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21 ドランジュ卿の夢幻


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜



 約束の晩。



 不審がってエマが警備をつけるようならやめようと思ったが、エマはそうしなかった。姉にも話していないようだった。



 今晩も時間が早い。しかし、この後も深夜に任務がある。




 ジャックが言うには、今日はエマはラウンジに顔を見せなかった。そのため、カミーユは一日待ちぼうけだったと言う。



 それが、今晩自分に会うためだとしたら…

 アンリに少しの期待が湧く。



 階上で扉の開く音がする。



----

Where are you now?

I'm inside

----


 カードが降ってきた。


 逸る気持ちを抑え深呼吸する。アンリはフードを目深く被ると上に登った。




 バルコニーに人影はなかった。バルコニーの入り口にはレースのカーテンが揺れている。その向こうに、バルコニーに背を向けるようにエマが腰掛けているようだった。


 ティーテーブル脇の椅子をカーテンの傍まで寄せ、室内に背を向けるように腰掛けた。



「お招きありがとう」

 アンリは背後のエマに声を掛けた。初めて交わす言葉だ。


「いつ現れるのかと… カードが積み上がるばかりで」

「… 僕を待ってくれていたの?」


「初めは、別の方だと… 」

「… ベントレ卿だと?」


「… ええ。でも違うと最近気がついて…」

「僕の顔も名前もわからないのに?」


「選ぶ詩も、言葉も、文字も… 」

「気に入ってくれたなら嬉しい… 」


「お会いするのは初めて?」

「いや… 子どもの頃にも。最近は、庭園で。あなたが僕に見せた笑みが… 僕の心から離れなくなってしまったんだ」


「… 庭園… やっぱりね。カフリンクスはお手元に戻ったかしら?ロミオ?」


「え?」

「今日はどちらの髪? 琥珀色?それとも銀色?」


「きみは、僕が誰か知っていてここに呼んだの?」

「カミーユじゃないと気づいてから、よく考えたの。誰かわからないのに招くほど、不用心じゃないわよ?」


「… そう…」

「あなたが今、名乗りもできず、顔も見せられない理由もわかるから、言わなくていいわ」


「姫は、やっぱり、何枚も上手だな…」

「ふふ… 本当は、庭園で私に話し掛けるつもりだったのでは?」


「あぁ… 足がね、勝手に… きみに引き寄せられた」

「追い掛けて来て欲しかったみたいよ? あなたの姫は」


「知っていたら、きみを追い掛けて、攫って、今頃はどこか遠くにいたかもね?」

「でも、そうしないでしょう?」


「しない」

「その時が来たら?」


「迎えに来る」



 アンリは衝動に駆られて、後ろを振り返る。



 エマもゆっくりと振り返る。





 気がついた時には、薄いゆったりとしたドレープのカーテン越しにエマを抱きしめていた。カーテン越しにした口づけは甘かった。



 エマはそっと二人の間のカーテンを取り除くと、アンリの手を握る。アンリもエマを手繰り寄せた。






 その日から毎晩、アンリはエマを訪ねた。


 式典が終わった晩、アンリはエマを迎えに行った。夜闇に紛れて、ミュゲヴァリ領の港まで馬を飛ばした。

 途中の野宿だって二人一緒なら楽しく幸せを噛み締めた。



 港に着くと、ニーレイの商船に乗り込む。

 商船は二人を乗せると外海を半島の沿岸の街に寄港しながら、内海に入った。


 内海に入っても、エマの船酔いは続いた。三ヶ月後、内海の小さな島国に着く。

 ニーレイの手引きで、アンリはその国の貴族と養子縁組が成され、身寄りのない老伯爵の跡取り夫妻として二人はそこで貴族として生活を始めることができる。



 船旅が終わり、一通りの整理が済んだとき、エマに新しい命が宿っていることがわかった。

 アンリとエマは、新しい生活と二人の愛の証を得たことに歓喜した。





〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜





 アンリは飛び起きた。

 そこが、シエンタの寝室だと気づくまでに暫く時間がかかる。



 汗を拭いながら、時計を見ると眠り直してから大した時間は経っていない。




 都合のよい夢だった。

 こんな無責任なことをエマはしない。まるでエマを冒涜している。

 エマだけでなく、アンリ自身をも。

 非現実的だ。


 その一方で、抱いたエマの感覚が艶めかしい。

 不埒な思いを断ち切るため、浴室のたらいに張った水で顔を洗う。



「エマ… 」

 顔を洗ったぐらいでは、エマの記憶は簡単に消えそうもない。





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