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カルテ4 ED


リディアさんから準備が整ったと連絡があるまで、俺たちも学校に行くための準備を始めていた。と言ってもやることはそこまで多くはなく、学校側で診察日を決めてもらうまで詳しいことは決められない。


一応、学校の日は病院を休みにする予定のためこっちの事は考えなくてもいいかもしれない。


 「学校の日は二人ともどうする?」


 「どうする…とは、行くかどうかということですか?」


 「ああ」


学校のカウンセリングは数人というよりは、一人の先生だけがいるイメージだろう。二人には週一の完全休みと、一人ずつ好きな時にもう一日休む日を与えている。学校の日は恐らく一ヵ月に一回か二回くらいだと考えているため、そのタイミングで休みにするのもいいかもしれない。


 「もちろん、行くつもりですよ。学校の中に入れる機会もそんなにないと思いますので」


 「私もできれば行きたいですね~」


 「ふむ。でも、正直な話病院とは違うから事務仕事もそんなにないと思う」


病院のように待合室で呼び出しや会計もないため、ついてきても暇になるかもしれない。


 「多分、病院ほどやることがないから退屈になるかもしれない。二人が望むなら休んで遊ぶなりなんなりしてもいいよ」


 「いいんですか? それなら遊びたいですね~」


 「私は…一緒に行きたいです…」


ラフトルは元気に喜んでいる様子だったが、クレアはやや声が小さくなりながら自分の意思を伝えてきた。ブラック企業のような望まない事をさせたくはないがこれはどうなんだろうか。


 「そうか…。まぁ、行くのが希望なら大丈夫だけど」


 「やった!」


クレアはパァっと表情が明るくなりにこにこしていた。クレアは真面目だし学校についてきてもきっと何かしら仕事を見つけるかもしれない。


 「ラフトルは来なくていいの?」


 「はい。少し行きたい所もあるので! それにクレアさんのためですよ」


 「っ!」


ラフトルはやや意地悪そうな顔でクレアを見やり、それ対してクレアもすぐに赤くなりいつもの取っ組み合いが始まった。


――――


患者の診察をしつつ、空いた時間で学校についての話をしていると玄関の鈴が次の患者の来客を知らせた。玄関の方からクレアの案内する声が聞こえ、お客さんが入って来た。


 「いらっしゃいませ。どうぞおかけください」


入って来たのは三十代ぐらいの渋いかっこよさのある男性だった。

いつものようにアンケート用紙を書いてもらい、心眼をオンにして診察を始めた。


 「えっと、こんな内容の事でも大丈夫ですか?」


用紙を受け取る際に、そんな確認をしながら渡してきた。見た目は強面だがとても低姿勢だ。

その発言を不思議に思い、アンケート用紙に目を通す。…なるほど。


 「ラフトル、ごめん、少し部屋を出ていてくれ」


 「? わかりました」(なんだろう?)


これは少し女の子がいては話辛いかもしれないな。

ラフトルが部屋を出たのを確認して一つ咳ばらいをし、彼に向き直した。


 「すみません、始めましょうか」


 「はい。ありがとうございます」(あんな若い子に勃たない話はしたくないし、先生、分かっていますね)


 「えっと、症状はいつ頃からですか?」


 「ちょうど一年ほど前ですね」(去年の今頃だったなぁ。思い出すだけでもきつい)


話を聞くと、彼は一年ほど前に長く付き合っていた彼女に行為が終わった後、ふと、こぼれてしまった彼女の発言で機能しなくなったそうだ。その後、彼女は慌てて謝ったがもう遅かったみたいだ。彼の悩みはEDだろう。


ED=勃起不全。

原因は主に二つ。一つは加齢や生活習慣により血流の流れが悪くなることでしっかり血が回らなくなるために起こる。

もう一つは心因性によるもの。それこそ彼のような行為後や行為中に心理的に強いダメージを受けたり、ストレスやうつ病など、他の精神疾患によって併発することもある。


 「なるほど。それからは一度も?」


 「はい。どんなに頑張っても、いざしようとすると勃たなくなります」(自分でやろうとしても半立ちなんだよな)


