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クワンリの事情


魔族は嘘を付けない、思念と言う力があるからだ。

人は平気で嘘をつく、自分の利益のため、身を守るために。

しかし魔族は知っている、嘘を付くと後々自分が困る事を。



魔界との行き来が山体崩壊によって容易になった。人族の気球の進化もあるのだが。

山体崩壊により外郭山脈の一部が低くなり気球が魔族領に入りやすくなった為だ。

今までは外郭山脈の高度が高く気球が魔族領に入ってくることがなく山道を一ヶ月かけないと行き来ができなかったので、人族との交流はほとんどなかったと言っていい。


山脈には野獣や魔獣、鬼人や獣人と言った脅威が多く、山道の整備も進まず、歩いての行き来など酔狂な行いだったのだ。


山体崩壊が三ヶ月前、人族の気球が魔族領に降り立ったのが乾季の終わりのひと月前だ。

彼等は純度の高い魔性石を求めてやって来た。人族は魔力を持っていないので魔法を使う為には魔性石が必要となる。

魔性石は外郭山脈の外側から魔族領の中心に掛けて純度が上がる。

今までは外郭山脈の比較的安全な場所を選んで脅威と戦いなが魔性石の鉱脈を見つけて採掘していたらしい。

王国と言っている所からやってきたと言う。

人族は杖や剣など魔法陣を組み込んだ魔法を媒介する物に取り付けて魔法を使うのだそうだ。

私達も魔性石は使っている、灯りや水の組み上げなど魔力を常に必要とする設備や施設の魔術具に取り付けるのだ。


人族は我々魔族が嘘を見抜くことは知らない。にこやかな笑顔の後ろに侮蔑と嫌悪と恐れを隠している事などお見通しとも知らずに。

自分達がいかに強欲で冷酷な種族だとも知らずに。



今は雨季、風のめぐりが良くない。これから半年ほど乾季になるまで気球は山を越えられない。その間に我々は人族を研究して対処法を探すのだ。

人族と違い我々魔族は戦いを望まない。

好戦的な種族ではない。

魔族の寿命は長い、平均で250年といったところか。そのせいもあり子供が出来ずらい。

そう言った事情から争いを好まない。

お互い争ってしまうと直ぐに絶滅してしまう恐れがあるからだ。

お互いの縄張りを尊重して、パーソナルスペースを取る。

魔力が使えるので、欲も薄い、諦めも早い、また次があるからと思えるからだ。

鬼人や獣人などは次の食事が何時になるかわからない生活を送っている、その様な生活を送っていると強欲になり、お互いの財産を奪い合う行為をするのだ。

人族も似ている気がしてならない。

雨季の間気球で来ていた人族の選抜員が此処に残る事になった。

帰る気球には魔族側から正式な通商団が人族領に向かう。

嫌でも人族との交流が始まってしまうのだ。

戦争だの討伐だの物騒な事を考えているのが見え隠れしているので、苦渋の選択になる。


魔王様の元、魔族会議で隠密調査員が選抜された。

私もその一人だ。

人の社会を見て、一般の人達の生活を見て脅威となる事柄を探り報告書を作るのだ。

先が思いやられる。

果たして無事に戻って来られるのであろうか。


帰りの気球に30名の通商団が乗り込む、私達5名の隠密調査員も認識阻害と潜伏を使い乗り込んだ。

潜伏は存在感を消す事が出来る。

認識阻害は個人の印象を相手に残さない。

気球船はかなり大きい、乗組員合わせて200名ぐらいは乗っているのでは無いかと思う。

魔性石がそこかしこに使われている。

人族の技術は目を見張るものだった。

最初の視察地である採掘地近くの街まで2日なら問題ないだろう。

しかし人とは騒がしい連中だ、仲間同士あちこちで諍いを起こしている。

疑心暗鬼で弱い、それを他者に悟られたくないのだろう、虚栄を張っている。

2日だけだったが、船酔いと重なり気持ちが悪くなった。



最初の視察地に降り立った。

まだフラフラする。

覚束ない足取りで皆から離れ、一人になった所で潜伏を解除する。持ち物は旅用の背中に背負いこむ形の鞄(薬草を乾燥させて粉にして持ってきている)とクズ魔性石が入った腰巻鞄だけだ。

