張しすぎて倒れてしまう先生、魔法が熟練していてどこか生徒を見下している先生などが多いみたいだ。


日本で育った俺はそういった礼儀やマナーを大事にしているため、この世界でもしっかりしているように映っているみたいだ。


――――


魔法学校では主に午前中だけが、クラスごとの授業になるが午後からはクラブ活動のように自由に学ぶ事ができる。そのため俺も午後までは時間を持て余すことになりリディアさんから「せっかくなのでこの間、回れなかったところなど見てきて構いませんよ」と言われたためクレアと共に学校の散策を始めた。


 「ラッキーでしたね!また見学できるなんて」


 「そうだな、どこを回ろうか」


クレアはリディアさんの提案にすぐに賛成して、ずっとにこにこと笑っている。まぁ、楽しそうにしているのはいいことだ。


 「この前、行けなかったのは修練所?と校庭…それから」


クレアはこの学校のマップを確認しながら、どこを回ろうかと考えていた。

しばらく考えてから、とりあえず修練所に向かうことにしたようだ。


修練所は先ほど、集まった体育館からすぐ横にある大きな施設だ。

中に入ると、ちょうど魔法の授業が行われている様子で生徒たちが的に向かって魔法を放っていた。


 「おお、すげー」


 「先生、あんまり魔法は見たことないですか?」


 「ああ、職業柄見る機会は少ないな」


生徒によっては火の魔法や水の魔法、石のような物を飛ばしていたり様々だった。やっぱり実際に見てみると迫力が違う。


 「人によって使う魔法は違うんだな」


 「当然ですよ。生まれた時にはどんな魔法が使えるかは決まっているんだそうです」


なるほど。ファンタジーものではよくある展開だな。そして生まれた時からチート能力で…なんて。


しばらく練習を見てから、修練所を出て他の場所もいろいろ回っていった。

そして十分に見学が終わったところで理事長室に戻ろうとしたが、クレアはもう一つだけ行きたい所があると言った。


 「ここになんかいい感じの庭園があるみたいですよ」


 「庭園か」


マップを見せてもらうと、確かに端っこの方に小さく「庭園」と書かれている部分があった。あんまり見るようなスポットではないのか他の部分の説明に比べてとても控えめに記されていた。良く見なければ他の説明に目が映り、おそらく気付かないかもしれない。


 「ここに何かを感じます」


 「何かって何を?」


 「わかりませんが、なんか気になるんですよね。とりあえず行ってみましょう」


そんな謎直感を感じて、クレアは庭園に向かっていったため俺も後をついていく事にした。

しばらく歩き、庭園に着くと想像以上の立派な庭園があった。

なぜあんなに小さく記載しているのかが疑問になるくらいだ。

立派な庭園に感動しながら見て回ると、急にクレアが小声で「止まってください」と言った。


指で示してきたためその方向を見てみると、木陰ができていて休むにはちょうど良さそうな木の元に目を閉じて寝ている少女の姿を見つけた。


 「もしかして生徒か?」


 「制服を見る感じはそうですね。でも今は確か普通に授業をしているはずでは?」


 「確かにもう少し時間はあるな」


昼まではまだ一時間と少しはある。もしかしてさぼっているのだろうか。


 「どうしますか?先生」


 「どうするって、起こさないほうがいいんじゃないか?」


 「でも、サボりなら良くないですよ!」


 「落ち着けって、それに俺たちは今日来たばかりだぞ」


こんなところでクレアの真面目さが出てしまい、あれやこれやと言い合っていると案の定、少女を起こしてしまった。


 「ん…うぅ~ん…え! あ、えっと誰?…ですか?」


少女は目を覚まし言い合っている俺たちの姿を認めると、とても弱々しい声で尋ねてきた。


 「あー、すまない、起こしてしまって。俺は今日からこの学校で働くことになったリョウというものだ。で、こっちはその助手でクレアという」


 「あ、よろしくです」


 「今日から? あー、前に聞いた病院の先生ですか?」


 「ああ、それよりも今は授業中じゃないのか? ここにいても大丈夫なのか?」


少女は気にした様子はなく、起こした体をもう一度木に預けてため息をこぼした。


 「いいんですよ。誰も私の事は気にしていませんし、戻っても意味はありません。みんな、自分の事ばかりで教室にいてもつまらないですし」


ふむ。見たところは不良少女のようには見えないし、話し方もどちらかというと気の弱い子の特徴に似ている。強いて言えば何かを諦めている感じがする。


 「あなた、友達が欲しいの?」

 