デリケートな悩みなため話を聞く諸君たちは「そんな事ありえんのかww」と芝を生やして笑いものにしてしまうかもしれないが、これは立派な病だ。


本人にとっては男のシンボルたるものが機能しないのは精神的に大きく落ち込むことになる。


 「それに、これが原因なのか、彼女とも喧嘩をすることが増えてきました。言い返そうとしても何かとその時の事を思い出してしまって、強く言い返すこともできません。どうしたらいいでしょうか…?」(俺はもうできなくなったのか)


 「そうですね…。今回は原因がはっきり分かっているので治療方法も明確です。人によってはある日を境に急に。なんて方もいらっしゃるので大丈夫ですよ」


 「他にもいるんですか!」(こんな事相談できる奴なんかいないけど、他にも同じ奴がいるのか!)


前の世界の話ではあるが、確かに悩んでいる人は多く存在した。

その中には話した通り、急に勃たなくなったなんて人もいたため原因が分かっているのは医師としても助かる話だ。


 「治療法としては、基本的にはその起きた原因の部分を取り除くことが大事になります」


 「しかし、長く付き合っていたこともあってこれ以上はどうすればいいのか…」(確かにいつも似たような感じだけど他にどんなプレイがあるんだっての)


彼が言われた言葉は単純に「いつも同じだよね」という長く付き合っていたことによるマンネリに近いセリフを言われたことが原因らしい。

どんなことでも毎回同じことをやっていれば飽きるのは必然だろう。そのため世のカップルは相手を敬いサプライズなどを行い、刺激を与えあっている。


マンネリな時には、外部から大きな刺激を受けた事でこれまでの生活が良くも悪くも変わってしまう。


例えば、マンネリ気味になっている時に外部から悪い刺激があれば、それは浮気や不倫に繋がってしまう。逆にその二人がマンネリに対してしっかり向き合って外部から良い刺激を受ければいつもとは違う行動をして解消できることもある。


 「そうですね。本来はそれ用の薬などで少しづつ改善したり、原因を追究して向き合っていく事があげられます」


EDの治療法は、加齢などの身体的な物であれば生活習慣の改善や筋力トレーニングなどで男性ホルモンを分泌させ、改善していく。

心因性の場合はED治療薬などで少しづつ改善していき、自信を取り戻せれば治すことも可能だ。


 「そこで、少し相談があるんですが、以前にそれ用の精力剤を作ったことがありまして…」


そういって俺は念のためにと思って棚に収納している、以前に作っていた精力剤のポーションを取り出した。いろいろ生成をしていたら男性用、女性用のどちらもできてしまった。


 「これは試薬品なので効果はまだわかりません。薬草から作ったものなので安全性だけは保障します。もし気になればお渡しします」


 「え! その…もらっていいんですか? お代とかは…。それで改善するのならぜひ試してみたいです」(自身はないけど頼れるのはもうこれしかないかもしれない)


 「はい。試薬品なので希望であればお渡しします。ただ良くても悪くても使った感想だけいつでもいいので教えてもらえたらと思います」


彼はその話を聞いてから、うずうずしているのか落ち着かなくなっていた。


 「わかりました。それは必ず伝えに来ます」(おねがいしますよ! 早速今夜使ってみよう)


 「効果は飲んでから十分ほどで出ると思いますので、そのつもりでお願いします」


彼に二本のポーションを渡し、軽い注意事項だけを伝えた。ポーションを受け取り大きく礼をすると彼は期待を胸に帰っていった。

彼が帰ってから、二人が部屋に戻ってきてラフトルを部屋から出した理由を聞かれた。


 「何の相談だったんですか?」(わざわざラフトルを追い出したのは気になるなぁ)


 「ん? あー、男の悩みだな…」


 「男のですか…」(男…先生にも関係あるのかな)


