排除と共存
薬草を売る、店の様な露店が孤児院の隣にできた。
子供達が採取に向かう草原に行って、鎮痛剤や虫除けの他、腹下しの薬、傷薬ができることがわかった。
なかなか好評の様で売れ行きは上々だ。
マーケティングリサーチだと訳のわからない事を言ってノルは店で昼寝をしている。
最近益々猫らしくなって来ている。獣落ちの状態が長く続くとその様な症状も出て来るが、それにしても進行が早い、少し心配ではある。
猫が好きなのでついつい猫のつもりで接している私にも原因があるのではとも考えてもしまう。
早めに調査を終えて魔族領に連れ帰ってやらねばならないと思う。
虫除けの香の売り上げが良く無い。
他のものはそこそこ売れているのに香はあまり売れていない。
効果が無いのかと店から適当に選んで持って来て炊いて見たが問題ない様だ。
匂いが嫌われているのかと思い孤児や近所の大人達に聞いて見たが問題ない様だ。
何故だ、理由がわからない。
商売と言うものはやはり難しい。
夜いつもの様にノルを撫でながら相談してみた。
・・・ノルよ。寝てるのか?チョット相談事があるのだが。
・・・なんですか?俺の尻叩いて喜んでる変態さん。
・・・まだ根に持ってる、、猫は執念深いと言うが本当だな。
ちゃんと謝ったではないか。
・・・わかってるよ、チョット意地悪しただけですよ。
で、相談とは?
ノルは本当に仕事をしていたらしい。直ぐに答えが出た。
昼寝していただけかと思っていた事を素直に謝る。
ノルが言うには虫除けよりも殺虫剤が良いのにと言っている客が多いそうだ。
殺虫剤には微量だが人に害を為す成分も入っている。
そんなものは恐ろしくて作れない。
我々となんら変わらない同じ命を簡単に終わらせてしまう物だ。
虫除けをして網を天井から吊れば吸血虫は防げると言うのに、、、
魔族領ではこのやり方以外はしていない。
ノルは前世では日本と言う国で人族として生活していたらしい。
なので、こちらの世界の人族の考え方にも理解がある。
ノルの話では人族は害を為す虫や見た目がグロい?虫などは殺虫剤で排除されるのだと言う。
見た目だけで命を取られると言うのはいささか不憫である。
Gと呼ばれる虫は忌み嫌われ見つかったら最後、殺されるまで追いかけられるらしい。
害はなさないのに。
前世の人族の話であってこの世界とは違うかもしれないと前置きの後、衝撃的な話になった。
この行為は虫だけに留まらず、畑の作物を荒らす動物や人の脅威になる大型の獣も同じだと言う。
更には信じる神が違うだけで争いが起き、戦争が起こり沢山の命が失われているのだとも言った。
信じられない、、、
神は命の大切さを教えるものではないのか?
肌の色が違う、背が小さい、太っている、勉強が出来ないなど、他と比べて異形と思われる少数派も無体な扱いを受けるのだと言う。
ノルは前世ではこの少数派に属していたと言う。
皆と違う考えを持っているだけで排除の対象とされてしまうのだと悲しげに話してくれた。
人とはなんと弱く愚かな種族なのだろう。
そして残忍で利己的だ。
強いものが弱いものを虐げる、弱いものは更に弱いものを虐げる。
負の連鎖だ。
自分と同じでないと怖いのか?
皆同じ、そんな世の中、楽しいわけがなかろうに。
肌の色や出身地で迫害を受ける、、、
少しの違いで排除の対象になってしまうなら、
魔族など直ぐに排除絶滅させられてしまうかもしれない。
ノルのいた日本と言う国は狂っている様だ。
ノルいわく、日本はまだマシな方だと言っている、地球と言う惑星には沢山の国があり、もっと恐ろしい指導者の元、武器や兵器が進化して大量に作られ殺人機械の様な兵士を育て、互いに牽制し合っているのだと言う。
地獄の様な惑星だと言ったら、ノルは笑って
・・・そうだな
と、目だけは笑っていなかった。
・・・ノルの故郷のことを悪くを言ってしまった。
・・・すまない。
・・・良いんだ、本当の事だから、、、
魔族は共存を目指す。縄張りを明確にしお互い尊重し合う。
害獣や獣人、鬼人とも結界を張り、香を炊く事で諍いを避けて来た。
お互い気持ちよく暮らせるよう工夫している。
それが健全な社会では無いかと思う。
尊重し合い、助け合い相手を認めて許す。
なぜそんな簡単なことができないのだろう。
斡旋所で貰う仕事は薬草採取や荷運びが多い。
ペットの捜索はノルのお陰で直ぐ終わる。
街にいる野良猫はミルク粥一食分で迷子のペットを探して来てくれるからだ。
結構稼ぐ事が出来た。
最近は肉を時々食べさせてやっている。
給金の良い農家の手伝いや工事の手元は遊び人が優先されて紹介される。
予備兵役なのだから仕方がないのだと斡旋所の窓口は言う。
そろそろ目標額に近くなって来た。
ノルがここらで一発稼ぎの良い仕事でも貰って一気に目標達成だ。
と、意気込んでいるので斡旋所で相談してみた。
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