あまり純度の高い物や大きいものはトラブルの元になるだろうと、苦労して探したものだ。

これを換金して視察の資金にする様持たされた。

赤色のフード付きローブは人族の使節団の物を真似て着ている。

怪しまれないかと心が乱れるが、平常心が一番。

挙動不審が最も怪しまれるし目立つ。

これからの旅、嘘をつかないとならない状況が多くなるだろう。

それが一番の心配でありストレスになりそうだ。

今までは嘘をついた事が無いのだ。

本当に先が思いやられる。


街が見える丘の上に気球船は停泊したので、城が一望できる。大きな城だ。

城の周囲を取り囲む様に高い塀がある。よく見ると城の中にも小径の塀が二重にある様だ。

塀の外側には水路があり城の中の塀の水路と繋がっていて船が行き交っている。

城の規模が大きくなるにつれ塀が新たに作られているからなのだろう。

しかし、大きく立派な塀だが何から城を守っているのか、何に怯えているのか?

人族領では、魔族領にはいない大型の魔獣でもいて城を襲ってきたりするのだろうかと不安になった。

やっとの事で城に着いた、近くで見るとかなり高い塀だと感じる。石を切り出して積みかせねている。

水路に橋が架けられ塀が大きな門の様になっている所が城への入り口だ。

正式な通商団は馬が引いていない馬車!?に乗せらて一足先に入った様だ。

どうやって動いているのか?近くで見ていないので全くわからない。

馬のいない馬車なんて発想すら出てこない。

馬車はその名の通り馬がいてこその馬車なのだ。

人族の創造力と技術力にはほとほと感心させられる。

人族はやはり侮れない。

門の近くの水路には大小様々な船が停泊している。人を乗せている物、荷物を乗せた物、家畜を乗せているものもある。見ていて飽きない。笑顔が多く見える、活気があって面白い光景だ。思念を使おうと思ったが人が多すぎるので止めておく。こんなに沢山の人を見るのは神事の時、魔族会議以外には人が気球で来た時ぐらいしか知らない。


城の中に足を踏み入れた。

信じられない、一瞬呆然と立ち尽くしてしまった。

なんなんだここは、、、

全て石で出来ている、塀と同じだ。

道も建物も。

丘の上から見たときも違和感があったのだが近くで見ると違和感より驚嘆に近い。

建物は上に積み重なる様に作られかなり高さがある。

蛙柳の木三つ分ぐらいだろうか。

植物はあるのだが、石の間の僅かな土の隙間から生えていて不健康そうで可哀想になる。

馬なし馬車が行き交い私の横スレスレに通って行く。

恐ろしい。

突然背後から腕を引っ張られた、

見ると母ほどの年齢の女が眉間にしわを寄せている。


「危ないよお嬢ちゃんボーとしてたら、車に轢かれても文句言えないよ」


「す、すまない。田舎から出てきたので圧倒されて動けなかったのだ、気をつけるとしよう」


「やだようこの子は若いのに年寄りみたいな口きいて、ここは採掘屋が多くいる街だ、田舎者の嬢ちゃんには厳しい街さね、とっとと田舎にお帰り!じゃ気をつけて、車に轢かれるんじゃないよ」


物騒なことを言って女は高笑いを残して去って行った。


馬なし馬車は車と言うらしい、分かりやすい、馬を取ったから車になるのは道理だ。


街だと、城ではないのか、、?

石の要塞の様な所に住んで居ると言うのか?

大きな城だと思っていたが、街だったとは。

魔族の街はほとんどが平家で木造建築なのだ。

気候が良く暖かい。

地震が多いのでこんな石造りの積み重ねた建築物は倒壊の危険があるので、ほとんど作られない。


車が通る道と人が通る道が分かれている、人が通る道を進んでいくと広場に出た、広場の中には車は入ってこれないみたいで外周を忙しなく回っている。ここも石だらけなのだがなかなか広く空が広がっていて安心する。広場の奥の方にはさらに大きな建物が見える、倍はあるかと思う。そして他の建物とは明らかに形が違う、政治的な建物なのか宗教的な建物だろうと推測してみる。

広場の中心には円形の石造りの池があり池の真ん中から間欠泉の様に水が噴き出している。

変わった施設だが、なかなか気に入った。

水で冷やされた空気で汗が引いていく。

池の周りの石積みに腰を下ろし一休みをする。


これからの計画を立てなければならない。

同胞よ待っていてくれ。


2話目です。

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初心者ですが何卒ご贔屓に!

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