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何回もループし続けて、やっと終わるお話

作者: 下菊みこと
掲載日:2023/06/06

「ああ、どうしてもこうなるのね」


もう何回目だろう。貴方に殺されるのは。


「…貴女が悪いんですよ。聖女様を傷つけるから」


「そう。そうね、そうかもしれない。十回目のループまではあの子を酷く虐げていたし」


「…?」


「でも、残りの九十回はむしろ関わらないようにしてきたのに。あの子が積極的に巻き込んでくるのよ」


私はため息をつく。彼はよくわからないらしく戸惑っている。


「まあでもね?次のループがあるならば…今度は、あの子が巻き込みたくても巻き込めないほど遠くに身を投げてみようと思うの。病弱で繊細な、田舎育ちの公爵令嬢。あら、逆に人気が出るんじゃないかしら」


「なんの話です…?」


「ふふ。ねぇ。何回貴方に殺されようと、私は貴方を恨んだりしないわ。可愛い可愛い弟だもの。血の繋がりは無くても、たしかに貴方を愛しているわ。だから」


私は惚ける彼からナイフを奪い取る。


「しまった!」


「大丈夫。貴方を殺人者にはしないわ。これはただの、私の自殺」


「え…?」


私は奪ったナイフで首を掻き切った。


最期に見た彼の表情は、やっぱり涙で濡れていた。












「ごほっごほっ」


「大丈夫?お姉様」


「大丈夫よ。移るといけないから近寄っちゃダメよ」


「お姉様の病は移るものじゃないって先生に聞いたもん」


「あら。もう…しょうがない子」


また、ループ。幼い頃に戻ってきた。私は、死ぬたびに過去に戻って同じような人生を繰り返している。色々試行錯誤を繰り返したけれど、結果は同じ。私は彼に…この子に殺されて終わる。ああ、でも前回は頑張ったと思うわ。私、自殺なんて初めて。あの未来では、この子は幸せになったかしら?


「お姉様、お薬飲んで!はい!」


「ありがとう、愛してるわ」


「僕も!」


私は、色々考えた結果病気になることにした。相手の不幸を代わりに引き受けることが出来る魔法のかかったマジックアイテムを魔女に譲ってもらい、お祖父様の病気をもらったのだ。ちなみにこれは私と魔女しか知らない二人だけの秘密。


魔女とは五十九回目くらいのループで出会った。その後、何度ループして会っても気が合う仲間になっていたので今回は思い切って頼ることにしたのだ。まあ、理由は伏せたが。


「お姉様、本当に田舎の別荘に行っちゃうの?」


「ええ。でも、貴方は勉強を頑張りなさい。きっと素敵な男性に成長するわ」


「そしたら、僕と結婚してくれる?」


「え?」


「僕は分家の子で、本当の両親はもういないんでしょう?お姉様との血の繋がりは無い…というか薄いんだよね?だったらお姉様と結婚してもいいでしょう?」


誰だ、まだ幼いこの子に現実を突きつけたのは。


「貴方、それ誰から聞いたの」


「聖女様!」


「…え?」


「将来聖女様になるって言ってた子が言ってたの!」


まずい。


もう、影は忍び寄っている。


「…お姉様大丈夫!?お父様、お母様、お姉様が具合悪そうなの!早く来てー!」


「…はやく、にげないと」


私はそのまま意識を飛ばしてしまった。














結局。私はあの意識を飛ばした日をきっかけに、予定より早く田舎の別荘に移ることになった。きちんと療養すれば絶対良くなるからと励まされて。


…まあ、あの聖女が落ち着くまでは治す気はさらさらないけどね。


今日も私は誰にも気づかれないようひっそりと、魔女からもらったマジックアイテムで祖父の病を引き受ける。


「…ふう」


病は日に日に悪化する。当たり前だ、毎日祖父の不幸を肩代わりしているのだから。


「このまま病で終わるのも悪くないわね」


私は趣味の読書をベッドの上で楽しんで、深窓の令嬢だのなんだのとうるさい使用人たちを逆にからかい戯れ合いつつ日々を過ごした。















「本来ならば、今日は彼に殺される日だけど」


いつもいつも、今日、彼に殺されていた。けれど私は田舎に引きこもったまま。ああ、やっとこれでループは終わるはず。


「…姉上」


と、思ったらこれですよ。


「…あら。来たの」


「はい」


「…その手に持っているナイフは何?どうしてもう血で汚れているの?」


「あの忌々しい聖女を、殺してきました」


「…は?」


私は彼を見つめる。彼の瞳は、動揺しているのか焦点が定まらない。


「…姉上が、悪い人だとあの女は言ったのです」


「え…?」


「姉上は僕を洗脳していると。それを解いてあげると言って、触ってきて。なんだか嫌な予感がして、すぐに力尽くで引き剥がして。でも、それでも殺意が溢れてきたんです。…姉上に対して」