多感な二人にこの件を伝えるのは早いかもしれないと思い、何とか誤魔化して今日は病院を閉めることにした。


――――


次の日、朝目覚めてから準備を整えて下に降りると二人が既に病院に来ていた。俺が来たことにやや焦った様子でドタバタしていた。


 「二人とも今日は早いな。どうしたんだ?」


 「い、いえ! たまたま早く目覚めてしまって!」


 「そ、そうです! たまたま…です。アハハ…」


明らかに何かを隠すような様子をしていたため、ここぞとばかりに心眼をオンにした。


 (先生はもう少し寝てるって言ってたじゃん! クレアさん~)


 (やばい! ぎりぎりで隠せたけどばれてないよね! 昨日の相談内容をこっそり見に来てたのがばれたら恥ずかしすぎる! っていうかラフトル音出しすぎだって!)


なるほど。昨日の男の悩みというのを聞いて気になっていたのか。

確かに俺はいつもならもう十分か二十分くらい遅く降りてきている。俺が降りるタイミングくらいでいつもは二人が来ている。

それにしてもクレア。心眼を使って悪いがバレバレだ。


 「……そうか。まぁ、そんな日もあるか」


 「そうですよ! 私受付の掃除しますね!」


 「私もいきます~!」


バレていないと安心したのか、二人はいつもの様子を取り戻し仕事の準備に取り掛かった。

病院を開け、数人の患者の対応をしたところで一旦お客さんが切れたため一息ついていた。朝の様子から時間が空いている時に二人がチラチラ見てきたのがとても気になったが、こちらから何か言うのも変だろう。


昼食を食べ、午後の診察を始めたところでげっそりとした昨日の男性が病院に来た。


 「おや。かなりげっそりしていますが大丈夫ですか?」


 「はい…。先生。ポーションの感想を伝えに来ました。あれやばいっすよ」


やや、クマのできた目で瞬きを繰り返しながら眠そうにポーションの効果を教えてくれた。


 「ええ、見た限りでも十分伝わってきますがどうでしたか?」


 「はい…。寝る前に二人で一気に飲んでみたんですけどそれからついさっきまでもうずっとでした。おかげで体がバキバキです…。効果がありすぎて彼女は最近では見ないほど爆睡していました。疲れていますがなんかすごい達成感というか眠いのに冴えているというか…」


確かに、眠そうな顔に似合わずすごいすっきりした顔をしながらやや早口で感想を述べてくれた。これはちょっと効果がありすぎやしないだろうか。今度から量を考えて作ろう。


 「わかりました。効果があってよかったです。とりあえず今日は帰ってしっかり寝てください。また何かあればいつでも来ていただければと思います」


 「はい! ありがとうございます!」


彼はフラフラした足取りでお礼を言って、病院を後にした。彼が来た時に念のため二人には部屋を出てもらったが、朝の事もありドアが少し開いていてこっそり話を聞いているようだった。この年頃の少女の扱いは本当に難しい。


――――


それから今日の仕事を終え、二人を見送ってからカルテの整理をしていた。

ポーションもたまにではあるが、必要な患者さんもいるためアイテムボックスから補充のために取り出し、棚に入れようとした。


 「あれ、一本足りないな…。…いや、まさか」


もしかしたら話を聞いていた二人が持って帰ったとかはないだろうな。

いや、その可能性が高いか。


 「まじか…」


先ほど効果が高いと聞いたばかりで少し心配になったが、家の中なら問題はない…よな。やや不安を抱えながら寝るために二階に戻った。


ED治療はパートナーの協力は大きな役割を持つ。

女性視点ではその時にできなければ自分の魅力がないのかな、と思うかもしれないがそういった病があることも理解しておくと、対処できるかもしれない。


これはお願いであるが、どうか見捨てる選択はしないであげてほしい。

精神疾患全般で言えることだが、本人は心の底から悩んでいるため一緒に治そうとするだけでも心の支えになる。受け入れられなくてもそれだけでも頭の片隅に入れておいてほしいと思う。



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