第7話 転生魔法発動
ピチョン……ピチョン……
外で雨でも降っているのか、地下牢にはどこからか天上から滴る水滴の落ちる音が響いている。
ガチャンっとドアを開く音がする。
腹時計から今は食事の時間ではないはずだ。
俺はベットから飛び起きる。
「セバスチャン!」
以前の面会から5日近く経っただろうか?
陽の光の一切届くことがない、地下牢での生活は時間間隔を狂わせる。
「……お調べして参りました」
「あ、ああ」
セバスチャンの姿を見た時、俺は言いようのない違和感を覚える。どこか俺とセバスチャンとの間に壁を感じるというか。
「結論から先に申し上げますと、今回の謀略の首謀者についてはいまだ不明です。ベェルガー商会の告発者、エイブを洗ってみましたがまったく手掛かりはなく、すでに暗殺されているため尋問することもできずでして。後、残念なお知らせですが……」
「はい……」
「殿下の処刑が決定しました。今から25日後です」
「はっ!? 俺は無実だぞ! それを処刑だなんて! 父上と母上は一体何しているんだっ!」
俺は思わず腰掛けたベットから立ち上がり、鉄格子を思いっきり掴んでセバスチャンに詰め寄る。
「…………残念ながら、王族の殿下の処刑が決定した……ということは、お父上のマグレガー王がそのように判断したということになります」
そのように判断した?
俺がクーデターを首謀したと?
出来損ないの愚息のこの俺が?
そんなことがあるのか……あり得るのか……。
息子なんだから父はきっと助けてくれる。
俺が抱いていた希望的観測はものの見事に粉砕されて崩れ去る。
呆然とする中、母と妹の姿が俺の脳裏に浮かぶ。
「母上とティアナは……ベェルガー商会も俺のせいで不利な立場に追いやられてはいないでしょうか?」
「………………」
俺のその言葉を受けてセバスチャンは目を見開いたかと思うと、瞑目して沈黙する。
再びその瞳は見開かれるが、それは剣呑なものへと変わっている。
そして小さな声でぼそりとつぶやく。
「おめでたい道化だな」
「え!? 今なんて?」
セバスチャンは突然、立ち上がり俺に背を向ける。そして――
「お前に取れる手はもう一つしかないはずだ」
「なんだって!? ちょっとまっ……」
そういうとセバスチャンは無言で足早に地下牢から出ていく。
言ったよな……今、俺のこと、おめでたい道化だって。
その時、はじめて俺の脳裏に、もしかしたら謀略の首謀者にはセバスチャンも含まれていたのでは?
という疑念が生じる。
まさかセバスチャンが……。
金、それとも、名誉でつられた?
何か俺の知らない弱みを握られている?
あの誠実で実直なセバスチャンが?
彼が俺の前で見せていた顔は実は仮面でしかなかったというのか……。
後、セバスチャンは、お前に取れる手はもう一つしかない、とも言った。
どういうことだ一体?
……まさか、自殺しろということか?
「くそっ!」
俺は鉄格子を思いっきり蹴っ飛ばす。
ガチャンという音が地下牢内に鳴り響いたが、頑丈な鉄格子はビクともしない。
こんなことなら……。
王族だからと甘えずに本気で人生を生きていたら――
もしかしたら同じ状況に陥っても見限られることはなく王から助けの手が差し伸べられたかもしれない。
自力でここから逃亡できるだけの実力を兼ね備えていたかもしれない。
処刑は……おそらくギロチンによる斬首刑だろう。
公共の処刑場で衆目を集める中、執行されるはずだ。
死。
今までの人生でほとんど意識すらしたことがなかったその概念。
嫌だ……死にたくない!
俺に将来に何か明確な目標がある訳ではない。
だが、何物かには成りたかったのだ。
まだそれが何かは分かっておらず、どの道を進めばいいかも分かっていない。
好きな冒険小説や伝記や歴史小説を読んでいく内に、いつか漠然と自分も……と思っていた。
死自体がそこまで怖い訳ではない。
だがこのまま自分が何物にもなれず、そして何も成さずに死んでいくのは辛かった。
このまま誰にも知られることなく、忘れ去られていくのか。
死にたくない……
(お前に取れる手はもう一つしかない)
セバスチャンが言ったそのセリフをまた思い出し、俺はまるで死んだようにフリーズする。
そしてはっ、と前に不思議な老人から授けられた転生魔法について思い出し、思わず呟く。
「そうだ、転生魔法……」
それは不思議な老人だった。
老人と最初に会った時に感じたのは妙な既視感だ。
だが俺の記憶には老人の記憶はなく、出会うのも間違いなくはじめてのはずだ。
長髪の白髪を後ろで束ね、魔道士のような白いローブを着ていた。
それでいて、訪問してきたのは商人で古書を取り扱っているという触れ込みだった。
珍しい古書についていくつか紹介を受けた後、珍しい魔法を知っているという。
なんだと聞けば転生魔法とのことだった。
半信半疑でその転生魔法を教わると、その転生魔法は俺の脳に染み込む様に不思議とすぐに馴染んだ。
「殿下、この魔法は決して誰にも話してはいけません。執事さん、あなたもですよ」
そうだ、その転生魔法を授けられたその場にはセバスチャンもいたのだ。
そして転生魔法を授けられた後はきつく誰にもいうなと釘を刺されたっけ……そう言えばあの……いや、あれはもはやいいか……。
俺は記憶を頼りに半信半疑で転生魔法を発動する。
最初は何も起きなかったが少しすると俺の体の周りに光の粒が現れた。
<<転生先はどこに?>>
俺の脳裏に問いが浮かぶ。
……転生先は王都。マグレガー王国の王都のどこか。
すると、光の粒はどんどん増えて、薄暗い地下牢がまるで昼間の地上のように明るくなっていく。
<<転生する時代は?>>
……今から1年前に記憶を取り戻すように。
<<転生する年代は?>>
……いまと同年代で。
<<他の要素はランダムとなります>>
その後、辺り一面が眩い光に満たされて目も開けていられなくなり、しばらく目をつぶっていると――
<<発動期限半年間>>
最後そう脳裏に浮かんだ後に魔法発動が終わったようで、元の薄暗い地下牢へと戻っていた。
「転生魔法は……発動は成功したのか?」
思わず声に出して呟くが、それを知るすべは俺にはなかった。
先ほどまでの明るかった地下牢は嘘のように不気味な闇が支配していた。
【※大切なお願い】
少しでも、
「面白い!」
「続きが気になる!」
「更新頑張って欲しい!」
と、思って頂けましたら、広告下の【☆☆☆☆☆】より評価頂けると、作者の大きなモチベになります!
またブクマもして頂けると、大変うれしいです!