「ああ…」


なるほど、そういうことだったのか。毎回毎回、そんな姑息な手段で…聖女だけが使える感情を扇動する魔法で、彼を操って。だから毎回、彼の瞳は涙に濡れていたのだ。自分でも、自分をコントロールすることができなくて。なんて、可哀想な。


「だから、あの女を殺せば治るかなって」


「それで?殺意は治った?」


「はい。今はいつも通り姉上を好きなままの僕です」


…さて。死ぬのを回避できたのはいいが、このままでは彼は確実に殺される。聖女を愛する者達に。


「…じゃあ、逃げましょうか」


「え」


「だって逃げないと、貴方殺されるわよ。確実に」


「でも」


「いいから」


私は彼の手を引く。


「今すぐ。着の身着のままでいい。逃げるわよ。ああ、でもそのナイフは途中でどこかで捨てましょうね」


「えっと、姉上」


「逃亡資金なら心配ないわ。私は今までお金をタンス預金してきたの。…これを持っていけば、しばらくは保つわ。さあ」


そして逃亡劇は始まった。












国は、教会は、平民達は。愛するべき聖女を殺した犯人を血眼になって探した。すぐに弟と私は疑われた。逃げたから。けれど見つからない。…見つかるはずがない。だって私達はあのマジックアイテムを譲ってくれた魔女に頼んで、髪と目の色を変えた上に顔立ちまで変えてしまったから。


「ありがとう、お陰で今のところ逃げきれているわ」


「それはおめでとう」


「私達ね、結婚することにしたの」


「姉弟なのに?」


「義理だもの。血縁者とはいえ、問題ない範囲だわ。それに今の私達は二人で旅をするただの平民の幼馴染。そういう設定だもの」


魔女はそれを聞いてケタケタと笑う。


「随分ご都合主義ね!でも、いいわ。祝福してあげる。あ、貸し出していたマジックアイテムは返してね」


「ええ、どうぞ」


「幸せになりなさいな」


「ありがとう」


今では私はお祖父様からもらっていた病もさらっと克服し、元気に生きている。全て魔女のお陰だ。魔女には感謝してもしきれない。


「じゃあ、行くわ。またね」


「さようなら」















やっと、罪滅ぼしが出来た。彼女は何も悪くないのに、いつも身体を乗っ取られたニセモノの私に利用される。


私は本当の聖女。幼い日に、魔女に身体を交換して遊ぼうと持ちかけられた。なにも疑いもせず同意してしまって、本当に身体を交換された。


私は身体を返してもらえないまま魔女として生きるしかなかった。ニセモノの私は逆ハーレムを作って、そして何故か彼女を殺した。


「でも、なにも出来なかった」


だから私は、時を戻すマジックアイテムを起動した。でも、幼い日に戻っても私は魔女のままだった。魔女はその辺りも含めて対策していたらしい。


そして私は、ならばせめて彼女は守ろうと何回もループした。けれど解決策は見つからない。


だが、突然それは終わった。なぜか彼女の弟がニセモノの私を殺したのだ。私では、元の身体への未練で出来なかった手段。彼は簡単にやってのけた。


「…正直、元の身体を取り戻したかったけど」


でも、もういい。彼女は生きている。それだけで充分。


彼女たちが逃げ果せるように、髪と目の色を変えて、顔立ちまで変えてあげた。それでも彼女たちのお互いを想う気持ちは変わらないのも見届けた。


彼女から返してもらった、不幸を肩代わりするマジックアイテムを起動する。今後一生分の、彼女たちの不幸を肩代わりする。


「こんなことでしか、罪滅ぼし出来なくてごめんなさい」


二人分の、一生分の不幸を肩代わりする。それは私の死を意味する。それでもいい。彼女たちを守れるならば。これが私の罪滅ぼしだ。


こんな罪にまみれた私でも。もし、転生が叶うのなら。


「また、彼女たちと会いたいな」


そして私は眠りについた。














魔女が死んだと人伝に聞いた。私はあまりに突然のことで泣き崩れたが、彼が支えてくれた。


その後、しばらく経って私は彼の子供を授かった。


そして今日、私は元気な女の子を出産した。


「この子の名前なのだけど」


「ええ、あの魔女の名を付けるのでしょう?」


「そう。でも、魔女としての名前じゃないわ」


「え?」


「彼女ね、真名をこっそりと私だけに教えてくれていたの。彼女の真名はね…」


可愛い可愛い女の子に、あの魔女の真名を。憎き聖女と同じ名前だとしても、どうしてもこの名前をつけたかった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 面白かった……! ラストがとても素敵でした。
[一言] 魔女自身が大切にしていた真名だからこそ 魔女に幸せをもたらしてくれるのだと そう信じています。
[良い点] 上手い! 見事な構成、予想を裏切られる真相でした! 結末を引き立る切なさのエッセンスが、またとてもエモかったです。
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