 「え?…アハハ! 急に何言ってるんですか。友達なんて作っても何にもなりませんよ。ただ自分の利益のために利用するだけですから…」


 「そう。あなた名前は?」


 「ん? 私はコロンです」


 「コロンさん、何があったのか話してくれない?」


様子を見ていたが、今日のクレアはいつも以上に積極的な姿勢を見せている。確かにクレアは真面目で言いたいことははっきり言うタイプではあるが、最近ではここまでぐいぐい攻める姿は久しぶりに見た。


 「まぁ、ずっと一人でいるのにも飽きてきたところですからいいですよ」


そんな強がりなのか分からないがコロンはぽつぽつと話し始めた。 


 「簡単な話ですよ。自分よりも弱いものが現れれば誰でも自分の顕示欲を満たすために何でもやり始める、それが人の道を外れそうになってもやっている時は気付かないものです」


コロンは今、魔法学校に入ってから三年生となり気の弱い性格ながらも最初の二年は少ないながら友達もいたそうだ。それが三年生になってから同じクラスになった男子から大人しさに目をつけられたのか、軽いいじめが始まった。


最初こそ、小学生のようなくだらないものだったが次第にエスカレートしていき暴力や身体を触られたりとひどくなっていった。友達だった女の子達は自分たちへの被害に怯え、最初は声をかけてきたが次第に見て見ぬふりから加害者へと変わっていったそうだ。


 「それを見た時に、私の何かが切れてしまって何にもやる気が起きなくなりました。少しずつ要求が大きくなってきたのでもしかしたらそろそろ犯されるかもしれないと思って、今はここに逃げているような感じですね」


 「ここは、意外に見つからない所なんですよ。それに登校も下校も基本的に人がいないタイミングを知っていますので問題ありません。でも先生たちに見つかってしまいましたね。場所を変えないといけません」


よくある学校でのいじめ問題か。

クレアの場合は社会におけるいじめ、コロンは学校だ。

根本は何も変わらない、加害者は自分が上だと思っていたい自己顕示欲から、自分より下の者を標的にする。悔しさからそれを努力に変えられる人はいいが誰しも楽な方がいいに決まっている。だから今の自分が勝てる人間を探す。


前の世界でも同じだ、時代は長く続いていて医療や科学はどんどん成長しているが人間はほとんど変わらない。いじめ問題がずっと問題視されているのは人の考えや意識的なものがずっと成長していないからではないだろうか。


 「なら、コロン。一旦うちの病院に来ない?」


 「え、どうして…私の事を気にしていても何にもなりませんよ」


 「私もあなたと同じだからよ」


クレアは状況は違えど、周りから浮いてしまう事をよく理解しているのだろう。気持ちを理解したからこそ手を差し伸べることができる。


 「一緒って…でも、どうせ」


 「いいから、来なさいって言ってるのよ!」


クレアは強引にコロンの手を引いて俺に確認を取ってきた。


 「先生、しばらく病院に来てもいいですよね。リディアさんに言えば大丈夫だと思いますし」


 「え、あぁ、聞いてみなければ分からないがリディアさんが許可を出せばいいぞ」


それから理事長室に戻り、簡単に事情を説明するとリディアさんはあっさりと許可を出した。


 「では、親御さんにはクラブ活動をしている、ということにしておきましょう。それに先生の噂は広まっているので大丈夫でしょう」


そして、クレアはすぐに病院に戻りますと言ってコロンを引きずる形で帰っていった。俺は午後からの診察のためさすがに残るしかない。


一体、クレアは何を考えているのか、少し強引すぎてらしくないとは思うが彼女にも何か思う所があるのかもしれない

 


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